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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
一つ目の地
8/19

カルヌ領の状況

 「もうすぐつきますよ」

 「うん」

 カルヌは牧歌的な雰囲気の村であろうことが想像できた。しかし今は荒れ果てた土地が広がり作物がつらそうに地面に横たわっている。領主の帰還に小さな領地の民たちは出迎えるために馬車によりながらきれいな一台の馬車に目をやる。あのような馬車が来たことがなく、馬車に描かれた神殿の紋章に神官でもつれてきてくださったのかと不思議そうにラウジアの姿をまつ。

 馬車から降りたラウジアはいつもならば子供たちに手を広げ帰ってきたぞするのに、神殿馬車に移動し腰を低くしてなにか声をかけた。ゆっくり開いた馬車から白髭、白髪の老人が現れるのをみて驚きに震える。

 白髭、白髪の老人で神官なのはガイア・ホランドのみこのような領地に来るような人物ではなかった。しかし領民はホランドが優しそうに手を差し入れる様をみてもっと偉い人がのっているのかとドキドキさせる。ドキドキに反して降りてきたのは小さくきれいな黒い衣装をまとった少年であった。

 「だれだ? ありゃ」

 「わからねぇ・・・・・・わからねぇけど神官長様よりえらいんじゃねぇか」

 ホランドに支えられ段差の高い馬車から降り立った少年は村を見渡した。その瞬間、時が止まった。

 黒い髪に黒い瞳、揃った色に力が強いことは一目瞭然であり、それだけでも驚きであるのに少年は額に信じられないものを宿していた。

 「か、神の紋章」

誰かが呆然の呟いた声にざわざわとした空気が感染していく。そして少年の正体に答えが行きつく。

 「神の守り人様じゃないのか」

 「騒がしくて申し訳ございません」

 「僕も突然来てしまったから」

ニゲルは恐縮するラウジアに恐縮してしまうが頭を下げることは許されないため申し訳ない思いを顔にのせる。

 「小さな屋敷ですが、本日はお休みください・・・・・・お食事はどうなさいますか」

 ラウジアは不安ながらにニゲルを見つめればニゲルはいらないと一言いうとベリルに腕を伸ばした。ベリルは当然のようにニゲルを抱えあげる。ニゲルはベリルの大きな腕に抱えられるのが大好きでベリルは小さい分抱えた方が守りやすいと自然にこの形が出来上がっていた。

 その様子を見ている領民たちはひそひそと言葉をかわし続けていた。子を持つ親たちにはニゲルが大事に育てられてこなかったことが分かった。小さい体、包み込むように着込んだ衣服からのぞく足首、手首の異様な細さはどう見ても栄養が不足した子供の特徴である。自分たちの子供を見下ろせば確かにこのところの大飢饉で細く見えるが自分たちの分も食べさせているためニゲルほどではない。あの子供は裕福な子ではなかったのではないかと思う。



 到着後、慣れない馬車につかれたニゲルはすぐに睡魔にまけ就寝し目を開ければ少し太陽が昇っている時刻であった。

 そして笑顔で挨拶をして朝食の準備をしだすベリルをニゲルは興味深そうに見つめる。不思議な箱を開ければ小さな箱が並びベリルがその一つを取り出して机の上に置けば始めるように食べ物が出てくる。

 ニゲルは食べ物を出した箱をもってくるくると確認するがやはりよくわからず、首をかしげる。

 「魔法です」

と説明は受けていても気になるものは気になるものであった。ベリルが箱をニゲルの手からとって別のものを乗せた。

 「コウ、今日はこのくらい食べましょうか」

 「結構増えてない?」

渡された器に盛られたシチューに似たスープと渡されたパンにニゲルは助けを求めるように渡したベリルに目を向けるが認められるわけもなかった。笑顔でどうぞと促すベリルにニゲルはため息をつくとスプーンですくい口に運ぶ。

 「大分食べれるようになりましたじゃな」

入ってきたホランドはニゲルの持つ器をみて嬉しそうに笑う。ニゲルは自分のことのように嬉しそうに笑うホランドに胸の仲がぽかぽかとするのを感じ恥ずかしさを隠すために次を口に運びもぐもぐと口を動かした。

