村人A、冒険にでる
砂っぽく乾いた風が時折吹く荒野を一人、ひと際大きな音を立てながら歩くものがいた。
その者は全身を鎖帷子で覆っており、腰には立派な装飾が施された剣が据えられている。目線は高く、ゆっくりとその鉄達を擦り鳴らし一歩づつこちらに近づいてきていた。
見るからに強者であるその者を襲うかどうか彼らは迷っていた。けれど、この機を逃せば次のチャンスはいつ訪れるか見当もつかない。
緊張感はピークに達し生唾が喉を通る音さえもはっきりと聞こえた。
気づかれてはいないかと岩陰から眼だけを覗き込んでみるがどうやら杞憂だったようだ。
安堵からか盗賊のひとり、ボボは仲間の方を振り返り今にも泣きだしそうな口調でこう言う。
「あいつ明らかに冒険者だよ。オイラ勝てる気がしないよ・・・死にたくないよ」
ボボの言うことは仲間の残りにもしっかりと理解できたが、その気持ちをぐっと握りつぶし言い返したのは三人組のリーダーサダムだった。
「おいボボ!いくら冒険者と言ってもこっちは三人だ。全員で一気に襲い掛かれば勝機はあるはずだ。それに、どれだけ弱音を吐いてたって俺たちのやることは変わらねぇ!アイツに殺されなくたって何の手柄もなくアジトに帰ればどうせ俺らは殺される運命だ・・・やるしかねぇんだよ」
「そうだけど・・・オイラたちだけで倒せるなんて思えないよ。ねぇユン?」
そう問いかけられた男は静かに首を横に振った。
ボボは思っていた回答とは違ったものが返ってきたため、目を見開いてユンを見たが彼の目線は別のところに向いていた。
ユンは隠れていたはずの岩陰からは大きく外れ、冒険者を一心に見つめていた。
「襲うならいま・・・見ればわかる」
言葉少なにそういった彼は冒険者がいる方を指さした。
震える脚に鞭打ち、ユンの傍まで駆け寄るとそこにはぐったりと横たわり休息をとっている先の者の姿が目に入った。
砂っぽく乾いた風が時折吹く荒野を一人、ひと際大きな音を立てながら歩くものがいた。
その者は村を出てから既に三時間は歩き続けているが目的地は一向に見えてこない事に孤独と絶望を感じていた。
最初は鬱蒼と生い茂る林を進んでいたはずなのに気づけばこの太陽降りしきる道なき荒野を歩いている。
オススメされた鎖帷子は想像の十倍重く通気性もかなり悪い、さらには炎天下なのも相まって半年間の農作業と一か月の特訓で得た体力を簡単に奪っていく。
村長から授かった村一番の剣は見た目は豪華な装飾がされていてめちゃくちゃかっこいいが今となっては歩きずらいし重いしで捨てていきたい気持ちでいっぱいである。
体力の件もさることながら、一番の問題は出発する前に村のみんなから十二分に注意して飲むよう言われた水は底が見え始めていることだった。
「あぁぁぁぁ、家にかえりたぁぁぁいぃぃ~~~!」
叫ぶにはいられず吠えたが、乾いた喉は震えず掠れた音が荒野の風に攫われていった。
☆
王都を目指すにあたって聖女様は僕に助言をしてくれた
「ハヤト様、現在この村から王都に向かう手段はいくつかありますが残念ながら一番安全に行く道は現在封鎖がされていて通れません。
そのせいで荷馬車もこの村には来ることが出来ません。なのでまずは、ここから西にまっすぐ進んだ先にあるブルックスという街に行ってもらいます。
そこに行けば王都に直接行ける荷馬車があるはずですからそれに乗ってください」
「でもここから西って盗賊がいるって聞いたことがあるのですが・・・」
「はい。いますがそれがどうかしましたか?」
「どうかしましたかって、そんなの出会ったらひとたまりもないじゃないですか!」
はぁとため息を吐き、
「先ほど言った封鎖されている理由は指定危険生物が出ているからです。指定レベルは一番低いものなんで王都から派遣された討伐部隊とここら一帯の盗賊たちで駆られるでしょう。なので今の時期ハヤト様がお通りになる場所には盗賊はいないと考えられます。
ですが勘違いしないでください。ハヤト様は冒険者、盗賊を駆除するのも仕事なのです。そういう道を自ら選んだということをゆめゆめ忘れないでください」
「う、うん」
聖女様の強く訴えかける言葉に威圧された。
それによって自身の認識の甘さを痛いほど実感し、改めて冒険者というものがいかに危険なものなのか理解した。
それと・・・と聖女様は続けてブルックスの荷馬車に乗る際にかならずこれを渡してほしいと一枚の便箋を渡した。
☆
聖女様にブルックスまでの詳しい道順をきいておけばよかったと後悔するが、自ら見知らぬ地を進むことの困難さを知れたことは幸いだった。
きっと同じミスは二度としないとこんなに強く思ったことはない。
わずかな体力は気力のみで引き出してきたが、ついに脚が止まった。
「休憩するか~」
ちょうどよい高さの岩を探しその岩陰で腰を下ろした。
一度止まった脚は鉛のように重くその場に固まり動くことを許してくれそうになかった。
それにいくら聖女様が大丈夫だと言ってもここは盗賊のテリトリ―だ。
いつ襲われてもおかしくない状況にかなり精神をすり減らしていたようで次第に瞼がおりてきてしまう。
危険だがしょうがない、今日はもう休もうと決心し装備も外さずそのまま横になった。
焼けるような陽を放つ太陽は未だ空の中央に陣取りその存在を世界に示してるようだった。
それから逃げるようにより岩陰にの隅によって視線を反らし眠りに就こうとしたとき、蜃気楼の向こうに人影を確かに捉え意識は覚醒した。あれは・・・
『盗賊だ!』
ここまで読んでいただきありがとうございます。
察しのいい方ならもうご理解していると思いますが、名前が判明した盗賊・・・そういうことです(笑)
ここから村人Aハヤトの冒険譚が始まります。
感想、評価お待ちしてます。次回もお楽しみに!