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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
二つ目の地
13/19

初めての船旅

  「本当にいかれるのですか」

 「はい」

 ニゲルはカルヌ領から帰還し1週間で次の地に向かおうとしていた。これからは秘密裏に動こうと一般的な旅装束に身を包んでいる。深緑のローブのフードを深くかぶり瞳と髪の毛を隠すニゲルはミリーナを安心させるように微笑む。その後ろにも難しい顔をしているアクィラがニゲルを見つめている。

 「行ってきます」

 「はぁ・・・・・・お引止めすることはできないようですね。ホランド、ベリル、オーウェン、フリスト。しっかりニゲル様をお守りするのだ」

 「かしこまりましたじゃ」

 「命に代えましても」

 ニゲルはホランド以外の返答に口を歪める。命に代えては欲しくないといいたいが王様の前で文句を言うのはだめかとむくれてしまう。アクィラはニゲルの不服そうな表情に気が付くとしゃがみ込みニゲルを抱きしめた。

 「無茶はなさらないように。全員の帰還をお待ちしております」

 「はい!」


  「ねぇ、どうやって行くの」

 「今回は船で行きますよ」

ニゲルはベリルの言葉に首をかしげる。今回向かう南東のジョルノ領は陸続きで船に乗るようなことはなかったとニゲルは地図を思い出す。

 「海なんかあった?」

 「川ですよ。そちらの方が早いですし楽なんです」

 「そうなんだ」

船に乗るのは初めてだとニゲルは心を躍らせる。ただ船酔いをしないか不安になり眉をひそめた。

 「コウは船は初めてですか」

頷くニゲルの表情にベリルはにやりと笑う。

 「楽しみですね。酔ったら吐いてくださいね」

 「いやだよ」

 「ちゃんと薬も持っておりますじゃ」

ホランドはベリルにため息をつきながらニゲルを安心させる。しかし、帰ってきたのは安心した笑みではなく怪しむような顔だった。思わぬ表情に見下ろされ、ホランドはベリルに抱き上げられているニゲルを見つめた。

 「その薬、苦い?」

 「ほ・・・・・・とびっきり苦いですじゃ」

 ホランドは一瞬固まったが、小さく噴き出しつつニゲルの求めていない答えを返した。そうこうしているうちに船着き場が見えてくる。ベリルに声をかけられニゲルは船着き場のほうを振り向いた。大きな船着き場に3隻の船が停泊していた。想像以上の大きさにニゲルの目は輝く。

 「おっきい!」

 「客船ですからね。あとで探検しましょうか」

 「する! する!」

ベリルの腕から降りるとニゲルはベリルの手を引いて船の近くに駆けていく。その姿にホランド、オーウェン、フリストは微笑ましい笑みを浮かべ乗船手続きを済ませようかと受付に向かった。

  ニゲルは見上げながら歓声を上げた。

 「すごい!」

 「あんまり見上げていると後ろにこけますよ」

 「こけないもん」

ニゲルはベリルの指摘に唇を尖らせる。2人は船の至る所差しながら会話を弾ませる。そこに声がかかった。

 「こんにちわ」

 「・・・・・・こんにちわ」

 「こんにちわ。すいません、騒がしかったですか」

優しい女性の声に振り返れば年配の夫婦がニゲルたちを見ていた。ベリルは少し騒がしくしすぎたかと誤ったが笑いながら手を横に振る夫婦に違ったかと安堵する。

 「とても楽しそうだったので」

 「ぼくは船を見るのは初めてなのかい」

ニゲルは自分に聞かれているのだと気が付くがすぐに声が出なかった。

 「・・・・・・初めてです」

 「どうだい」

返事の遅れたニゲルに怒るでもなく柔らかな笑みを浮かべる夫婦はニゲルの目に好感的にうつる。ベリルは危険はないだろうと判断しながらも油断なく後ろに隠している短剣に手を添えている。

 「大きくて、それにあの上のところに模様があってとってもかっこいいと思いました」

夫婦は顔はローブの影に隠れて見えないが楽しそうな声に笑みを深めた。

 「そういってもらえると嬉しいよ」

 「?」

ニゲルは幸せそうな男性の声に首をかしげる。ベリルはそういうことかと笑った。

 「この船を造られた方ですか」

 「あぁ、といってもあの装飾の部分だがな」

男性はニゲルが指さした模様を指さした。

 「年を取ったもんだから船の装飾の仕事を引退しようと思ってな。最後に自分の装飾で身を包む船に乗ることにしたんだ。まさか、船だけでなく俺の作品を直接褒められるとは思わなかったぞ」

男性は本当に嬉しそうに笑い、その横で女性も楽しそうな声を上げている。ニゲルはもう一度目の前の男性が手掛けた装飾を見上げる。

  「コウ様、船に乗りますじゃ」

ホランドがニゲルに呼びかける。ニゲルは船に乗れると目を輝かせた。そわそわとするニゲルに男性が職人の豪快な笑みを浮かべた。

 「呼んでるぞ」

 「はい! ありがとうございます」

ニゲルは差し出されたホランドの手を握った。ホランドは小さく夫婦に頭を下げ、ウキウキとした思いが伝わってくる握られた手に笑みがこぼれる。

   「様ということはご家族ではなかったのね。仲が良かったからてっきり」

 「ありがとうございます。たしかに家族ではありませんが弟のように思っています」

 「あの子は日差しに弱いのかな」

 「すぐに皮膚が赤くなってしまうので、ローブが欠かせません」

 「そうか」

夫婦はホランドと手をつなぐニゲルの格好をもう一度見た。太陽にあたるところは一切なかった。手袋を着用し、袖もしっかりめくれないようにしてある。活発な子供にはつらいことなのではないかと考えてしまう。

 しかし、元気よく手を振って隣に立つ男をよぶ声はとても楽しそうだと夫婦は笑った。

 「呼ばれてますわよ」

 「えぇ」

ベリルはにっこりと笑うと頭を下げニゲルのもとに走る。その後姿を夫婦は幸せそうに見つめた。この最後の船旅は幸せで楽しいものになりそうだと予感した。


 客室に入ったニゲルはフードも取らずに部屋を探検する。いたるところの引き出し、扉を開ける姿は子供そのものだ。

 「ニゲル様」

 「なに?」

クローゼットを開いたままニゲルは振り向いた。

 「最終確認ですじゃ。わしのことは何と呼ぶんでしたかじゃ」

 「ランド」

 「気を付けることは何ですじゃ」

 「えっと、フードを絶対に取らない。肌は見せない。あとベリルかホランドと絶対一緒にいる」

ホランドはニゲルの答えに満足そうに頷く。ニゲルは手袋をつけた自分の手を見つめた。

 「なんで手袋までするの」

 「日差しに弱いからフードをかぶるのに手を出していてはおかしいからですじゃ」

 「なるほど!」

ニゲルはクローゼットの扉を閉めると客室の窓を覗き込む。いつ動くのだろうかと水面と川岸を見つめていた。一通り部屋のチェックを終えたベリルがニゲルのもとに戻ってきた。

 「さぁ、探検に行きましょうか」

 「うん!」

 「ベリル、ニゲル様に変なことを教えないようにじゃ」

 「わかってます」

本当にわかっているのかと聞き返したいベリルの返事とニゲルの元気な笑い声にホランドはため息をついた。しかし、そのため息は暗いものではなかった。


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