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第二話 ブローディア

 

 もしもし?

 ああ、私だ。私だよ。忘れたのか?

 ちっ……オレオレ詐欺とかじゃねーぞ。

 子供を拾った彼らは起きるまでその子を解放することにしたようだ。母親からは反発はない。

 成長すれば働き手になるからな。親は現金なもんだ。こわいねぇ。

 私には親がいないことを幸福に思うとするか……


 さて、彼らだ。元気にしてるようだな。君たちのために見やすくしてあげよう。背が低くなるぞー?


 朝、おはようございますの前に、

 騒音が耳から入ってくる。

 いや、お姉ちゃんの声だ。騒音なわけなかった。

 お姉ちゃんが何か言ってる気がする。けど、無視。

「フーレーラー!?返事してー。起きてるー?」

 無視してでも、フレラことシェフレラが気になるのは、あの子。家に運んでから起きる様子はない。死んではいないことはあの時から分かっていたけど、それでも心配。

 もうすでにあの時から、3日は経った。でも、考えればあの船は一体どれぐらい放置されていたのか考えれば……

 いや、それも、ちょっと変かも。

 服が湿ってないし……?

 あ、匂いがないよね!

 って、

 それは、否定材料にならないよね。あれ、何かが、違うって気づいているような気がするのに……



「ちょっと、フレラ?大丈夫?疲れたの?」

 お姉ちゃんが顔を覗き込んで来る。

 ち、ちかい……ぶつかりそうでこわい。

「大丈夫!ちょっと寝ぼけてただけかも。」

「そ、そう?ならいいけど。しっかりしてね。」

 ここ最近嘘を言わざるを得ないタイミングが良くあったけれど、今回ばかりは本当に大丈夫なの。

 今はただ、考え事してただけだし。


「朝ごはんでも食べれば元気になれるから、心配しないで!お姉ちゃん」

「そうだよね!朝ごはんパワーはすごいよね!」

 なんて、お姉ちゃんは乗ってくれた。

 この年でお姉ちゃんに対して『ちょっとばかっぽいー』なんて思うのは、僕ながら不思議な事だと思うけど。

 この時の『ばかっぽい』っていうのは、侮辱とかじゃなくて、一種の……

 その、かわいらしい?


 ……僕は一体何を言っているんだ。この事は忘れよう!うん!


 そう思って思い切り首を横に振る。

 この不思議な一連はお姉ちゃんには見えてない……から大丈夫。

「よしっ。食べ終わったね。それじゃぁ、いくよー!!」

「えっ?どこに行くの?」

「今日はぁー。えぇーっとー。どこだっけ。」

 いきなり詰まるお姉ちゃんの図。たよりないぞー。もっとしっかりしてよー。

 こんな事は口に出さない。お姉ちゃんが悲しむところは見たくない。些細な事でも。


 そんな時だった。

 なにかがもぞもぞと動いたように見えた。視界の……端?

 はっ!まさか。

「フレラー。なにか変なこと考えたー?目が不自然だったぞー。」

 少し覇気籠るお姉ちゃんのことは無視して、一瞬動いた影に近づく。


 モゾモゾ……


 何か、動いてる。

 そういえば、あそこで横たわらせておいたあの子がいなくなってる。

 て、ことは、この変なのがあの子?


 そこで、お姉ちゃんは気付いたみたい。視線があの子(?)に移る。

「あっ!あの子が動いてる!フレラ。もしかして、それで目がつられたの?」

 お姉ちゃんが僕に着せた冷たすぎると思うびしょぬれの服は、

 お姉ちゃん自身が外してくれた。

 「うん、一瞬動いたように見えて。」

「流石は、わたしのフレラ!」

 お姉ちゃんが喜んでる。

「それはそうと何してるんだろうね。あの子。ちょっとこわいよー。ねぇ、フレラ?」

 と、同時にお姉ちゃんも不思議らしい。

「お姉ちゃんがおびえてどうするのさ。お姉ちゃんが飼うっていったのに!」

「お、お姉ちゃんは飼うなんて言ってないよ。ねぇ?」

「冗談だよー?」

 顔をにこやかに演じてやりすごす。顔の些細な変化を読まれてないことを祈る。

 つい、『飼う』なんて言葉を言ってしまった。

 ただ、そんなイメージに見えてしまうような動きをその子はしているのだ。

 うずくまって……こう、モゾモゾと……

 そう思っていたら、


 バッ!!


 その子が突然、起き上がった。

 ぎりぎりまで近くで観察していた僕らはおもわずひっくり返った。

 それほどにびっくり。

「な、なにがおきたのー。」

「あの子が起きただけだよー!お姉ちゃん!」

 なんだか、単純な事なのに興奮した。

 いないない。ばー。

 っていう、遊びに良く似た感覚。


「おはよう。皆。おどろかせてごめんね。」

 その子は立ち上がって上から僕らに声を掛ける。

 一応の、謝罪。

「あ、お、おはようございます。」

 それに対して、持ち前の人見知りと、敬語で硬い挨拶になってしまう僕。

「おはよー。あの子。」

 そして、なんだか適当なお姉ちゃん。名前。名前をどうにかしようよ!

 この時の適当は、正しい使い方って、意味。

 呼び方は本当に雑な気がするけど。

「ねーねー。名前なんて言うの?今までわたし達はあの子、とかその子。とか呼んでたの。君の事」

 そういえば、そうだった。お姉ちゃんが聞いてくれなかったら僕も呼べないままじゃないか。

「名前……?」

 疑問形で聞き直してきたその子。

 その子って、呼ぶのもなんだかムズムズする……。

 早く知りたい!

