ジョルノ領に羽ばたく
アプスの背に乗りジョルノ領に真っ直ぐ向かう。高度が高く、吐く息は白くなるが、ニゲルは気にすることなく景色を堪能している。澄み渡るほど青い空に地上より強く輝く太陽の光に目を輝かせた。恐る恐る下をのぞけば、たまに過ぎる雲にアプスの影が映る。
「寒くないですか、コウ」
「大丈夫。きれいだね」
ベリルは見上げるニゲルの目に微笑んだ。ベリルもここまできれいな景色は見たことがなかった。遮るものがないからかと考えたが違うような気がしてまぶしいほど輝く太陽を手で遮りながら見上げた。
「神様が近いのかもしれない」
「何か言った」
「いえ、あっ見えてきましたよ」
ニゲルは真っ直ぐ指すベリルの指の先に目をやった。はるか先に見えてきたのは大きな砂漠都市だった。
「砂漠なの!? あれも力が足りないせい!」
「違いますよ。もともと砂漠の地なのです」
「生活できるの・・・・・・」
ニゲルはきれいなほど何もない砂漠に信じられない思いだった。森や海は水も食料もあるが、砂漠には何もないというのがニゲルのイメージだ。
「できますよ。砂漠特有の特産物があるんです。それを売って生活するんですよ。それに少し先に行けば森もありますから」
「特産物って何?」
「サボンという植物から作る美容液ですじゃ」
楽しそうに会話する2人にホランドが混ざれるとすかさず答えを返した。ニゲルは後ろにいるであろうホランドに次の質問をする。
「サボンってなに」
「とげとげとした形の砂漠に生える植物ですじゃ。まわりは固いのですがじゃ中はプルプルとしておりますじゃ」
「おいしいですよ」
「わしは苦手ですじゃ」
味に関する評価が分かれたところでニゲルは似たような植物が前の世界にもあったと思い出す。
「サボテン? でもなかがぷるぷるっていうとアロエ? あっちのサボテンも中はプルプルだったのかなぁ」
ニゲルは一度、針に刺さってから近づくことがなかったサボテンを思い浮かべ眉間に皺を寄せる。ベリルがおいしいというサボンに若干の抵抗をニゲルは覚えてしまった。
”食べたことないです”
「カルヌと大分離れてるもんね。というよりアプスは何食べるの」
”なんでも”
「なんでもなんだ・・・・・・サボンをもし持って帰れそうならカルヌにもっていこうか?」
”いいんですか!”
毛を逆立てながら喜ぶアプスにニゲルは驚きながら、食いしん坊なのかもしれないとアプスの生態認識に付け加える。
「持って帰れたらだよ」
逆立つ毛を撫でながらニゲルがそういうがなかなかアプスの興奮は落ち着きを見せなかった。その様子を微笑ましいような、神獣の食い意地に少し残念なような気がするとベリルたちは思った。
「ここら辺に降りましょう」
ベリルの指示のもと降り立てば空から見えていた都市はどこにも見えず砂だけがニゲルたちを囲んでいた。
「近くまで行きたいところですが、目立ってしまいますから。コウ、少し辛抱してくださいね」
ニゲルはベリルの言葉に頷くと頬ずりをしてくるアプスに抱き着いた。
「ありがと、アプス」
”一緒に行きたいです”
「でもカルヌのこともあるでしょ。だからね」
”・・・・・・はい”
しょげる大きな鳥にニゲルはもう一度抱き着く。
「助けてくれてありがとう。もしもの時はまた助けてくれる?」
”もちろんです!”
羽を大きく広げ光と共に消えたアプスにニゲルは助けに来れた理由を察することができた。
「瞬間移動できたんだね」
「移動というよりも転移ですじゃ」
「転移?」
ニゲルはベリルに持ち上げられながらホランドに問いかける。ベリルの無言の行動にも慣れたものでニゲルにきにするそぶりは見えない。なれとは恐ろしいものだ。
「転移はある所から違う所に一瞬で飛ぶことですじゃ。今回でいうとですじゃ、神獣様とつながりがあるニゲル様のもとにすぐに飛んで、拠点であるカルヌ神殿に飛んだということですじゃ」
「ん~、なにか目印がないとだめなの」
「そうですじゃ」
「さて出発しますよ」
ニゲルとホランドがプチ授業をしている間も黙々と準備をしていたベリルが出発の合図を出した。ニゲルはベリルの背に背負われしっかりと紐で固定されていた。ニゲルはまるで荷物だと思ったが何も言わずに手を挙げて了承を伝えた。