 「ニゲル様、今日はどうしますじゃ」

 「いろいろ見たいんだけど・・・・・・だめかな」

 「いいですじゃよ。ニゲル様にとってもお勉強になりますじゃ」

 「うん!」

 「その前にしっかり食べてくださいよ、コウ」

 「はい」



  「守り人様・・・大丈夫だろうか」

 「わからない・・・」

領民たちは抱えられ屋敷に入っていくニゲルを民として不安に、親として大人として心配になっていた。そのニゲルは屋敷の門の前に立っていた。

 小高いところにある屋敷からは山々が広がっているのが見えた。ニゲルが地球にいたところも都会ではなく山が広がっていたが全く違う。少し乱暴な山肌にうっすらと乗る白い色は寒そうだとニゲルに思わせる。山を見ていた視線を近くに戻せば少し寂し気な村が広がっていた。

 ニゲルはもっと元気なはずだと地面やつらそうな木々、草花を見て思う。まるで社会の時間に見た貧しい村の写真そのものであった。ニゲルはゆっくりと坂を下りながら見渡す。薄汚れた柵、家、何も放たれていない無駄に広い牧場、小さな草が申し訳なく生える畑、何もかもが寂しくニゲルの目と心に落ちる。

 そして何よりニゲルを恐る恐るみる領民、やせ衰えた動物たちの姿にニゲルは泣きたくなる。

 「ぼくに何ができるんだろう」

ぼそりとつぶやかれた言葉は後ろにいるホランドとベリルの耳につらくつらく聞こえた。ホランドは慰めようと思ったがニゲルの背中に何も言葉が出なかった。小さな背中からあふれる悲壮、焦燥に自分が慰めても無意味だと思えた。

 ベリルも差し出した手が止まったが一拍おいてニゲルの脇に差し入れニゲルを持ち上げた。突然のことに驚きの悲鳴を上げるニゲルにベリルはからりと笑う。

 「次はどこをみますか」

 ニゲルはベリルに連れられカルヌの歩いて行ける範囲を見て回り、どこも同じように寂しく廃れ、今にも滅びてしまいそうなだと感じた。なにかが足りないとニゲルは思ったが何が足りないのか出そうで出ないと悩んだ。


 なにがたりないのかわからないもやもやを抱えたまま大きな木の下で昼食を食べていた。

 「食べることに集中してくださいよ。口が止まってます」

膝の上に乗せたニゲルの頬をつつきながらベリルが注意すればニゲルは慌てて口を動かした。ベリルが続けてパンをかみちぎりもぐもぐと咀嚼する姿に今度はホランドが注意する。それに対しバツが悪そうに笑うベリルにニゲルはこの雰囲気好きだなとほんわかしていた。

 ニゲルは考え事から離れ大きな木を見上げる。ついている葉は少ないが両親がいたころ公園の木の下でお弁当を食べたことを思い出す。ニゲルにとって地球で幸せだった記憶であり、泣きそうになる記憶だ。泣かないように耐えながら急ぎ気味に口と手を動かせば口の端から垂れたスープをベリルが優しくふき取った。ニゲルは恥ずかしくなりうつむくと今度は大きな手が自分の頭を撫でるのを感じた。この世界に来れたことがとてもよかったとアルタイルに感謝した。そしてニゲルは気が付いた。アルタイルの力がこの地にないことをニゲルは感じ取った。

 神廟はもちろん神殿そして城は当たり前のようにあった力の大小は別として包み込むようなアルタイルの力が皆無だ。それがわかると途端にここがニゲルは怖くなった。

 自分を守るものがないそう感じてしまうからだ。どうすればいいのかと混乱するニゲルにまた優しい手が乗せられる。ニゲルが見上げれば大好きなベリルの優しい笑顔、おじいちゃんのような先生のようなホランドの笑顔があった。

 ニゲルは2人の笑顔に混乱が収まり、自分に何ができるのか2人にどう伝えればいいのか考えながら寂しいカルヌを大きな木の下から見つめた。


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