「そう、名前。お・し・え・て♪」

 やたら上機嫌になり始めたお姉ちゃん。

「名前はー。ねー。」

「え?『ねー』って名前なの?」

 お姉ちゃん、多分それは名前じゃないよ……

「名前はね、ないよ。自分には。」

「えっ!?無いの!?」

 な、無いんだ。名前。どうしてだろ?

 どうしても気になって思わず聞いた。

「どうして名前がないんですか?」

 ……また敬語になった。意識しても直せないから諦めているけど。お姉ちゃんと、お母さん以外と話す時に敬語になってしまうのをどうにかしたいな……。

「多分。記憶がない。ごめんね。名前、教えてあげられないや。何か適当につけていいよ。お二人で。」

 適当に……つけるーのーかー。

「何でもいいの?」

「まぁ、仕方ないよ。適当につけて。」

 どうしよう。名前かぁ。

「ねぇ。お姉ちゃん。こういう時はお母さん呼んで付けてもらおうよ!きっといい名前もらえるよ。」

「そうね。それがいい案だと思う。フレラ。」

 お姉ちゃんが僕の案に賛成。なら、聞いてみよっか。

「じゃぁ、聞いてくる!」

 僕は駆け出す準備を取る。

 お母さんはとっくのとうに起きていて、僕たちの朝食を準備していた。でも、一階にいるから聞いていなかったと思う。

 名前が無い事は……説明しないとだめだよね。

 外見とか、説明したらきっとつけやすくなるかな?

 そう思って、あの子をもう一回ちらっと盗み見て、覚えなおす。

 大丈夫、僕の言葉なら、お母さんも一発で外見想像できるはず!

 僕の得意分野だもん。観察と説明は!


 って、お母さんもあの子の子と見てるから分かるかも。

 そう思い直す。


 僕は階段を駆け下りて、台所に立つお母さんに話しかけた。

「お母さん!」

 階段駆け降りるだけで少しだけ息が切れてしまった。

「どうかしたの?シェフレラ」

 お母さんは僕のことをシェフレラって呼んでくれる。

 お姉ちゃんの方が気さくだけど、お母さんはもっと、しっとりしてて。

 とっても優しい。

 だから、あの子がこの家に居ることも許してくれたんだと、思うんだ。

「あのね!ついこの間からお部屋で寝てたあの子が起きたの!」

 僕はどんな名前を付けてくれるか気になって早くそこまで言いたかった。けど、息が足りない。たったこれだけの距離だけど息切れしてしまう……。

「ちょっと、落ち着いて。ゆっくり聞いてあげるから。ね。シェフレラ」

 お母さんが僕のことを落ち着かせてくれる。

 この包み込んでくれるような心地の良さがお母さんと話してるときの良さだと思う。

 息が戻ってきて、ようやくしてほしいことを言えるようになった。

「えっとね、あの子は実は名前が無いんだって。多分、記憶がないんだと思うって。あの子が言ってるの。だから何かいい名前つけて!」

「いい名前、ねぇ……」

 名前が無いという所や、記憶がない、ってところには触れずに名前を付けることを考え始めるお母さん。

 本当に名づけるのが好きな僕らのお母さん。

 近所の人からも『わたしの子に名前を付けてください。』とか、『この人形なんて名前で売ったらいいかな』

 なんて言われてることも、あったような……?

「あの子ってどんな、見た目の子でしたっけ?青い子だよね?シェフレラ、細かく説明できるかしら?」

「もちろん!出来るよ。」

「えっとね。髪がつんつんしてて、蒼くてきれいなんだ。でも皮膚とかは服に覆われて見えなかったよ。顔はきれいなのに、僕らを見つめる目が少しどんよりしてて、恐かったんだ。」

「どう?これで、名前、思い浮かびそう!?お母さん!」

「こ、恐かったのね……同じ子供なのに……」

 お母さんが小声で何か言ってる。

 けど、僕には聞こえていない。

 それは、言うことに精いっぱいだから。

 僕は畳み掛けるように言った。

 また僕は、口調が早くなる。それぐらいに楽しみなの。



 少しの間。沈黙の間。

「そうねぇ。じゃぁブローディア。なんていかがかしら」

 お母さんはそう決定。お母さん以上に良い名前が決まるわけないもの。

 だから、お母さんの提案じゃなくて、これで決まり。

 それじゃぁ、お姉ちゃん達にも伝えないと!

「ありがと!これで、あの子のことが呼びやすくなるよ!」

「また新しくお名前つける子が見つかったら言ってねぇ。」

 そんな機会そうそうにないと、思うけどね……。

 ちょっぴり否定しながら、階段を駆け上る。


 その間に、強烈な事をブローディアが言ってる事を僕は知らなかった。



 やぁ。私だ。ここで区切るぞ。

 あ?名前は重要だ。いいか、この母親が付けた名前はすばらしくてな。

 全てに適当なように見せながらもすざまじい意味を込めているんだ。

 例えばな、ブローディア。青く少し鋭い花。美しい淡い花言葉を持っているぞ。

 しかしな、外見だけで決めるのが問題とかいうなら、もうどうしようもないがな。

 さて、奴は何を見つけたんだろうなぁ。

 はっはっは。楽しみだな?そろそろ、出番だぞ。空の神さんや?

ああ、私だ。やっぱり名前は大切だよな。

名前の無い私からすると、彼らのお母さんのような人から名前を貰えたらどれだけ嬉しいのだろうか……

実はあの名前はとっさに付けた割には意味が凄くこもっている。

まぁ、勿論私はこの世界のカm……じゃない、ただのナレーターだからな。

しがない、ナレーターには役割名もないのだ。

悲しきかな。

埋もれる者は。

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