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神の箱庭の守り人  作者: 白山 銀四郎
一つ目の地
10/19

輝く尾をもつ怪鳥

 「暗いね」

 「ですね」

 1時間が経過し獣も一切出現することもなく、ニゲルはオーウェン、フリストにいろいろ質問していた。

 オーウェンは話してみると顔に似合わず男らしい発言をするし、フリストはぼそぼそとたまに聞き取れない声で話す。そして共通しているのは神官の中でも戦闘能力が高いというところだ。ニゲルは2人の腰に穿く剣とベリルの剣を見比べ、腕力はベリルのほうが強いんだろうなと思った。

 もし自分が剣を習うならオーウェンとフリストにしようと細剣を握る自分を想像して無理だと気が付く。細剣はニゲルの身長と大差ない長さである。しかし剣は人に合わせて作ることができることをニゲルは知らない。

 「ニゲル様、もうすぐですじゃ」

ホランドの声に細剣から意識を戻し首を動かす。坂道から美しかったであろう階段に変わろうとしていた。蔦が絡まりこけも生えた階段だがニゲルの目には別のものが見えていた。階段一段一段に模様が描かれ淡く光っていた。

 「降りる」

ニゲルの言葉にベリルはすぐにしゃがみゆっくりニゲルを下ろす。ニゲルはそのまま階段に近づきじっと模様を見つめた。模様はニゲルの額にあるものと似ているが少し違う。

 そして破損しているかのように一部が光を発していなかった。わからないものに対する恐怖心はあったがこれ以上ここで立ち止まっていることはできないと階段に足を乗せた。

 「うわぁ」

 「コウ!」

 「「「ニゲル様!」」」

急激に輝きだした階段にニゲルは驚き、視覚することができたベリルたちは駆け寄りニゲルを後ろに引っ張った。どんどんと上に光が上っていく。ニゲルはまずいことをしたのかもと不安になった。

 「どうなるんだ」

 「Kieeeee!」

 「何!?」

 当然、空気を震わせ耳を劈く奇声が響き渡った。ニゲルを守るように布陣するベリルたちにニゲルはどうすればよいのかわからず体を小さくさせ震えることしかできない。大きな羽音がどんどん近づき風がニゲルたちを巻き上げるように吹き付けた。

 


 ラウジアの屋敷では残された4人の神官とラウジアがルシオラ山を見つめ不安を顔にのせていた。

 「大丈夫でしょうか」

 「信じることしかできません、ラウジア卿」

神官の言葉にラウジアは歯をかみしめる。ここにいる限りニゲルたちの安否も不明で何の助けにもならないことはわかりきったことである。

 しかしラウジアは不安で仕方ない。それはニゲルたちの安否ではなく自分の領地のことであった。

もしもこのカルヌの地でニゲルの身に何か起きれば今以上の飢餓や天災に見舞われることになるかもしれない、また国からの処罰が下る可能性が高かった。

 「無事にかっ!? なんです!?」

 足を救われるような地響きが発生した。大きな揺れが収まり少し下にある家々から領民が飛び出してくる。ラウジアはすぐに領民のもとに駆けおりて、動けないものに手を貸す。

 「みんな! 一旦屋敷に来なさい」

ラウジアの言葉に領民は青ざめた顔でうなづくと手を取り合い屋敷に駆け入り、顔を確認しあう。ラウジアは年寄りに手を貸しながらルシオラ山を振り向いた。ラウジアの足が止まった。

 「なんだ! なんなんだ! あれは!」

ラウジアの悲鳴に似た声が上がった。

 ルシオラ山から何かが飛び出し竜巻を生み出す光景は幻だと思えた。それなりに距離があるのにも関わらずどんなものか見えるということは巨大な魔獣か何かだとわかった。

鳥のような形状で尾を光輝かせる姿は見たことがない。

 ラウジアはその怪鳥へと見開いた目が釘付けになっていたが、横を馬にまたがり駆け抜けた神官たちに意識を取り戻す。続くようにラウジアは年寄りを領民に預け、家宰にもしもは頼むとだけ言うと厩舎から急いで馬と共に駆け出した。




 ニゲルは道から少し離れた位置で防御魔法でホランドに守られていた。突然現れた怪鳥は迷うことなくニゲルたちに襲い掛かった。とてつもない大きさに苦戦しながら3人が連携して戦っていた。

 しかし怪鳥の足の爪ほどのサイズしかない人間が勝てるわけもなく、着実にベリルたちは押され、傷を作っていっている。

 ニゲルは少しずつ動きが悪くなり、怪我を負っていくベリルたちにどうすればいいのか考えるが自分は何もできないと唇をかみしめる。

 「Kieeee!Kyuuuuuuuu!」

 怪鳥が再び奇声を上げた。その時ニゲルはなぜか言葉として聞き取ったような感覚になった。辛そうな声だとニゲルは怪鳥を見つめた。今まで怪我を増やす3人に気を取られしっかり怪鳥を見ていなかった。暴れる怪鳥はとてもつらく悲しくニゲルには見えた。

ニゲルはなんとかしてあげたい、ベリルも助けたい、カルヌの人たちも助けたいという思いが募りだす。

 目をそらすことなく戦いを見ていたニゲルはパッと飛び出し、倒れ込んだフリストと足を振り降ろそうとする怪鳥の間に体を滑り込ませた。ホランドは遮っていた手をすり抜けるようにいつの間にか戦いの中に身を投じたニゲルに呆然とし叫び声を上げた。

 「ニゲル様!」

 「コウ!」

スローで迫りくる巨大で獰猛な足をニゲルは目をそらすことなく見つめた。

 「助けたい」

 後ろで倒れるフリストだけでも助けたいと強く願ったニゲルの思いは形となって表れた。薄く光る膜が怪鳥の足を防いでいた。ニゲル自身よく理解はしていなかった。

 しかし自分のすべきことは理解できていた。ニゲルが怪鳥から離れるのではなく怪鳥に近づき、無事な姿に安心したベリルの心はまた凍り付く。剣をほり投げてニゲルのもとに駆けた。


 ニゲルは自然と動く体と口に従った。一つ手を打ち鳴らし口上を述べる。

 

 「神の力を顕現しせり。神アルタイルに感謝せよ」

 

 打ち鳴らし合わせていた手を力を解放させるかのように横に大きく広げれば、赤く巨大な力がニゲルを中心に広がった。ニゲルは自分からあふれ出る力に意識を持っていかれそうになるのを耐える。

 「あとっ少し」

 ニゲルは力がどこまでいきわたっているのか分かった。アルタイルの力が着実に地に注がれ地に生命力があふれるのがわかる。ニゲルはカルヌ神殿の領域に力がいきわたったことを検知するとあふれ出る力を抑え込めるように中央でもう一度手を打ち鳴らした。その光景にベリルは足を止めていた。目の前で起きていることは奇跡だと思わずにはいられない。

 

 「神の力を顕現しせり。神******に感謝せよ」


 ニゲルの発した口上に驚きそして急な耳鳴りで続く言葉を聞き取ることはできなかった。それはベリルだけでなくホランドたちも同様であった。ベリルは怪鳥を油断なく見たが怪鳥も何かに縫い付けられたかのように微動だにしない。

 「あれは・・・・・・」

 「神様の力じゃ」

 ベリルは五日の謁見の間で感じた力に身を固くしホランドは目を丸くしニゲルを見守った。

 2度目の拍手の後、膝から崩れ落ちるニゲルに今度こそ駆け寄り体を支える。この時すでに怪鳥のことなどホランド、ベリルの頭になかった。


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