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第5話 面白そうな事

 そっか、そうだよねー。やっぱり帰ってこないよねー。

 ほら、私だよ。君たち、本って好き?

 あ、そういえば、君が読んでるその本事実の修正しないといけないから、回収するんだって。

 ほら、早く出さないと、

 ダメダヨ?



 この灰色の下に行われる最高会議はない。

 常に蒼い空の下である。

 上に天井はない。

 横に壁はなく際限なく広いものである。

 天使舞い降りそうな暗い蒼い(あおい)空のもと、微風に吹かれながら会議は行われた。

 2258年春の事である。


「あの子の事、どう思う?」

 切り出した、一人の男。顔は夜色。

「少々マズイと思います」

 生真面目に返すその顔は土色。

「少々どころではなく、危険ない気に入ってるわ。」

 鋭い声で切り返した、その女の顔はシリウス色。

「でも、どうするわけにもいかない。まだ、放置していても構わない。広がらなければ放置が良いですね」

 落ち着いた子供の声。その顔は紅色。

「まだ、関与する必要はない。以上だ。解散」

 締めくくる重役のようで小柄なそいつの顔は……

 無色。


 その彼は、変わらない顔のままに思案する。

 灰色の空のもと、灰色の煙と、灰色の建物に包まれた世界は味気ないもの。

 その空が晴れることはないだろう……

 そう、永遠に。

 そして、その限りは我々は楽に暮らし続けるだろう。この空の続く限り。


 それが、こんくるーじょん。

 結末である。

 誰もしらない結末。



 同年、春下旬にて。三月のこと。

 シェフレラ、ルピナスの母エリカの家にて。

 フレラはルピナスの珍しい声を聴いていた。ブローディアから話を聞いていた時のことでもある。


 お姉ちゃんの弱ってるときの声。

 友達作りの名人にとって、会話を上手く弾ませるのは得意分野だと自称していた。

 しかし、この場合はそうもいかないってこと。

 難しい話ではないって分かってるのかもしれない。

 けど、全く知らない事っていうのは、理解できる出来ないの前に認識できないことが多いのだ。

 ブローディアの話はそんな話しだった。

「……何か、わたし達の知らない事ばっかり言っててだんだん分からなくちゃった。」

「どうしたの?」

 心配になる。新しい事が重なるのはやっぱり負担が大きいのかな。

 僕のように興味をもって行けるなら楽しめるだろうけど……そうはいかないのかな。

 研究とかしてみたいことの一つ。

「うーん。ちょっと頭が痛いかも。」

 言いながら頭を抱えて弱々しい笑みを浮かべる。

 その裏には面白そうって笑いも隠れてるような気がして、その顔を見つめる。

 けど、僕から視線を外してあおむけになって天井を指差す。

 無色、無個性な白と黒の合間の色の天井。

「だってさ、この子ですら知ってる事、わたしたちって知らないんだよ?空の事、ふねのこと、海の外、他の……場所。空がさ、青色なんてさ?

 海が空から降ってきてるようなものなのかな、なんて思ったりもするの。ブロードにとっての常識は、私たちにとっての非常識だったりする。きっとさ、他の人たちもそうだよ。ブロードの知ってることはみんな知らないの。」

 それは、お姉ちゃんの言う空の色で、ここにもし本当に海があったならと思った。

 けど、僕らが知る海は汚く。かぶりたくないって、即座の発想。

「……知らない事を急に知って混乱すると言うなら、実物を見に行こう」

 弱々しくつぶやいて、すこしだけ達観してるお姉ちゃんに慰めるように語りかけた。

 実物なんてしらない。

 それでも、僕ら子供は、面白がってる。

 お姉ちゃんのその顔の下……それはきっと笑ってる事。多分、お姉ちゃんも興味がある。

 僕はお姉ちゃんのすべてを理解しているわけじゃない。

 だから、本当はどんな表情してるかは、僕も不思議だけど。

 きっと。

 そういう思い。

「空の本当の色って、ルピナス達の話だと知らないし、見れないってことだよね。でも、本とかならあるんじゃないの。」

 ブローディアの提案。

「ないと思いますよ。ここの人達が考えられる発想じゃないと思うんです。空の色ってものほど見てるものはないと思います。常識なんです。いや、もはや常識の上……無意識」

 けど、念のため考えてみる。

 本の世界。絵本にはないかな。

 見本のため……そう思って、本を取りに行く。

 僕らの本棚。

 狭い二階の1割2割をしめる大きな本棚。

 その大体が絵本に占められ、最近は文学(?)が新居を構えている。押し合いへし合いしながら、余裕なく埋まっている。

 この姉弟は本を読むことを、本を見ることを楽しみとしているからこその過密状態。

 余りにも過密すぎて、一部の本は弊害――やたらとりにくく、持ち主に出してもらえない――を受けてる。

 もっとも、少々ガサツな二人はそんな些細なことなど分かっていない。

 その不満たらたらだろう本の一冊。右下3列目はじっこ。いわゆる、(かげ)物件。

 その本が確か空を描いていたかな……?なんて、思うのだけど。

 思いつつ、取り出して、ブローディアに見せてあげた。

 空を題材とした、絵本。

「これが、この島の本……絵本。空の色がしろくろ……」

 やっぱり。

 ブローディアはとっても驚いた。

 常識の差、ってことだね。

「多分、ここにある全てがそのようになってるはずです。」

「…それって、この本棚にある全部ってことだよね?」

「いや、全体?ですかも」

 語調の乱れ。焦りじゃなくて思考の乱れ。何か……考えれない。

 何なのだろう。

 まぁ、気にする必要性はないのかな。

「じゃ、じゃぁ。、図書館とかにもないの!?」

「……多分、ないです。」

 記憶をあさりだした。ほとんど使われていない図書館のこと。どれくらいの本があったかなんて覚えてすらいないし、空のことなんてましてあるわけない。ここに住んでる人達が知ってるわけもないし……。

