表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファフロツキーズの悪魔  作者: 飯田三一(いいだみい)
9/9

9

私は夜、ベットで2人から逸らす形で反対を向いた。

ニーナは運んで、リンも疲れていたのか程なくして眠りに落ちた。

私はリンに言われた案をもう一度考える。

謎はまだたくさんある。記憶喪失と一口には言えない私の頭。人類の大量消失、私達が生き残った理由、広がる草原の謎、ガスや電気などのインフラの謎…多分気付いてないだけでまだまだ問題は沢山あるんだろうと思う。そういう問題を残したままで終わるのは私個人としてはとてももやもやする。まだ食べれるのにフルコースのメインディッシュを丸々残すような。その位のような気がする。

でも、そんなメインディッシュを無視してでも食べたくなるデザートとしての魅力も、リンの提案には大いに感じられる。自分には何故その考えが今の今まで全く浮かばなかったのだろうか。やはりこの妙な記憶の欠落に起因するのだろうか…

「っ…」

「タイムマシン…これで変えられるんだね。」

「そうだな。けれど…」

今体験したことのない記憶が流れた。

周りの建物は全て倒壊していたが、人がいる周りの半径15mくらいは地面が露出していて、広場みたいになっているところで、私の目線になっている誰かと、不動の桃と、リン…みたいなお姉さんとニーナ…みたいな女性が居た。そしてもう一人、全く顔の知らない少年が居た。

タイムマシン…?見たことない少年が口にしていたのは、とても突拍子も無い発言だった。そしてそれに真剣に耳を傾けるいい大人達。

全く見に覚えもないし、その光景ではっきり理解できる顔は桃だけだった。しかし、桃は何か、生きているような感じでは無い。一瞬見えた走馬灯のような光景だったはずなのに、細かく覚えている。やはり記憶の一部であるからだろうか。

私はその光景の続きを期待して、眠りについた。


翌朝、その夢の続きを見ることはなく、リンに思いっきり叩かれて起きた。

「朝だよ。時間もわかんないですけど、起きておいた方がよくないですか?」

「うん。そうだね…にしたって思いっきり叩かなくても…」

「初めは優しく起こしたのですが、全然起きる気配がなかったので…」

心底呆れた…みたいな表情で話す。

「優しくって?」

「耳元で囁くように、おはようございますと…そして優しくトントンと…」

少し離れたところで実演してくれる。その挙動は、おおよそ子供を寝かしつける時のそれだった。

「実は叩きたかっただけとかじゃないよな?」

「いえ、断じてそれはありません。」

「絶対だな?」

「絶対です。」

絶対わざとだ。

心の内を明かす気は到底なさそうなので諦めて布団を出る。

「目は覚めたんじゃないですか?」

「どちらかといえばそのあとの会話で目が覚めたな。」

リビングまでの移動を開始する。

あれ、そういえば…

「ニーナは?」

「トイレです」

「トイレに行きたい…と起こされてしまいました。」

あいつ毎朝トイレに行くためにどちらかを起こすのか…?

