笑っていれば福が来ると信じていた。【2】
行くあてもなく1ヶ月も路上生活をしているのではない。家を出る何週間か前。市の図書館のパソコンからお母さんのTwitterを見た。そこで見た風景、食べ物、色々なことを調べた。何回も図書館に通った。するとお母さんは愛知県にある星ヶ丘駅という場所の周辺に住んでいることが分かった。
私が今いる場所が、えーと、標識……一社駅という場所であり、星ヶ丘駅の隣の駅になる。私が元々住んでいた場所が兵庫県からだったのでとても長い距離を歩いたことになる。
歩いた距離はこの際どうだって良かった。お母さんに会えれば。お父さんと一緒ではなくお母さんと一緒に暮らせれば…
それから3日後。めげずに探していた私は星ヶ丘駅の近くにあるファミリーマートの前でお母さんらしき人を見かけた。いや、お母さんだったのだ。とても嬉しかった。幸せだった。会えてよかった。私の頑張りは無駄じゃなかった!
「お、お母さん。」声をかけてみる。
「ッ!?」驚いている。それもそのはずだ。会うつもりなんてなかったのだろうから。だが、返される言葉は予想もしてなかった事だった。
「なんで、あんたがここにいるのよ!」
「え…」
「あんたとあのクソがいたから私は家を出た。殴られるのが痛かったから。私が殴られなくなればそれで良かった!あんただけ殴られないなんてずるいじゃない!あの家で、あんただけ殴られてれば良かったのよ!」
これが、お母さんの本心なのだ。お父さんが嫌いだったからじゃない。私の事も嫌いだった……。
私は悔しかった。こんなに頑張ったのに。こんなに疲れたのに。お母さんを信じてずっと笑ってきたのに!大好きだったのに!
私はその場から走り出した。ずっと見たかったお母さんの顔が今では見たくないものに変わっいた。
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放心状態のまま歩いていた。本当に行くあてが無くなり、どうしていいか分からずにいた。
歩いているとクラクションが鳴り、横を振り向くと今にも当たりそうな距離に車があるのだ。あーあ、信号確認し忘れてた…
ガシャン!
車が私にあたり痛みが全身に回っていく。痛い。痛い。痛い。嫌だ!もう、こんな人生嫌だ。笑っていたのに!辛くても笑って生きてきたのに。福なんてひとつもやって来なかった!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!
あぁ、そうか。そうだ。なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
笑っているから福が来るのではなく、福が来てるから笑ってるんだ。
私の意識は遠のいていった。