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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
自分の神様
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弘也とニゲルのずれ

 ニゲルがまどろみから目を覚ましゆっくりベッドから降りる。素足で床に降りてもなぜか冷たくなく、ニゲルはそのまま窓のほうに歩いた。窓を開ければ今まで感じたことのないようなさわやかな朝の空気がニゲルの頬を撫でる。

 「あのあと寝ちゃったんだよな」

 ニゲルはまだまだ聞きたいことがあったのに寝てしまった。聞きたいことを考えながらテラスに出る。ふわっと香る甘い匂いにテラスから下をのぞくと花壇で白い花が風に揺られていた。ニゲルはあまりの甘い匂いに花をひくひく動かす。見渡した花壇がある庭らしき広い空間に黒い塊があることに気が付いた。身を乗り出し目を細めたニゲルはすぐに手すりに身を隠した。

 「クマ!?」

 ニゲルはオッカナビックリに手すりの間から黒い塊を見た。そしてクマだと思った塊が人間だということに気が付く。ニゲルは詰めていた息を吐きだし、胸をなでおろした。


 黒い塊は入れない庭に首を傾げ立ち尽くしていた。長官の命令で神廟の警備に急遽回され、やってくれば入れない。困ったと考えていると視線を感じ上に顔をやれば手すりの間から自分を見つめる小さな子供に気が付く。ベリルは守り人なのだろうと察し、頭を下げた。そして自分をじっと見つめるニゲルに声をかけようかと悩んだとき、テラスにホランドが現れた。ホランドによって室内に促されるニゲルが振り返る姿に、つい街の子供に接するように手を馴れ馴れしく振っていた。

 「ベリル! そっちはいけない! こっちにこい」

 「はい」

長官の声に背筋を伸ばすと庭に背を向け、ベリルは任務に戻った。



 「おはようございますじゃ」

 「おはようございます、ホランドさん」

おずおずと返事を返すニゲルにホランドは破顔する。ホランドは目の前のニゲルをなぜか自分しか入ることのできない部屋を理由に1人でお世話できると喜んでいた。

 しかしニゲルに拒否されたらどうしようと少し不安で昨日は眠ることができなかったのである。出された食事に手を付けることなく、じっと自分を見るニゲルにまだまだ警戒されておられると少し

テンションを下げた。しかしそれは違っている。

 出されたものをどうしていいのかニゲルはわからない、また何をしたらいいのか不安でしょうがないのだ。いつも親戚が良くしてくれるのは自分が何かをしなくてはいけないときだった経験からニゲルはそう判断する。

 「僕は何をすれば」

 「陛下にあっていただけますかの」

ホランドの答えにニゲルは首をかしげる。首をかしげるニゲルにホランドは言い方が足りなかったと

反省し言い直す。

 「アウローラ国23代目国王アクィラ・インゲルス・アウローラ様にお会いしていただきたいのですじゃ」

 「えっ? 国王!? 王様に会うの!」

 ニゲルは言い直された言葉に驚き大きな声を上げた。

 ニゲルにとって王様などという人物など一生縁のないものだと思っていた。小さいころにイギリスやアラブの王様をニュースで見て親がとてもえらい方よと教えてくれたことくらいしか知識にないニゲルは慌てる。

 「大丈夫ですじゃ。陛下はお優しい方ですじゃ。それに立場でいけばニゲル様のほうがはるかに高いですじゃ」

 「でも・・・・・・ん? 僕の方が偉い?」

 頷くホランドにニゲルは頭にはてなを浮かべているようである。ホランドはやはりご存知ないかと納得する。ニゲルが纏っていた服、背負っていた鞄から出てきた読めない書物、どれをとっても別の地から来たことを示していた。

 「ニゲル様は神の守り人とよばれるお方ですじゃ。守り人によって世界は神の加護を受けることできますじゃ。ニゲル様は世界にとって絶対必要な方で神にも等しいお方ですじゃ」

 「守り人? 神様ってそんなの・・・・・・」

 ニゲルはホランドの説明にそんなもの知らないと思ったが頭を一瞬何かがかけ巡った。

 偉そうで傲慢そうなエジプトの壁画にいそうな鳥人間の姿が思い浮かんだ。そしてその男が神だとなぜかニゲルにはわかった。

 突然のことで固まるニゲルにまだ調子が悪いのだろうかとホランドは声をかけた。ホランドの声に意識を戻すとニゲルは首を振る。

 ニゲルは誰かに自分の頭を操作されているような気持ち悪さを覚える。知らないはずの神を認識し

守り人は自分なのだとどこかでわかっている自分にとてつもない気持ち悪さを覚えてしまうのも仕方がなかった。

 「ニゲル様、いまから陛下に会っていただけますかの」

 「・・・・・・礼儀作法とか知らないです」

 「陛下を見てくださるだけでよいのですじゃ」

ニゲルは王様にそんな失礼な事したらだめだとどうしたらいいのか考える。

 「頭下げればいいのかな」

ポツリとつぶやかれたニゲルの言葉にホランドは慌てた。置かれた料理から身を乗り出しニゲルに詰め寄る。

 「ニゲル様は頭を下げてはいけませんじゃ!」

 ホランドの大きな声に肩を震わせ、ニゲルは顔の前で腕を交差させる。その反応にホランドは目を見開き、おびえさせてしまったと謝り、ニゲルを悲しそうに見る。ニゲルの行動はどう見ても虐げられ、暴力を振るわれたものの行動だ。孤児院にくる子供のなかに似たような行動をする子がいることを思い出す。

 ニゲルは殴られないことにホッとしながらホランドを見てホランドが悲しそうな眼をしているのをみて

 「ごめんなさい」

と謝るがなぜか頭を下げることができない。

 下がらない頭に心は焦る。頭を下げようとニゲルはするが体が動かず不快感が支配するだけで一向に頭は下がらない。ホランドはニゲルの様子に急いでニゲルの横にまわった。

 「ニゲル様! 頭を下げなくてよいですじゃ」

 「でも! 下げないと!」

 ホランドは不敬かもしれないと神に謝りながらニゲルの体を優しく抱きしめる。

 「ニゲル様は神にしか頭を下げることはできませんじゃ。それに頭を下げなくても怒りませんじゃ。殴りませんじゃ」

 ニゲルは怒られないこと殴られないこと、優しく抱きしめてくれるホランドに暖かくなりながら思うように動かない体への不快感にぐちゃぐちゃになりながら涙を流し続けた。抱き着き泣くニゲルを優しく撫でてやれば一瞬震えたが、顔を押し付けるニゲルにやはりかとホランドは思う。

 「安心しなされ。ここにニゲル様を害するものなどおりませんじゃ」

ホランドは心の中でニゲルに語り掛けた。

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