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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
二つ目の地
15/19

川賊の襲来

 「川賊です」

何が起きたのか確認に向かったオーウェンとフリストが静かにかつ素早く部屋に滑り込で、そうほうこくした。ニゲルは知らない言葉に深い皺を眉間に作るベリルを見上げた。

 「まずいな」

 「川賊って何」

ベリルの言葉に本当にやっかいなことが起きたのだとニゲルは見えない甲板を見るように天井を見上げる。ばたばたという荒々しい靴音がニゲルの部屋に聞こえてくる。不安そうなニゲルにベリルはどうこたえたものか悩んだが、怖がらせてもいけないと言葉を選んだ。

 「悪い奴らです。ホランド様、どうしますか」

 ベリルはしわを寄せたまま微笑むとホランドに指示を仰ぐ。この場にいる者の中でニゲルの次に力を有しているのはホランドだ。ホランドは肩を竦めた。

 「大人しく従うしかないじゃ。隠れてもすぐに見つかるじゃ」

ホランドの指示にベリルは頷き、ホランドの瞳の中に映るもう一つの指示を悟る。当たり前だともう一度深くベリルは頷いた。騒がしく品のない足音が近づいてきたと思えば、壊す勢いで部屋の扉が開かれた。

 いかにも悪人ですというわんばかりの顔は尖った雰囲気を放っている。鼻に古傷をこさえた川賊は部屋を見渡すと剣を突きつける。川賊はベリルに目をやると舌を打った。どう見ても強そうなガタイの良い男だと警戒を上げる。しかし、腕に抱えている小さな塊を見る限り、下手なことはしないだろうと川賊は考えた。もう一度、剣を突きだすと楽しそうに一つ舌なめずりをした。

 「大人しくしろよ」

 「・・・・・・わかった」

ベリルは川賊の言葉におなしく頷くと腰に隠している短剣に意識を向けた。



  「大丈夫ですか」ベリル

どんどんと顔色が悪くなるニゲルの様子にベリルだけでなくホランドたちもはらはらとしている。対面式と同じく穢れか何かに当てられているのだろうとホランドは自分のことのように辛くなる。ニゲルは対面式よりはましだと感じていたが、それを説明する元気はない。少しでも安心してもらいたいとニゲルは頷く。

 「・・・・・・うん」

 ニゲルはベリルに体全体がつくくらいしがみ付いた。空気が悪く気持ちが悪いとニゲルは耐える。早くこの空気から抜け出したいとニゲルは目を強く閉じた。ニゲルたちのことなど興味もなく、気にもしない川賊たちは金目のものをかき集め甲板に集合してくる。

 一人動かずえぐるような形の刃物を手で遊んでいるちょび髭男が頭だとベリルは観察する。そして、頭さえやれば簡単に仕留めることができるような川賊か船員のことも観察するが、難しそうだと心の中で毒を吐く。

  「運がなかったな!」頭

7人ほどの船員が集まったころ、頭が馬鹿にするような声でニゲルたち乗客に声を放った。乗客は誰も口を開けず、うつむいて祈りを捧げている者、目を見開き川賊を呆然と見ている者に分かれていた。乗客たちの一角でこすれるような呼吸音と泣き声が聞こえてきた。

  「うるせぇぞ!」

その泣き声は頭の短気に火をつける。頭は泣き続けている女性に近づいた。その女性は船着き場であった奥方だった。奥方は完全にパニック状態で、夫が落ち着かせようとするが奥方の呼吸は整わず泣くしかできない。

 一向に静かにならない奥方を頭は掴み上げた。夫が何とか許してもらおうと、頭の足に縋りつくが一蹴り食らわせるだけで頭はそれを無視する。心の底から楽しくて仕方がないという表情で奥方の髪の毛を引っ張る頭は船尾にたどり着く。

 誰もが頭が何をしようとしているのか理解した。ベリルは助けるべきか考えた。しかしすぐに自分はコウのためなら目の前の命を見捨てようと目を閉じた。見捨てた罪はいつまでも覚えていようと罪悪感を押し殺す。支えているベリルの手に力が入ったことにニゲルはだるい瞼を上げた。



 ベリルが気が付いたときにはニゲルが腕から離れ、目の前を走っていた。ベリルだけでなく、誰もが小さな子供の行動に動けなかった。川賊がニゲルの行動から意識を戻し、すぐに捕まえようとしたが、再び固まってしまう。

 なりふり構ず躍り出たニゲルからフードが肩に落ちる。フードの下から現れた、揺れる髪と瞳の色に目を奪われる。頭だけはにやりと笑い女性をニゲルの手が届きそうなところで突き落とし、ニゲルに手を伸ばす。

 しかし、頭の手はニゲルが額にまいていた白い布だけを捉えるだけだった。

  「コウ!」

ベリルは飛び降りたニゲルに呆然としていた体を動かした。その横でホランドたちも動き出し、賊たちは次々に甲板に付していく。ベリルは賊をどうこうするなど全く考えていない。邪魔なものをきり飛ばしにげるが消えた川を見下ろそうと身を乗り出した。

