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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
一つ目の地
12/19

母親

 カルヌから帰還したニゲルたちは国王陛下直々の迎えを受けた。アクィラはずっと不安で仕方なかったのだ。この世界に久しぶりに降臨した守り人がすぐにこの城から離れて旅に出るというのだから不安でないはずがない。

 「無事のご帰還、こころより安堵いたしております」

 「あ・・・・・・りがとうございます」

 「なにか?」

言い淀んだ様子のニゲルにアクィラは首をかしげた。ニゲルは目の前にしゃがみ本当に心配している様子のアクィラに悪い気がしたがこれは自分がやらなければならないことだとしっかり前を見た。

 「僕はこれからも色々なところに行きます」

 「っ!? なぜですか」

 「崩壊をとめ、神様の力を伝えるために。***は僕がいるだけでいいといったけど僕はこの世界をよくしたい!」


 アクィラはニゲルを自然に抱き締めていた。我々はこのような小さい子供に頼らねばならないのかと不甲斐なくなる。しかしほかに手はないのだということは理解できた。***はおそらく神様のことだろうとわかったアクィラは神が世界を重視していないのだと理解した。しかし、目の前の小さな子は自分の意志で来たばかりのこの世界を守ろうとしている。これほど悲しい運命はない。

 せめて健やかに過ごしていただきたいとアクィラは願い、自分にできることをやろうと決めた。普通の子供のように健やかに成長できるように接していこうと決めた。そしてアクィラは少し前から考えていたことをニゲルに提案した。

 現在のニゲルは男ばかりで、やはり子供の教育には女性の手も入れねばいけないだろうと

 「ニゲル様、私の妻とお会いになりませんか」

 「え?」

 「妻もお会いしたいと申しているのです」


  「ねぇ王様の妻って王妃様ってこと?」

 「クスッ・・・・・・そうですよ」

ベリルにいつものように運ばれながらニゲルはどんな人なんだろうと想像を膨らませる。王様の奥さんなんだから綺麗なんだろうなと想像を膨らませる。

 「ミリーナ! ニゲル様をお連れしたぞ」

 「まぁ! ニゲル様が!」

アクィラがのぞくように開けた扉の向こうからパタパタと走るような軽やかな音が近づいてくる。

 ニゲルはベリルに降ろしてもらいどんな方かとワクワクと扉とアクィラの背中を見ていた。そしてアクィラが覗き込んでいた扉が開き女性が姿を見せ、ニゲルは目を見開いた。

 あまりにも似ていた。目の色こそ違うがニゲルいや、山下弘也の母親と瓜二つだ。ニゲルの口が無意識に動いてしまう。呼べなくなったお母さんという言葉を口は紡ぐ。



 正面からみていた王妃ミリーナはニゲルの驚いた様子の理由を理解した。ミリーナは驚かせないようにゆっくりとしゃがむとニゲルを優しく包み込む。ニゲルは暖かな感覚に母親を思い出してしまう。懐かしい感覚に涙が溢れだす。

 「お母さん」

 ミリーナは肯定も否定もせず抱き締めた。そして、ちらりとアクィラたちをみるとニゲルを抱き上げて部屋の扉を閉めた。アクィラたちは今は任せるのが一番だとベリルが少し離れて待機しとホランドは別室に移動した。


  「ごめんなさい」

 「いいのですよ。わたくしはニゲル様のお母様に似ておりますか」

 「うん」

ミリーナはニゲルを抱き上げたままソファに座った。申し訳なさげに服をつかむニゲルにミリーナは目を潤ませてしまう。甘えたい思いを出し切ることができず、耐えているニゲルの姿が痛ましくミリーナの目に映る。

 「お母さんに似てるけどやっぱり違う・・・・・・でも僕のこと優しく抱きしめてくれて、王妃様もベリルも! ホランドも!・・・・・・王様も・・・・・・僕、そんなの久しぶりでうれしいのに! 泣いちゃって困らせて! ごめんなさい」

 ミリーナは何も言わずに力強く抱きしめた。そしてミリーナはニゲルが向こうの世界で良い環境にいなかったことを本当の意味で理解した。アクィラよりおそらく暴力を振るわれてきた子供だと聞いていたが実際にニゲルを目にし言葉を少し交わし悲しみと怒りが増した。そしてミリーナは神に感謝した。

 ニゲルをもとの世界から救い出してくれたことに感謝した。そして、ニゲルに寂しい思いはさせないとミリーナは涙する瞳に力を込めた。それはまるで子を守る母親の目であった。


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