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村人Aの英雄譚 凡人は転生しても凡人?  作者: 如月 楸
第1章 冒険者【村人A】
7/7

少年の盗賊


 蜃気楼の向こうに捉えた人影がゆらりゆらりと揺らめきながらこちらに向かってきている。

 人数までは把握出来なかったがこうして目を凝らして見てるうちにもその影達は次第に大きさを増して言っている。


 やばい。


 覚醒した意識は体を起こそうとするが、伝達された命令は悉く跳ね返され依然横たわったままだ。

 限界を超えた肉体は四肢の感覚を奪い取り、一度止まってしまえば行動不能に陥るのは至極当然であった。


 一心不乱に近づいてくる影達はこちらがその存在に気付いた様子は全くなく対面するまで刻一刻と迫っていた。


 やばい、やばい。どうにかして逃げなくちゃ・・・

 でも今の状況じゃ体が動いたとしても到底逃げ切る事なんてできない、それにいざ戦闘となったらそれこそ一巻の終わりだ。

 付け焼刃の剣術なんて本職の人間には敵わないことくらい素人の僕にも理解できる。


 近づいて来てるとは言えその距離は未だ遠く、今であればまだ逃げ切れる可能性は十分にあり得る。

 しかしそれにはこの足が走れるようになってからの話だ。



 絶体絶命な状況に陥ってはいるが、諦めるには早すぎる。

 逃げるのが難しいなら逃げなければいい、戦うのができないなら戦わなければいい。

 

 頭を使ってこの場をどうにか凌ぎきればいいのだ。

 



 僕の考えた作戦はとてもシンプルなものだ。


 旅を始めて数時間しか経っていない僕は実力は皆無だが、見た目だけはそこらの冒険者よりも立派ななりをしている。


 特にこの腰に据えてる剣がかなりカギになってくる。

 全身を覆う鎖帷子(くさりかたびら)は銀一色で味気ないが、宝飾が施された鞘が据えられているだけでなんとも言えぬ空気感(オーラ)を纏うことが出来ている。


 その空気感を操って場を掌握する以外に道はない。

 もしそれが失敗したら・・・



 

 影はいつしか蜃気楼の向こうにはなく土煙をあげながら着々と進行してきている。

 僕は心を落ち着けるため耳だけに神経を集中させ目を静かに閉じた。


 音だけの世界になった荒野は想像以上に静かで地面を駆ける軽快なリズムのみが僕のもとに響く。

 


 まだだ・・・まだ、その時じゃない。あと少し・・・

 荒野を駆ける足音は消え一瞬の静寂が訪れる。


 それとタイミングを合わせるように大きく吸い込んで目を見開き、腹に力を込め放った。



 「止まれっっっ!!!」



 叫び放った声は大小の岩しかないこの荒野では反響することはなく、ただ風に乗り遠くへ運ばれていくだけだった。

 それでもこちらから仕掛けた第一手は成功だとすぐに確信できることとなる。


 うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!


 と尻もちをついて後ずさる少年の姿をぼやけた視界の端に映った。

 焦ってはいけないと強く自分に言い聞かせながらも堂々と体を起こしていく。


 短いながらも動くには十分なく休息得た四肢たちは今度はすんなりということを聞いてくれた。


 立ち上がるころには見開いた衝撃で眩んだ視界も回復し、目の前に広がる光景をすぐに理解した。


 が、しかし、理解と同時に驚愕もした。


 なんと僕の前に立ちふさがった盗賊と思われる三人はどう見ても少年なのだ。


 おいおい、うそだろ・・・

 全身は薄汚れており、所々敗れた服を身に纏った少年たちがこちらに刃を突き付けている。


 僕はこの子達を斬らなくちゃいけないのか、そう思うだけで固く決意した闘争心がこぼれていく。



 「おい、ボボ大丈夫か!大丈夫なら返事をしろ!」


 「う・・・うん、大丈夫。でもこの人起きてるよどうしよう」


 「くそっ・・・ユン!ボボを連れてここから逃げろ!俺はここで時間を稼ぐからっ」


 「サダムはどうするの!」


 「俺も後から必ず追いつく、こいつの金品掻っ攫って必ずだ!」


 

 少年とは言えど十やそこらなのは見るからに明白だ。

 そんな彼らの生死を今僕が握ってると想像するだけでどうしようもなくつらい。

 

 多くの思いが僕の中で駆け巡るがそこに目の前の少年達を切り捨てるという選択肢は一ミリも浮かばなかった。

 今まで腰の剣に手を置いていたが戦闘する意思がないことを示すように両手を上にあげる。


 そして、二人の仲間を助けるために残るとこを宣言したサダムと呼ばれた少年に目を向ける。


 「僕は君たちと戦うつもりはない。いくら三人とは言え鎧を着ている僕に君たちの武器では倒すことはできない」


 サダムは眉にしわを寄せこちらを睨み、今にも飛び掛かってきそうだ。

 後ろに隠れている二人もこちらを注意はしているが多くは目の前の少年に注がれている。


 「改めて言うが、僕に戦う意思はない。君たちを見逃してあげると言っている。指示に従えないのであれば斬らなくてはいけない。どうか、この剣を抜かせないでくれ」


 「そんなの信用できるわけねぇだろ!こっちはお前の言う通り勝てるわけねぇ。だから・・・」


 サダムは張れるだけの虚勢を目一杯張り僕に吠える。

 

 「剣を捨てろ。そうすれば俺たちもいくらか安心して背向けて逃げれる」


 「わかった。君がそれで逃げるというならそうしよう」


 「わかってくれて助かるよ。寝込みを襲うならどいつが相手でも関係ねぇけど起きてるとなっちゃ話が変わってくるからなぁ」


 これで戦わずに難を逃れることに強い安堵を覚え、視線をベルトの留め具に移し傷つけぬよう丁寧に外し足元に置いた。


 「さぁ、剣は置いた。君たちも早くここから立ち去りなさい」


 顔を上げながらそう伝えたが先ほどまで目の前にいたサダムと呼ばれていた少年が見当たらない。

 もう逃げたのかそんな楽観的な考えに至ったが直後、後頭部に強い衝撃が走り地面に体を打ち付ける。


 朦朧となる意識の中、バーカと罵る声だけを聴き彼らは盗賊なのだと再確認するが既に手遅れだった。


 


 

 

読んでいただきありがとうございます。


分かってはいましたが主人公が弱すぎて悲しいです。


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