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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
二つ目の地
18/19

ドラド神官長

 いくら顔を隠す負のを取り去り人の好さそうな笑顔を浮かべたとしても、ベリルは目の前の男を経過せざる得ない。感情や気配が全くと言っていいほど読み取れない。まるで枯れ木のように細い男は消して枯れてはいないのだろう。

  「お久しぶりです。ホランド様」

 「ネイトか」

ホランドは太陽の光で上手く姿を見ることができないが特徴的な声にもしかしてと思った。裏返ったような声を出す男はホランドの記憶の中には一人だけだ。

 ネイトはニゲルたちの場所まで砂を滑るように移動してきた。滑り降りた瞬間、その場に膝をつき胸に手を当てた。いきなりの行動にニゲルだけが驚いていた。

  「お初にお目にかかります。ドラド神殿の神官長を拝命しております、ネイトと申します。守り人様におかれては、このようなご不便をおかけし誠に申し訳ありません」

ニゲルはもう一度目を丸くしてネイトの口上をきいた。裏返ったような声が一転、澄み渡る声がスルスルと流れるのは驚愕だ。声の変化にはホランド以外の者たちの目も丸くなってしまう。そして思ってもみない役職にベリルはあんぐりと口まで開けてしまった。


  「神官長・・・・・・」

 「そうじゃ。こやつはドラド神官長じゃ」

ベリルはネイトを不躾な目で上から下までみる。どう見ても神官長ではない。

 「戦闘スキルをお持ちのようですが」

ベリルはやはり警戒心を解くことができないとホランドに確認するように目を向けた。もし、ネイトという男に何者かが化けていれば最悪の展開だった。

 警戒しているベリルの様子にホランドはため息をつきながら何度も小さく頷いた。頷いているのに首を振っているように見える仕草だった。諦めと呆れがホランドの背にあった。

 「こやつは暗殺者(アサシン)じゃよ。元じゃがな」

 「・・・・・・」

 沈黙がその場に降りた。


 暗殺者(アサシン)という意味を脳が理解しようとしない。しかし、ベリルやフリスト、オーフェンはネイトの姿をみて頷いた。神官長より暗殺者(アサシン)のほうが断然、似合っていると思えた。

 そんな3人も感情を読み取ったのかネイトは楽しそうに膝を叩いて笑いだした。

 「正直やなぁ、あんたら」

 「口調には気をつけよといっておるじゃ」

急に砕けた口調になったネイトにホランドは杖で頭を小突く。下を出して謝る姿はやはリ神官長ではない。「よくこの男が神官長になれたものだ」とベリルは神官というそのものに疑問を抱いた。

 一人ニゲルは「アサシンって何だろう」と首を傾げ続けていた。



 ニゲルは暗殺者(アサシン)とは何か教えてもらってからベリルへのくっつき度が上がった。ニゲルは地球でみたアニメの忍者は好きだった。でも実際、目の前にすれば怖くて近づく勇気はなかった。ベリルの後ろで覗き込むようにしゃがむネイトを少し伺うとニゲルはすぐに隠れてしまう。

 その光景はまるで怯えた小動物だ。ネイトは「いらないことを言いやがって」とホランドを睨みつけたが、また小突かれて終わってしまった。

  「守り人様~」

ネイトはニゲルの警戒心が解けないことに肩を落とし、その場に体育座りでふさぎ込んだ。その姿にますます神官長らしさの欠片もないとベリルは思った。そして「ざまぁ」とも思っていた。

 ベリルは膝を叩いて笑うほど馬鹿にされたことに若干腹が立っていた。その男が自分の過去のせいでニゲルに警戒され、そのニゲルは自分の後ろで隠れている。この状況はベリルの気持ちを和らげるものだった。


  「このじゃじゃ爺のせいだ」

ぼそぼそとホランドに文句を言い始めるネイトに腰に手を当ててホランドが大きなため息をはいた。ネイトがつぶやく「じゃじゃ爺」にニゲルはついホランドに視線を向けてしまう。

 「じゃから言うておるじゃ」

ニゲルは咄嗟に口を押えた。吹き出しそうになってしまったのだ。ニゲルは笑いそうになったことがばれていないだろうかと見渡した。ホランドはネイトに小言をいい、それをはらはらと見守るフリストとオーフェン。そして見上げれば口をフルフルとわずかに震わせる男がいた。

 ニゲルの視線に気が付いたベリルが下を見れば口を押えたニゲルと目が合った。ベリルはにやりと笑うとニゲルを抱き上げる。

 「笑いましたね、コウ」

まるで悪戯をした子供に言うようにベリルはニゲルを覗き込む。ニゲルは口を押える手をのけて口を得意げに尖らせた。

 「僕も見たもん。ベリルもでしょ」

 「っふ・・・・・・そうです」

2人で仲良く小さく笑っていると

 「あ! なにそれ! なんで! 守り人様~! 私にも」

叫ぶような大きな声が聞こえた。ニゲルとベリルが振り向けば頭を押さえるネイトと杖を振り切ったホランドがもう一度振り抜こうとしている姿が見えた。気持ちの良いほどいい音と共にネイトの頭にコブが増えたのだった。


  「馬鹿になったらどうしてくれるんですか」

 「心配いらないじゃ。すでに大馬鹿じゃ」

 「ひっど!」

ネイトの案内に従い砂漠を進む中、ホランドはネイトと漫才のようなやり取りをしていた。

 大きな2発目をくらったネイトは涙目になりながら「いつまでもここにいるわけには、いかない」といって急に立ち上がり歩き出したのだ。勝手にもほどがあるとベリルはやはりネイトという男が気に入らなかった。

  「どこに向かってるんですか」

 「っ! ねぐらです!」

ニゲルの質問に嬉しそうな声でネイトは返事をしたが、完結すぎる答えにホランドの杖が出そうになる。ネイトは咄嗟に腕で頭をかばい、返事をし直した。

 「都市に入ろうとする者たちを保護しているところです」

 「じゃあ! 今日、つくはずだった船の人たちも無事ですか」

 「おそらく、仲間がうまく誘導していると思いますよ」

ニゲルはほっと胸をなでおろした。

 砂漠を歩くこと1時間、ネイトが杖を取り出し砂に差し込んだ。すると砂が輝きだし6人を包み込んだ。輝きが納まったところには誰もおらず、足跡もあっという間に風にさらわれて消えてしまった。

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