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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
二つ目の地
19/19

ふさわしくない者

 突然の光に目をつむったニゲルは恐る恐る目を開ければ、洞窟のような土造りの空間が広がっていた。

 「一言いってくれると嬉しいんですが」

きょろきょろと見渡すニゲルの下から恨めしくベリルが咎める言葉を発する。

 「つい癖で」

それに全く謝意のない返事を返したものだから、再びホランドの打撃をネイトはもらった。

 「ついではないじゃ」


ため息をつくホランドは改めて空間を眺めた。神官の長である自分が知らない空間などないはずだ。つまり、ここは新しく作られた空間ということになるとネイトを睨みつけた。このような非常用空間を作る際は本国の神殿に申請が必要なのだった。

 「緊急で作りました。あとで申請します」

 「嘘じゃ。これほどの規模の物が緊急で作れるはずがないじゃ」

 「ばれますよね~」

これまた反省の色なしのネイトに叩く気力も奪われ、ホランドは空間が続く見えない先を見つめた。奥のほうから風の音が聞こえることから奥にはもっと広がった空間があるのだろう。

  「さぁ、少し行けば我々の拠点です」

ネイトの言葉にベリルは肩眉を上げ、ホランドを伺った。ホランドは視線の意味に気が付き、すっとベリルの腰にある剣に視線を送った。ベリルは少し頷くとニゲルを抱えなおし、ネイトに続いた。



 まだ続くのだろうかと思った頃、先のほうに光が見えた。ニゲルは船の人たちの無事だけが気がかりだった。不安と期待に胸を膨らませ近づく光を見つ続ける。どんどん大きくなり、強くなる光は暗さに慣れた目につらく、誰もが手をかざし遮った。

  「ようこそ! 私の地下ハウスに」

ネイトの言葉と共に光の中に入れば、ざわめきとただただ広い空間がニゲルたちを歓迎した。ニゲルは慣れてきた目でざわめきのほうを見下ろした。横の階段から続いているだろう下の空間に大勢の人がいた。誰もが不安そうな顔で器をもって肩を寄せ合っていた。

 「良かった・・・・・・」

ニゲルはあの夫婦の姿を確認し、その周りにいる人たちも船の人であることに胸をなでおろす。

 「すごいなこの空間は」

 「頑張って作りましたよ」

胸を張るネイトにベリルとフリスト、オーフェンは信じられない馬鹿を見る目を向けた。

 「いつから作っていたんですか」

この空間は確実に数日で作れるはずがなかった。

 「ドラドに来た時から」

 「・・・・・・8年前じゃ」

ネイトがドラドに来たのがいつかわからないが、ホランドのフォローでいつかわかった。8年も前から作り始めていればこの空間は間違えなくできる。 「なんで作ったのか」 とベリルはネイトと空間をみた。ネイトはベリルに苦笑しながら答えた。

 「安心のためですよ。やはり暗殺者(アサシン)としての(さが)か誰にも知られていない避難場所を確保したかったんですよ・・・・・・まぁ役に立ってよかった」


ベリルたちはなるほどと頷いた。来る途中も迷路のような道順だったことに納得がいく。しかし、ホランドとしては面白くない。上司でもある自分を信用してくれていないと思えるからだ。

 「そんな目で見ないでくださいよ。ホランド様は信用していますよ」

 「どうじゃかじゃ」

 「拗ねないでくださいよ~!」

 「拗ねておらんじゃ! 勘違いするなじゃ」

 「え~・・・・・・まぁいいや。では下に行きましょうか」

何もかも軽く流すネイトにニゲルたちはすでに慣れ始めていた。ニゲルたちが空間の壁をぐるぐると螺旋を描く階段を下りていくと、夫婦が真っ先にニゲルたちに気が付いた。夫婦は器を邪魔にならないところに置くと階段の近くまで移動してきた。


