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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
一つ目の地
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カルヌ領へ

 4日たったころニゲルは虹色の葡萄のようなサイズの食べ物を口にしていた。初めてみたニスミにどこかでみた虫見たいだとなかなか手が出せずにいたが一度口にすればミカンのような甘味にコリコリとした触感にはまった。ニゲルは手の上でニスミを転がしながらふと思う。この世界のことをもっと知らないといけないと思う。

 ニゲルは軽い説明をホランドから聞いていた。しかし文字も読めなければ、知らないものがまだまだあふれている。ニゲルは後ろに立つベリルを見上げる。ベリルはいくら砕けても護衛の任とは分けて考えるといって護衛ポジションをつら抜いていた。ニゲルとしてはもっとゆっくりしてほしいと思うが仲良く話してくれるだけでもうれしいと諦めていた。

 「ベリル、文字覚えたい」

 「いいですね。ではホランド様に良い本を持ってきてもらいましょう」

 「うん! あと地図ないの?」

 「ありますよ。というかわかり辛いかもしれないですが壁にかかっているあれ地図です」

ベリルの指さす方へニゲルが目を向ければ大きな布がかけられていた。

 ニゲルはずっと抽象的な柄だと思っていた緑八角形の外に数個存在する緑とそれを覆う銀糸で全体的に暗い印象を受ける。ニゲルはソファから立ち上がり地図の前に立つ。一目見ても地図だとわからない。

 「緑が陸だよね」

 「そうです。ちなみにここはこの辺ですね」

ベリルは八角形の右のほうを指さした。

 「アウローラ国が全部支配してるんだったよね。広いね」

 「そういわれればそうですね」

真剣に地図を見ていればニゲルはふと何かに引き寄せられる気がした。じっと見ていれば一部黒くなっている部分があり、揺らめいているように見えてくる。ニゲルの目には地図が揺らめき、ある一点に目が向いた。

 「ここはどこ?」

ベリルはニゲルの指す場所をみて嬉しそうな声で自分の故郷“カルヌ”と答えた。ニゲルはじっとカルヌを見つめ続ける。

 自分はカルヌに行くべきだと自分のなかで何かが訴える。訴える何かにおかしいとニゲル自身思うがこれは従うべきだともっともっと強く思う。そしてどこかで守り人として正しい感覚であると思ってもいた。この矛盾はニゲルに気持ち悪く絡みつくが今はカルヌだと地図をもう一度見る。

 ベリルは自分の故郷から目を離さないニゲルを不思議そうに見つめ、声をかけようとするがその前にニゲルがベリルを見上げた。何か決めたニゲルの瞳がベリルを見る。

 「ここに行きたい」



 謁見の間では国王アクィラが細い体を更にやつれさせたカルヌ領主と謁見していた。

 「ラウジア卿、そんなにやつれていかがしたのだ」

 「ここしばらく不作が続き、領民からの徴収を控えております。情けない姿をさらし申し訳ありません」

ヒューズ・ラウジアの言葉にアクィラはそんなことはないと答えながらそこまで貧困が進んでいるのかと心を痛める。そしてやはり優しい男だとラウジアに関心する。おそらく自分の分まで回しているのだろうことは明白である。アクィラは何とかしてやりたいと国庫そしてニゲルを思い浮かべる。ニゲルがカルヌに訪れれば多少は神の恩恵が得らる。

 アクィラはニゲルにお願いするべきかと考えたが、対面の時の二の舞になっては国そのものを揺るがす事態になりかねないとアクィラだけでなくほかの大臣もおびえていた。アクィラがやはり国庫で何とかしてやらねばと顎に手を当て深く考え込んだ時、扉の前に控えている兵士がホランドとニゲルの来訪を告げた。

 “ニゲル”という言葉にその場に緊張が走る。ラウジアなどはすぐに横に並ぶ柱の陰に移動し腰を低くしできるだけ目立たないようにしていた。みすぼらしい姿をさらし不快にさせてはいけないという配慮からであるがアクィラは哀れに思えて仕方がなかった。

 しかしそれが好ましいことも事実であると軽く頷いてやり、扉の兵士に合図を出した。

 「突然申し訳ございませんじゃ、陛下、ラウジア卿」

 「かまわんぞ、ホランド。ニゲル様、どうかなさいましたか」

アクィラは謁見以来のニゲルの姿にホランドが言ったことは嘘ではなかったと思っていた。ニゲルに神の紋章が授けられたというホランドの言葉を正直信じてもよいものか悩んだのはアクィラだけではない。過去の文献にそのような現象は一切触れられていないのだから無理もないことである。

 ニゲルは膝をつくアクィラにビビるもののホランドの後ろからでて、目の前に立つ。

 「カルヌに行きたいです」

 「「えっ」」

 アクィラそして端で控えていたラウジアから間抜けな驚きの声が漏れる。予想外のところから聞こえた声にニゲルが視線を移せばラウジアがものすごい勢いで頭を下げる。その勢いにニゲルは気まずく眉を顰めた。しかし来る途中でも似たような反応をするものが多く短時間で慣れかけていた。

 「ニゲル様、カルヌの貧困をベリルから聞いたのですか」

アクィラはベリルを思っての行動ならば周りからのあたりが心配になるところであると懸念する。ニゲルはヒンコンとはなにか悩んだがすぐにホランドが補足すれば、ニゲルは首を横に振った。

 「まずしいということは今知りました。僕の意志でカルヌに行きたい・・・・・・いや行くべきだと思いました。ご迷惑だと思います。でも行きたいです」

 ニゲルの言葉にアクィラは目の前に立つ小さな守り人は何かを感じ取っているのかと驚く。そして謁見の時とは違うとはっきりわかる。

 これが守り人かと、そう思える何かがアクィラの目の前に立つニゲルにはあった。

 

 アクィラは身を小さくし続けるラウジアに前に出るように指示をだせば、ラウジアは何を勘違いするのか一層顔色を悪くし前に進み出る。

 「このものがカルヌの領主でヒューズ・ラウジア卿でございます」

 「初めまして、ニゲルです。カルヌに行ってもよいですか」

 アクィラの紹介にビクリ、ニゲルの言葉にビクリと肩を大きく震わせるラウジアにホランドは勘違いしておるじゃと呆れた目を向けるが恐怖に支配されたラウジアが気付くことはなく、ラウジアはなんとか言葉を吐き出す。

 「その! ニゲル様をおもてなしすることなど到底できません」

 「僕はもてなされたくて行くわけじゃないです」

きっぱりとラウジアの言葉を否定するニゲルにラウジアは顔を上げる。

 真っ直ぐ自分を見る目にラウジアも神を見たような気がした。

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