「見てみる?」

 お姉ちゃんの横やり。

 ちょっとすぐそこの本を取るかのような感覚で言った。実際遠い訳でもない。僕としては面倒臭い限りだけど。

「すぐそこだから、案内しよっか?」

 提案。

「それなら、お願いしようかな。」

 書かれているものなのかな。それとも描かれる?

 そういう流れで結果。

 休みの日に図書館を訪れることになった。

 お姉ちゃん的にはすぐに行きたかったらしいけれど、そうはならなかった。

 あの海岸に行った日から4日後の日曜日となった。(曜日ははるか昔から変わらずに引き継がれている。)

 あまり急いでも探せないし、時間はかかるだろう、ってこと。

 何せ本に載ってるとは思えないからというのもあるけれど。あまりにも難しい本だったりしたら、僕でさえも読めないし、何せ探すのも大変。

 予想するところでは、文字のみの本を探すことはないと思うけれど。どうせ、多分。絵本だけだろうから。

 僕は一応探してみようかなとは、考えていた。

 覚えている図書館は大きい。そして、古めかしい。子供が訪れるような場所はない。そういうイメージだった。

 この島では珍しい建築素材で出来ているらしくて、古めかしい割には新しい事であることは聞いたことがあった。

 でも、外から見たことしかなかった。

 本を読むのは好きではあるけど、図書館には行ったこと無かったね。

 と、思い出した。

 ……なんでだろう。

 そういえば、ここの本ってどこから持ってきたんだろう。

 図書館以外に本なんて置いているところは無いってことを知ってる。

 お母さんから聞いんだっけ。

 ッ――――


 思考が途切れた。

 何を考えてたっけ。

 そうだ、今日は図書館に行くんだよね。

 新しく考えが出来上がった。

 さっき何かを考えていた気がするけど覚えていない。

 何かを考えていたことだけを覚えている。

 僕の不思議な行動で、お姉ちゃんが起きてる気配はなかった。

 さっきまで寝ていなかったっけ。もしかして、ぼんやりした隙に勝手に時計は進んでしまったのかな。

 時間は無慈悲(むじひ)……

 でも、僕らには時間が有り余ってるともいう。学校は早く終わり、僕らは早くに行動を開始する。計画ももちろん。

 そういえば、お姉ちゃんはそもそも、寝てすらいない。外にいるっぽいね。

 それなら、ブローディアは?

 ……隣で寝ている様子。

 起してあげないと。

 健やかに眠る、すこしだけ僕よりも大人びた顔つきの少年。

 それでも、すこしだけ顔がこわばっているように見えるのは緊張か、

 それとも、警戒なのか、

 はたまたこれが寝顔と押し通すのか。

 ひとまず、一定周期で動く布団の端を取り、一旦息を深く吸う。

 そして――

 ズバァッッ

 っと、布団を取る予定であったけれど、上手く取れず。

 原因は、ブローディアにある様子。

 がっちりと、布団を掴んでいる。

 致し方ない……諦めて普通に起こすことにした。

 お姉ちゃんを起す方法は効果なしですか。

 心の中の一言。でも、音に漏れてたのかもしれない。

 ブローディアは目を開けた。

「おはようございます。」

 薄目ではあるけど、聞こえてるのかな。

「ん……おはよう。フレラ」

 同じ呼び方……

「行きますよ。」

「分かってる。少し待って。」

 抑制。

「下で待っておきますね。」

「うむ。準備は終わった」

 既に起き上がり、着替えた模様。いつ?

 知らない。

「……早い。」

「特技だから。」

 短い言葉の応酬。

「では、行きましょう。」

「あいさ」

 返事が来るとブローディアは僕の手をいきなり取って走った。

 狭い空間、転びかねない。

 けど、そのへまはなく。階段を駆け下りる。駆ける様に。

 瞬く間に家の外へはみ出、お母さんへの掛け声も忘れはしない。

 聞こえたとは思えないけれど。

 きっと、ドタバタとした足音が身代わりになってくれるかな。

 はみ出た先の少し横に跳ねるようにしてお姉ちゃんが飛びのいていた。

 前を気にせず下ばかり見ていたせいで、ぶつかりかけたってことのよう。もし、ぶつかりでもして転べばこの地面に敷かれた固い黒い地面は僕らに傷を負わせる。

 それを気にしたのかな。

 危うくなく僕らを回避したお姉ちゃんは僕の手をとり、引き始めた。

 地面は黒く、空は白く。

 空気は生暖かい。

 実にふつうの日であった。




 情報っていうのはね、統制されて当然なの。

 知っていいこととダメな事。あるんだよ?

 だからね。そういうことは徐々に浸透するように、常識となるようにしてさ。

 考えを変えさせていくの。


 ……私は悪いことしてないよ?

 ただ、ちょっと特殊な場所の状況説明だから

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