ここは?
「ん……」このまま眠っていたいという欲望を我慢して目を開ける。こんなに寝たのは久しぶりだろう。
あれ、でも私車に轢かれなかったっけ?…
思い切って目を開けてみた。すると、そこには私の知らない世界が映り込んでいた。辺り一面に森。ここはさっきまでいた星ヶ丘という場所ではない。
これはいわゆるあれだろう。図書館で人気のあったあれだ。確かーーーー「異世界転生」と言うやつだ。
正直な話死んだことも別の世界に来たことも実感はまるでない。でも、私はいるのだ。この地に足をつけている。
この世界では、前にいた地球とは違った幸せな生活が出来るといい、そう願っていた。
でも私はこれから何処へ行ったらいいのだろうか。この世界のことを何も知らない。何か知っていたとしてもお金が無いのだ。お父さんの財布から盗んだお金はもう底をつきそうだ。あと351円しかない。この世界で使えたとしもまともな買い物は出来ないだろう。
職はつけるだろうか。私はまだ14歳だ。14歳でできる仕事なんて無いだろう。
家はあるのだろうか。また路上で生活しなくてはならないのか…
頭の中は新しい世界での生活を期待しつつもほとんどが不安で埋め尽くされていた。
それでも前に進むしかない。それしか私には残されていないのだから。
私は意を決して前に進んだ。進んでも進んでも木。それでも諦めずに歩いた。
それから約1時間後。諦めずに歩いていると、何かの気配を感じるのだ。何かは分からない。だが、それが命を脅かすものであると直感した。
それがわかった今。取るべき行動はたったひとつ。逃げることだ。
私は一生懸命走って逃げる。何かわからないものから逃げる。とにかく走る。走っていると気配は遠ざかっていき、このまま逃げ切れるだろうと思ったその時、足が木の枝に引っかかってしまった。体勢が崩れ滑り込んでしまう。
それまで遠いと思っていた気配がすぐ後ろにある。恐る恐る振り返ってみると、そこには狼のような姿の動物が牙を剥きながら近づいて来ていた。
食べられる。
目を瞑っていると……………
痛みは、来ない。生きて、いる?
恐る恐る目を開けるとそこには耳が長く、髪の色が緑色の女の人がいた。これがあの有名なエルフ…。実在したとは。
「大丈夫?」エルフのお姉さんは優しく問いかけてくれた。
「え、えぇ、お陰様で……。もしかして助けてくれたんですか?」
「それ以外に何があるの、もう、狩りに出たら小さい女の子がドッグウルフに食べられそうになってるんだもん」
ドッグウルフ…恐らくこの狼の名前だろう。犬、狼……直訳すぎる…。
「すいません、わざわざ助けていただいて…なんとお礼を言ったらいいか…」
「お礼なんていいのよ。貴女が無事なら」
エルフのお姉さんはとても優しかった。
「貴女、こんな森に1人?お父さんとお母さんは?」
お姉さんは優しいから聞いてくれるんだろうけど、私からしたら両親というものは憎しみの塊でしかないから話したくはなかった。
「いない、んです。気づいたらここにいたので…」
「そう。なら私の村に来るといいわ!歓迎してあげる!きっと住むところもないんでしょ?」
「はい。住む場所もなくて……お金も、ないんです。」恥ずかしくなりながら答える。
「なら尚更村に来るといいよ。その代わり働いてもうぞ〜」
「いいんでしょうか?私なんかが……」
「いいっていいって!じゃそうと決まればしゅっぱーつ!私に付いてきて!」
お姉さんはとても優しかった。この世界に来てわずか1時間で住まいまで提供してくれるとは。働き手も見つかったし……幸せだ。私はエルフのお姉さんについて行くことした。
「こんな所にも迷い子が………」
エルフのお姉さんはなにか呟いたように思えたが私には聞き取れなかった。