いつもの帰り道
「坂本は進路どうする?」
いつもの帰宅途中山ピーこと山下 海斗は一緒にチャリを漕ぎながらそう尋ねてきた。
「進路?そんなのまだ考えてるわけねえだろ。」
「ちょっとは考えた方が良いんじゃない?もう二年の二学期だぞ?」
「俺は先のことはうじうじ考えねえから。なるようになるだろ。」
俺、坂本 慎之介はちょー男らしい男を目指してるからそんなこと一々考えないのだ。
「そんなアホみたいな髪型してたら進学も就職も出来ないんじゃない?」
「アホってなんだよ!このリーゼントちょーカッコいいだろうが!」
山ピーは元野球部で今でも頭は坊主頭だ。
そんな山ピーにはこの渋い髪型は理解できないのだろう。
「ははは、お前影でなんてあだ名で呼ばれてるか知ってるか?」
山ピーは笑いながらそう質問してくる。
影のあだ名?そんなの知るわけねーじゃん。
「あだ名ってなんだよ?」
「お前みんなから徹子って呼ばれてるぞ。」
「徹子ぉ!?なんで俺が徹子なんだよ!」
「頭の中に色々隠し持ってるから。」
確かに俺は学校に持っていけない、あんなものやこんなものをリーゼントの中に隠し持っていくことはあるが、あんな玉ねぎおばさんと一緒にされるのは心外だ!
「この頭はトレードマークだからよ、今更変える気はねえよ。それよりお前の進路はどうなんだよ!」
逸れそうになっていた話を軌道修正して進路の話にもっていこう。
「俺はアニメーターの専門学校に行きたいんだ。」
「やっぱりそんな感じかよ、山ピーらしいな。」
山ピーは入学当初から野球部で異彩を放っていた。
一年生ながら145kmの速球を投げ一年の夏から背番号をもらい、3,2年に交じって試合に出ていた。
だがそんな山ピーが突然野球部をやめたのだ。
どっかケガでもしたのか、なにかトラブルでもあったのか。
山ピーに聞いて帰ってきた答えは
『野球部の練習時間長すぎてアニメ見たりゲームしたりできないんだもん。』
・・・。
せっかくの才能があった山ピーだがそんなやむを得ない理由で野球部をやめてしまったのだ。
順調に行けばプロにだってなれると言われていたのに。
まあそんな山ピーは時間の束縛もなくなり自由にアニメやゲームにいそしむ毎日を送っているのだ。
「まあ将来のことはまだ先でいいや。そんなことよりまたマンガ貸してくれよ、前に借りたの読み終わっちゃってさ。」
「借りる前にちゃんと返せよ、おまえはジャ〇アンか?」
「あー、うちのジャ〇子がまだ読んでんだよなぁ。」
ジャ〇子とは俺の姉ちゃんのことだ。
ちょっとしたことで暴力振るってくるし、人の物は勝手に持っていくし、パンイチでうろつくし。
ジャ〇子というよりはもろジャ〇アンだが女ということでジャ〇子と陰では呼んでいる。
「ジャ〇子って霞さんのことか?お前の姉ちゃん美人だよな~。」
山ピーは俺の姉ちゃんのことを美人だというが、一緒に暮らしてるとそうは思えんぞ。
まあ姉ちゃんの居ないやつにはわからないらしいが。
「要るならやるよ。いい年こいて働いてないニート姉だけどな。」
「是非くれ!」
「それでは契約書にサインしてくださーいw」
「おいくらですか?」
「こちら2円となっておりまーすwなお、購入後のトラブルに当店は一切関与いたしませんw」
「買います買います!」
「おっ!お客様運がいい!ただいま在庫処分セールにつきこちら1円となっておりますwww」
バッキイイイイ!!!!!
「ぐえぶっ!!!!!!!」
どしゃあああああああ!!!!
調子に乗っていたら正面から鉄の塊のようなものが俺の顔面にクリーンヒットし、俺は自転車から叩き落された。
「売れ残りのセール品で悪かったわね慎之介・・・。」ゴゴゴゴゴゴ
なるほど鉄の塊のようなものは姉ちゃんの鉄拳だったわけか。
気づかないうちに俺の家の前までついてしまっていたわけだ納得。
っていうかメッチャ痛えええええええ!!!!やりすぎだろ!!!!
鼻血がドバドバ出てくるんだがそんなことお構いなしに姉ちゃんは山ピーと話をしている!
まず重症の俺を心配して!
「海斗君丁度良かった。バカが借りてた本があったでしょ?今持ってくるね。」
「あ、ありがとうございます霞さん///」
姉ちゃんは本をとりに家の中に入っていった。
なんでこんなゴリラにデレデレしてんだこいつ。
「・・・お前、俺のこの惨状見て何も思わないわけ?」
「・・・あっ、どうしたんだよ坂本顔面血だらけで!」
「いや遅せえだろ!!!」
「おまたせーー。はいこれ。」
マウンテンゴリラが戻ってきた。
俺以外には愛想いいんだからひどい話だよなあ。
「おっと、山ピーまた後で家に行っていいか?」
「いいよ。じゃあ待ってるから。それでは霞さんまた今度///」
「またねーー。」
山ピーは名残惜しそうにチャリを漕いで去っていった。
「ちくしょー、顔洗わなきゃ血まみれだよ・・・。」
「言っとくけど陰口言ってたアンタの自業自得だからね!」ぷんすこっ!
なーにがぷんすこだ。
「あっ、そうだ。姉ちゃんあとで山ピーん家いくから車で乗っけてってくれよ。」
「はぁ?めんどくさい・・・。」
ずっと暇してるただ飯喰らいなんだからそんぐらいしてくれてもいいだろ。
・・・言ったら怒られるかな?
自殺行為だやめておこう。
「姉ちゃんも借りてきた本読むだろ?そうだ、姉ちゃんも好きな本借りればいいじゃん。」
「うーん、それならいいかな?」
よしうまく丸め込めたぞ!
「じゃあ顔洗ってくるから車出しといて、それからもう少しまともな格好してくれよな!」
「へいへーい」
短パンにタンクトップ一枚という年頃の女性とは思えない格好の姉をしり目に俺は洗面所へ向かうのだった。