「リンもか」

「と言いますと?」

「私が昨日リンより先に起きてたのもニーナに起こされたからなんだよ」

「なるほど…毎朝ニーナちゃんに頼めば…」

考えるポーズを取って割と真面目そうな顔で考えるリン。

「やっぱりお前…」

「いえいえ、なんでもありませんよ」

よくそんな爽やかな笑顔で返せるもんだな…とこれは言わないでおこう。


…そうだ。

「昨日のこと…」

「答えはゆっくりでいいです。」

先読みしてリンは答える。

「とりあえず答えが出るまでは、ここで生活…ってことでいいんじゃないでしょうか。」

「ああ…」

それは折衷案という訳でもなく、どちらかといえばリンの意見に傾倒したそれでは合ったけれど、それをのんだ。

「トレルおねーちゃんも起きたの?」

どたどたという足音と共に、少女は走って来た。

3人揃って、そしてリビングのソファーに腰かけた。

「今日どうしましょうか。僕としましてはもう少し生活に必要なものを収集しておきたいのですが…」

「楽しいから…じゃなくて?」

「いえ、そこまで子供じゃありませんよ。」

いや、年相応であればそういう感情をまだ持っていても何もおかしくはない年齢だと思うのだけれど…

「じゃあなんで?」

「長期的な生活が予想されますので、料理もしっかりとしたものを作りたいんです。」

「作れるのか?」

「はい、少しは」

それに…と言い、立ち上がって台所に置いてあった少し分厚い本を手に取って

「こんなものを発見しまして」

「なるほど料理本か。」

それは市販の少し分厚めなレシピ本兼料理の基礎の本だった。

「ここにあるものを作るには、昨日適当に持ってきたのでは少し足りなかったんです。」

「だから今日も探索に行きたいと…」

しかし、私の中で正直優先したいことがある。

「不満ですか?」

少し怒った顔で料理本を置いて座り直す。

「…正直」

顔に出ていたらしい。

「じゃあディンさんは何がしたいんですか?」

「私はあの草原をもう一度見て、あと踏み入れておきたい。」

「なるほど…確かに生活圏の一部にはなると思うので、一度言っておくべきではあると思いますが…」

「ふわぁ…」

ニーナが欠伸をした。長話すると二度寝してしまいそうだ。

「じゃあこうしませんか?私は最低限欲しいものだけ探しますので、今からしばらくは探させてください。私1人で行きますので。」

「え、なんで?怒らせちゃった?」

「いえいえ、そうではなくて準備しといて欲しいんです。」

「何かいるかな?」

「一応何かあったときのために、刃物とかライトとかお願いします。」

「了解」

「ニーナちゃんも手伝っておいてね。」

「わかったー」

少しだけまだ眠そうな声で返事した。

リンはソファーから立ち上がり、そのまま意気揚々と出て行ってしまった。

「ニーナちゃん」

…あれ?

「ニーナちゃん!」

「ん?」

寝かけちゃったかな?

「準備しよっか」

「うん!」


リンの帰りは思ったより早かった。

ここにある壁掛け時計を見る限りは30分くらいで帰ってきた。

「お待たせしました!」

満足そうに鍋やらなんやらを抱えていた。

「もう行く準備は大丈夫ですか?」

それらをキッチンに適当に置きながら言った。

「もう大丈夫だよ。はいリュック。」

「ありがとうございます」

「休憩はなくて大丈夫か?」

「はい、まだ若いですので。」

その台詞を言うにはリンはまだ若すぎる気がする。

私たちは草原に向かった。

「暑くもなく、寒くもなく…春って感じですね。」

「そういえば怪雨のあとから天気変わってないな。」

私達は、家族のように、ニーナを挟む形で3人で手を繋いだ。

たまにニーナが足を離してブラブラとする。私は大丈夫だけれど。

「ニーナ、リンおねーちゃんが大変そうだから、やめてあげてね。」

優しく伝える。保育園の先生のイメージで。

「なんかディンさんにそう呼ばれると鳥肌が…」

「あれ?今私助けたよね?リンを守ろうとしたよね?」

「冗談です。ありがとうございます。自分では切り出し難かったです。」

普通にありがたがれた。皮肉っぽい感じでもなく。

「う、うん。」

だから返事に困った。

「あれ、もしかして拍子抜けしちゃいました?」

「…正直」

んふと息を殺して笑うリンを放置して、ニーナに移す。

「ニーナって、意外と静かだよな。」

「ん〜?」

あまりわかって無さそうだ。

「なんか、私達が話してる間には滅多に入ってこないじゃない?」

「そーかなー?」

誤魔化しても無駄だぞ〜ニーナ…

「つまり、なんだか大人びてるなってこと。」

「あたしが?」

2人に比べると少しゴツゴツした私の手からするりと離れた小さな手が、自身を指差す。

「うん。なんだか空気を読まれているような感じがする。」

「だから、なんだろう…もっと遠慮無く接して欲しいなってこと。」

こんな小さい子に何言ってるんだと思うかもしれないが、意外と本気だ。

「わかった。じゃあもうえんりょしないね。」

やはりしていたか…少女よ…

「よくわかんないけど」

よくわからなかったらしい。

「ええ…」

リンがずっこける動きをした。

「相変わらず臭いのは変わりないですね。」

リンが話を変えた。

「いや…実は私は慣れてきている節がある。服を剥ぎたくなるほどの嫌悪感は、とっくの昔に消滅したな。」

なんとなく桃の顔が過り、それを急いで遮る。嫌な光景を思い出した。

「ニーナちゃんは?」

「ん?なーに?」

「訊いてなかったの?」

「…ごめんなさい」

少ししょんぼりするニーナ

「まあまあ…あのね、まだ臭いねって話だよ。」

「あー」

初めて聞いたような反応。やっぱり聞いてなかったのか。

「あたしはもともとへーきだよ!」

「そういえばこの子そうだったな。」

「僕もど忘れしていました。」

そこで会話が途切れた。

何故かといえば、私たちの眼前には、予想だにしなかった景色が広がっていたからだ。

「草原が……ない…?」

「みちはあってるとおもうけど…」

「えっ…えっ…?」

全員でそこに立ち竦んで混乱した。

昨日まで確かに草原があった場所は、ただ続きの住宅街があるままだった。

怖くなった。また逃げ出したい。けど。

一歩。私は一歩踏み込んだ。

「行こう」

多分その声は震えていたけれど。

でも。

「うん…」

「はい!」

2人は承諾してくれた。

多分2人も無理をして。みんなで、怖さを踏み切った。とっくの昔に赤信号になった横断歩道を渡るように、恐怖の心を持ちながらも、堂々に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