 「Kyueee」

 「早く! 腕っもたない!」

大きな鳥が下から現れベリルは後ずさる。その時はどこかで見たことがあった。どんどん浮上する鳥の足にニゲルが掴まれていた。ニゲルは両手で女性を掴んでいるが、今にも落としてしまいそうだった。甲板に降ろしてもらったニゲルは手を震わせながら女性を呼びかける。

 「大丈夫です。気を失っているだけです」

 「大丈夫なの・・・・・・それならいいけど」

 「kyuee! ”コウ様!”」

 「アプス! ありがと! 助かったよ!」

 すり寄るアプスにニゲルは嬉しい声をあげ、軽くなった体に首をかしげる。アプスをよく見れば見たことのない石を首から下げていた。 

 「なにそれ」

 「神から授かりました。これがあればコウを助けることができるって」

 「うれしいな」

 「コウ・・・・・・」

低い声にニゲルは恐る恐る後ろを振り返る。後ろには口だけが笑っているベリルが腰に手を当てて立っていた。そのもう少し後ろでホランドたちが族を縛りながらほっとしたような顔をしていた。

 「なに・・・・・・」

 「無茶はしないでください」

怒られるかと思ってぎゅっと目を閉じて首をすくめたニゲルは力強く抱きしめられていた。ニゲルは目を白黒させる。しかし、すぐに顔を歪めなきそうになるのを耐えてベリルにしがみついた。心配をかけてしまったとニゲルは反省しつつ、心の中は幸せで一杯だった。

  「肝が冷えましたじゃ」

 「ごめんなさい」

 「kyuuuu! ”コウ様をいじめるな!”」

 「いじめられてないよ・・・・・・むしろ心配してもらえて正直嬉しい」

アプスが翼を広げホランドたちを牽制するのにニゲルは首をすくめながらつぶやいた。この状況でいったら拙いかもしれないとわかっていながらニゲルは口にした。ホランドはニゲルの言葉に優しく微笑んだ。

  「それよりも・・・・・・」

ニゲルは額を触れてため息をついた。額にまいていた布がとれ完全に神の紋様が世間にさらされていた。乗客、そして命と意識がある川賊は目が零れ落ちそうなほど見開きニゲルを凝視していた。髪と瞳の色が揃っているくらいならば珍獣を見るようなものだったはずだ。しかし、紋様をみられれば完全にばれる。


  「オーウェン、フリスト」

 「はい」

 「荷物を持ってまいるのじゃ」

2人はホランドの指示にすぐに行動を開始する。ニゲルはベリルに抱き上げられ、アプスの背に乗せられていた。ニゲルは何となく何をしようとしているのか気が付いたが大人しくしていようとアプスに話しかける。

  「ねぇ、前より穢れ?っていうのかな。それに強くなっている気がするんだけど。これはアプスのおかげ?」

 ”違います。コウ様と神様のつながりが強くなり、跳ね返す力が強くなったのです”

 「前にカルヌに行ったときアプスも・・・・・・ごめん、えっと汚かったけど気持ち悪くならなかったよ」

 ”人と魔獣は違いますから。欲の強い人間は自分から穢れるのです。自分は穢れが巻き付いていただけで、あの穢れは自然に発生したものです”

 「難しい・・・・・・」

ニゲルはアプスの説明に頭をひねる。しかし、わからないものはわからないとニゲルは口をとがらせた。ベリルはアプスの言っている言葉は聞こえないが、どのような内容を話しているかは理解できた。あとで確認しようとベリルは思いながら荷物を手に走ってくる2人を見下ろした。

 ”大きくなったほうがよろしいですか”

 「お願いできる? 降りたほうがいい?」

 ”大丈夫です”

アプスは荷物とホランドたちをみて、体の大きさを変化させた。歓声を上げるホランドをベリルが引き上げオーウェンとフリストがアプスの差し出す足に荷物を縛り付けた。


  「守り人様!」

少し前から意識を正常に戻していた乗客たちの中から奥方を支えながら夫が飛び出してきた。ニゲルは申し訳なさそうに見下ろした。

 「ありがとうございました!」

男性の大きなお礼にニゲルは驚いてしまう。ニゲルは自分がもっと強ければ、自分にもっと守る力があれば女性につらい思いをさせなかったのではないかという後悔と情けなさしかなかった。それなのにお礼を言われニゲルはどうこたえたものか悩んでしまう。ニゲルの口から出たのはお礼に対する返答ではなかった。

  「話しかけてくれたのに、顔も隠してだましてごめんなさい」

 ニゲルはそもそも自分は仕方ないとはいえ、2人に酷いことをしていたと顔を俯かせる。ベリルは抱え支えている腕に力をわずかにこめて抱きしめる。視線を感じ顔を上げたベリルはアプスと目があった。なにを言いたいかこの時はわかり、ベリルは頷いた。

 瞬間、翼を広げたアプスはすぐに船から遠くに飛び去った。男性はもう一度大きな声を張り上げた。

 「ありがとうございます!」

そして、この奇跡に夫婦だけでなく乗客たちすべてが膝をつき天に祈りをささげた。

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