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余は「ラーメン」を所望する!

ここはとある山奥にある一軒家、『処坊荘(しょぼうそう)』。


名前こそ貧相だが、実際の所は豪華絢爛、風光明媚。圧倒的な広さを持った、由緒正しきお屋敷である。


また、ここには何百もの召使いがおり、その全てが「殿」の為に働いている。して、その殿と言えば……



「遅い、何をしておるのだ」



怒っているようでもなく、しかし問い詰めようとしているようでもなく…淡々と答えるこの男こそが、「殿」。

若くして殿の座に就いた彼は、今日もいつもと変わらぬ様子で召使いを呼ぶ。



「余はラーメンを所望しておるのだが?」


「は、只今お作りしておりまして…もう少々お待ち頂ければと」


「そうか。くれぐれも…『間違わぬように』な」


「…は」










「お持たせ致しました。『ラーメン』で御座います」


「うむ。では早速」



召使いがラーメンを殿の前へ運ぶと、殿が満足げに、しかしどこか不安げにラーメンを口に運ぶ。



「お味はいかがですか…?」



召使いが不安そうに訊く。



「うむ。悪くない」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「いや、まだわからぬ。…もう少しだけ、待ってやくれぬか」



「悪くない」と言われ一気に顔が晴れた召使いに対し、殿が上目遣いで頼み込む。



「うっ………わかりました」



召使いは一瞬、眉間に皺を寄せ険しい顔をした。しかしすぐに先程の笑顔に戻り、殿の側に寄る。



「あの、差し支えなければ、今の内に『ビニール袋』をご用意しても…?」


「………そうだな。おい!」



召使いの意見を承諾した後、大きな声で他の召使いを呼ぶ殿。



「はい、ご用件は何でしょう?」



殿の為の召使いがもう一人、呼び掛けに応じ即座に現れる。



「うん。あの、その、だな…」


「どうされましたか?」



口籠る殿を見て笑顔から一転、神妙な顔つきになる召使い。



「び、ビニールぶく…う!!!!」


「ヒッ!!!」


「ビニール袋…をゴボゴボゲボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!!!ウゲェ!ゴボゴボゴボゴボ──」



際限なく出る茶色く汚らしい液体。悲鳴を上げる召使い。

今宵も、正しく『地獄絵図』の完成である。












「今日も今日とて、散々な目に遭った」


「…申し訳ありません」



先程とは違い、少し怒り気味に言う殿。そして、ただひたすら平謝りをする召使い。



「おい」


「はっ」


「あのラーメンは何だ」


「…ラーメン、ですが」


「『どこのラーメンだ』と聞いているのだ!」


「……」


「答えろ!」


「……ちゃ」


「『ちゃ』?」


「『チャルメラ』…です………………」


「………………」



まるで異性に裸を見られたかのような、「辱めを受けた」と言わんばかりの召使い。そして、その召使いの言葉を聞き唖然とする殿。



「ちゃ、チャルメラ…」


「…はい。ちなみに、醤油味…」


「味なんてどうでも良い!」



余計な付け足しをする召使いを一蹴する殿。



「…チャルメラを処分しろ」


「…は?」


「チャルメラを処分しろと言っている!忘れたか!余が受け付けるラーメンは何だ!言ってみろ!」


「サッポロ一番、です…」


「そうだ!…処分しろ、早急に」


「はっ。仰せのままに…」




















夜。皆が寝静まった後、薄明かりを付け、愚痴を零す者が一人。



「…余だって、好きでああなっているのではない」



そう、殿である。



「余は…余は、特定の物のみを食べたいのではない。チャルメラも食べたいし、マルちゃん正麺も食べたい。だが…ダメなのだ。…仕方ないだろう!余はもうそういう体に生まれついてしまったのだから!この体はきっと…そう、呪いだ!余を蝕む呪いだ!胃が邪毒に呑まれてしまったのだ!余が所望する限り、召使いの気苦労は絶えないだろう。だが!余だって食べたい物を食べたいのだ。多少の犠牲は仕方あるまい…」

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