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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
自分の神様
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200年ぶりの守り人

 “破壊と力の神”の箱庭にあるアウローラ国の南にあるアウレア山山頂の神殿に紋章が浮かび薄汚れたものを床に出すと役目を終えて消えた。 



 アウローラ国アルビオン城で日々祈りをささげる神官のもとにお告げが下る。そのお告げは400年間、世界が求めていたものだった。

 「我が守り人を守れ」

 お告げはすぐに国王アクィラ・インゲルス・アウローラに伝えられ、神官長ガイア・ホランドは白く長い髭を揺らしながら老人とは思えない素早さで神官たちを伴いアウレア山に走った。山道をいく

馬車に揺られ、誰もが落ち着かない様子だ。

 「ホランド様」

 「落ち着かねばならんの・・・・・・」

 400年ぶりの守り人に誰もが心を湧き立たせていた。これで世界が少しづつ豊かになるはずだと、すがる思いで信じている。そして、同時に自分たちが使えるべき方がようやくこの世界に降臨するのだと使命感にかられる。

 「まさか守り人様にお仕えすることができるとは夢にも思わなかったの」


 誰もがどのような方だろうとまだ見ぬ守り人に希望と夢を抱き馬車は山頂の神殿の前に停まる。3台の馬車からそれぞれ神官が降り神殿の入口に集結する。大きな入り口を見上げ落ち着けるように深く深呼吸を行えば、冷えた空気が神官たちを肺から冷やす。

 ホランドが杖を取り出し、呪文を唱える。普段、閉鎖している神殿は神官が神聖魔力を込めなければ開かないようになっていた。

 ゆっくりと石のこすれる音を大きく響かせながら扉が開き神殿の中を神官に見せる。ホランドたちは守り人はどこだと、外気で巻き上がる埃での向こうに姿を求めた。しかし、見えたものに全員が息をのんだ。

 奥の祭壇には輝くものでも美しいものでもなく、小さな茶色く汚れた固まりが転がっていた。しかし、ホランドたちはすぐに理解した。固まりから発せられるオーラに守り人だということを。

 ホランドたちは守り人らしき固まりに駆け寄った。

 うつぶせで背中になにか背負う小さな体を抱き起せば泥に汚れた弘也の顔がホランドたちのほうを向く。目は閉じられ唇は白く血色が悪い、どう見てもよい状態でないことは明白だ。ホランドは弘也の背からランドセルを外すとローブをかぶせた。ほかの神官もすぐにホランドと同じようにローブをかぶせて守り人を温めようとしていた。

 「――治癒魔術」

 治癒魔術を弘也にかけ続けていると血の気が戻ってくる弘也の様子に神官たちは少し胸をなでおろすことができた。神官の1人が弘也を慎重に抱き上げると馬車に急ぐ。

 「守り人がなぜこのような」

馬車の中でも懸命に治癒魔術をかけ続けながら神官の1人は泣きそうな顔で弘也を見る。ホランドは

その言葉になにも答えることができないまま治癒魔術をかけ続ける。10分ほど経過したとき弘也の瞼が

ピクリと動いた。それに気が付いたホランドは恐る恐るではあるが弘也を揺らす。瞼をゆっくり開けた弘也に誰もが驚きと感嘆の息を漏らした。

 「黒い髪に黑い瞳・・・・・・珍しい。この方はニゲル様じゃ」



 弘也は揺らされる感覚に八つ当たりするために叔父か、従弟が起こそうとしているのかと思いながら目をゆっくり開ける。しかし、ぼやけた視界に入るのは白い髭を蓄えた緑の瞳のおじいさんだ。弘也は驚き手を握りしめ、自分の手の中にネックレスがあることに気が付いた。

 そして自分の身に何が起きたのかを思い出した。記憶と現在の状況のつながりが一切わからない弘也は混乱し勢いよく身を起こしたが、眩んだ頭に体が崩れる。

 「急に動いては体に障りますじゃ」

 崩れる尊を優しく支えるホランドの暖かく心配そうな声に、弘也はわからないものを見るような眼で見てしまう。ここしばらく誰かにやさしくしてもらう、心配してもらうことなどなかった弘也にとって信じられないことだ。

