すぐに折れる心
ここは村中心にある冒険者ギルド。
現役冒険者がいないこの町では新たな冒険者の登録すら見たことのない人の方が多い。それらも相まってかなりの見物客が集まっている。そんな中、勢いあまって窓口を間違えたことで出鼻を挫かれたがめげないぞ。決してめげないけど恥ずかしさで死にそうだ。
「ハヤト様お待たせしました、それでは冒険者登録の手続きの説明を行います」
そういって石板のようなものをもって現れたのはこの村唯一聖女様だ。
神への信仰心が高いこの国では各町村に王都直属の聖女が派遣される。この村には教会などは存在しないがこのギルドの奥にある小さな祭壇で祈りを皆ささげている。
僕も用事で何度か聖女様が何やら難しいことをしているのを目撃している。
「では、まずこちらに手を置いていただいてよいでしょうか?」
目の前に置かれたのは石板かと思ったが、目の当たりにすると全くの別物だった。
クリスタル状で出来ているであろうそれは照明の光を吸収しているのかきらきらと輝いている。中心には手形のような窪みがありそこに置くよう指示された。
「軽く魔力を込めていただければよいのですが、ハヤト様は魔力の扱い方を学んでいらっしゃらないので少し手荒ですが仕方がありません」
僕が戸惑った表情を聖女様に向けるが目を合わせることもせず両手を僕の手にかざし、何か口ずさんだが唐突な鋭い痛みに音は拾えなかった。
「いっっっったっっ!!!!
ちょっ!え、え、、あの、、、聖女様・・・?」
反射的に│石板≪クリスタル≫から手を放してしまったが、クリスタルには血が這うように表面に広がりだんだん染み込んでいっているようだった。
石板と聖女様を交互に見てると
「はい、痛いです」
と淡々と告げる聖女様の顔は何処かすっきりしたようだった。
直後、クリスタルは赤く光りだした。徐々に赤みを増すクリスタルはここは異世界なのだと言い聞かせるようだ。
「冒険者登録は以上で終わりになります。こちらがハヤト様の冒険者としての職業とその他のステータスを確認できるものになります。再発行はできかねますのでくれぐれも紛失や窃盗には気を付けてください」
そう渡されたものは先ほどのクリスタルの欠片みたいなものだった。
「これってみんなこんな石ころみたいな形なんですか?」
「いえ、そんなことはありません。それはその人の魔力で象られるものですので皆さま各々好きな形で発現します
ですが、今回ハヤト様は魔力がお使いになれませんので強制的にカタチにさせていただきました。これも神の御心です・・・」
聖女様は最後笑いをこらえる様な感じでそう言ったが僕はそれを見逃さなかった。
「形なんて足した問題じゃないさ、大事なのは中身!人と同じだよ!」
誰に向かって言うわけでもないが言わずにはいられなかった。
「でもこれどうやって確認するんですか?覗き込んでも力込めてもなにも起きませんが・・・」
「そんなわけないではありませんが、それは大結晶の一部ですよ。言ってしまえばカタチは悪るけれど魔力の塊ですよ?
いくら魔力がない人でも自分のものは確認できるはずなのに・・・」
目の前でハっと意気込んでもウンともスンとも反応しないそれを見た聖女様は驚きを隠せていなかった。
周りで見ていた村人たちも段々とガヤ付き始めた。
「おい、大丈夫なのかよ」
「やっぱりあの子でも無理なのか・・・」
「お兄ちゃん何かあったのぉ~」
期待のまなざしは徐々に不安へと変わり不穏な空気が流れ始めた。
未だに無邪気に期待のまなざしを送る少年少女と目を合わせることができない。
もろすぎる僕の希望がゆっくりと崩れるようなきがした。聖女様の焦りようがそれらを加速させる。
やっぱり僕は・・・
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