 ニゲルたちが下に降り立つと夫婦はニゲルを上から下まで確認すると安心したような顔で膝をついた。ニゲルは膝をつく姿に慌ててベリルから降ろしてもらい頭を上げるようにお願いした。

 「膝をついたり、頭を下げないでください。僕は偉くないから」

 「しかし・・・・・・わかりました」

困った夫婦は後ろに控えるベリルたちの表情を見て、立ち上がった。ニゲルは夫婦の後ろにいる人たちの顔を確認する。

 「皆さん無事ですか」

 「はい。助けていただきました。ニゲル様は」

 「地上から言ったので門前払いでした」

ベリルはむすっとした様子で夫婦に答えた。その様子にニゲルは苦笑いを浮かべた。この国に来てからベリルはどこか不機嫌だった。  

  ニゲルは見渡していた目をあるところで止めた。

 「あの人は」

 「神官の1人です」

 「神官・・・・・・」

ニゲルは真っ直ぐ端のほうで身を小さくしている神官のもとに向かった。神官は自分のもとに真っ直ぐ向かってくるニゲルにドキドキしていた。これはネイトのように信仰からではなかった。

 「なぜあれのところに来るんだ! ばれたのか!」 と神官の男は焦り背後にある出入り口に身をひるがえした。その行動にネイトはすぐに状況を察しニゲルの横を走り去った。

  

  「馬鹿にされた」

 「コウ・・・・・・?」

出入り口を見るニゲルの様子に違和感を感じ、ベリルは呼びかけた。ベリルの呼びかけに振り向いたニゲルの目が若干、赤を帯びていた。ベリルはその目に足を後ろに下げてしまう。

  「アルタイル(* * *)様を馬鹿にされた」

ニゲルは神官を見た瞬間、心に気持ち悪さを覚えた。近づくにつれて違和感の正体に気が付いた。神の紋の一部が描かれた神官服を纏う男に信仰はなく、穢れがあることに。そのような男が神官服を纏っていいはずがない。

 「馬鹿にされたとはどういうことですじゃ」

 「神官のみんなが着ている神官服には神の紋の一部が描かれているんだ。信仰心もなく、穢れた人が着ているなんて許せない」

ニゲルの声は不思議なことに空間に響いていた。上から降り注ぐかのように人々の耳に届いた。


  「捕まえました」

ネイトが男をロープでぐるぐるにして戻ってきた。わめきでもしたのか口にもロープが3重にまかれている。ニゲルはあまり近づきたくないと一定距離を保った。

 「神官服を脱いでください」

ネイトはロープを取らないとだめなのだろうかと悩んだが、ニゲルの目を見てすぐにロープを外し始めた。ロープを外す前に手首と足首そして首にロープをかけることを忘れない当たり暗殺者(アサシン)だ。体にまきつくロープを取り、ベリルも手伝って男から神官服が取られた。

 「ニゲル様、この男をどうしますか」

ネイトはこの男を見破ったのはニゲルだからと判断を仰いだ。しかし、ニゲルとしては神官服を脱がすことができれば満足だったのだ。

  「ネイトに任せるじゃ」 

ホランドが間を置かずニゲルの代わりに答えた。ネイトはそれに「了解です~」という声を残し大空間から出て行った。

 ニゲルは疲れたような気がしてベリルに手を伸ばす。ベリルもすぐに応じてニゲルを前に抱き抱えた。しばらくもしないうちに、肩におかれた顔から寝息が聞こえ始めた。

 「ホランド様、コウは」

 「無意識じゃろ」

ホランドは前よりも力が増していることは気のせいではなかったのだと、今回のことで気が付いた。カルヌの後からニゲルからあふれる神の力は濃くなっていた。ホランドは嬉しい反面、不安だった。

  「ニゲル様がいつまでもニゲル様であってくだされじゃ」

小さくつぶやかれたホランドの願いは響くことなく空気に溶けて消えた。

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