 そんなことを思っているとはわからないホランドは誰かわからず混乱しているのだろうと判断した。

 「わしは神官長をしとりますガイア・ホランドともうしますじゃ。ニゲル様」

 「ニゲル様?」

声を発する弘也にホランドや神官は安心し、うれしくなる。神にも等しい守り人の声を聴けるとは

感動だと感激してしまう。まずは疑問に答えなくてはとホランドは神官長として、気持ちを切り替える。

 「あなた様のことです。ニゲル様」

 「ぼくは・・・・・・っ!?」

 ニゲルという名前ではなく山下弘也だと伝えようとして弘也は固まる。自分の名前を言おうとしても何かによって止められ口にすることができない。弘也は一生懸命、名前を言おうとするが音になることはない。弘也の目に涙があふれる。

 「ニゲル様の本当の名は神以外、口にすることも耳にすることもできませんのじゃ」

 「ぼくのっ名前!」

 両親からもらった弘也という名前が消えたような感覚に弘也はヒドイ喪失感に襲われ泣き続けた。馬車の椅子に顔を向け背中を丸め、体を震わせ耐えるように静かになく弘也を見守ることしかできない我が身が情けなくホランドたちは神に祈った。

 「どうか、ニゲル様の御心をお守りください」


 弘也は泣きながらも、現実を受け入れようとしていた。弘也は会話から気が付いていた。ここが元居た世界じゃないことに。しかし、元の世界に戻りたいなどみじんも思わない。元居た世界に弘也が固執するものは何もなく、逆にここには信じられないほど優しく心配する老人が1人はいる。ホランドは信用してもいい人だと弘也は今までの悲惨な経験から察知していた。ここではニゲルとして生きるしかないのだと弘也は思いそしてニゲルを受け入れざる得なかった。

 


 馬車がアルビオン城についたころにはあたりは暗く緑色の月が城を照らしていた。体力も落ちていたのか泣き疲れて意識を失うように眠ったニゲルを連れて神殿の新廟に向かった。

 今まで開けることができなかった新廟にホランドが緊張しながら扉に手をかける。開くかどうかも分からなかった扉は普通に開き、ホランドを迎え入れる。部屋を見渡すホランドは後ろで何かにぶつかる音が聞こえた。振り返ると神官たちが困ったように立ち尽くしている。

 「何をしておるのじゃ」

 「入れないのです・・・・・・壁が」

 神官の1人が手を出すと確かに神官を邪魔する窓のような結界があるのがホランドにも見えた。ホランドはなにか部屋に入る条件があるのだろうかと疑問に思いながら部屋から出てニゲルを受け取る。

 「・・・・・・なんと軽い」

 小さいとは思っていたホランドであるがあまりの軽さに驚きを隠せない。

 「湯と拭くものを持ってくるのじゃ」

 そういうとニゲルをソファにゆっくり下ろし汚れた服を脱がせば、ホランドは魔術をぶつけたくなる怒り、そして泣きたくなる悲しみに襲われた。

 ニゲルの体には痣がいくつもあった。日々ストレス発散に叔父や従弟に暴力を振るわれていたから当然のことだ。

 「ん」

 「ニゲル様」

 目を開いたニゲルにホランドは厳しい表情を緩める。きれいで豪華な天井、背中を支える柔らかさにニゲルは体を起こした。そして、自分が裸であることと手の中のものが消えていることに気が付く。手を見つめるニゲルにホランドはすぐにネックレスを差し出した。ニゲルはすぐにひったくるようにネックレスをとるとぎゅっと握りしめた。手の中に戻ってきた宝物に心を落ち着かせると部屋を見渡す。見慣れない調度品に目を引かれる。

 「ここは」

 「ここはアルビオン城神殿の神廟ですじゃ」

 「神廟?」

 「説明はゆっくりできますからまずは体をきれいにするのが先ですじゃ」

 ニゲルは自分の体と部屋を見比べて頷く。部屋の入口で桶と布を受け取り戻ってくるホランドを目で追いかける。毛の一本一本まで丁寧に布できれいにしていくホランドにニゲルはうれしいようなこそばゆさを感じると同時に不思議に思う。

 「どうして僕にそこまでよくしてくれるんですか」

 「ニゲル様が大切だからですじゃ」

 「なんでですか」

最後に足を爪の先まで丁寧に拭きながらホランドは顔を上げてニゲルを見る。

 「この世界にはニゲル様が必要なのですじゃ。わしら神官はニゲル様をお守りしお世話するために存在しておるのですじゃ」

 「よくわからないです・・・・・・ニゲルって何ですか」

ホランドの説明によくわからないと眉を顰めるとニゲルは尋ねる。

 「黒という意味ですじゃ。ニゲル様はきれいな黒の瞳をしとりますからじゃ」

ホランドの説明に全く意味が解らないとニゲルはさらに眉間に皺を寄せた。

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