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熇尾蛇の慟哭  作者: 酒沼蛙
『第1章:残火が空に咲く』
1/1

#1

 高速道路を真っ黒なベンツが疾走している。時刻は午前0時を回り、世界から置いていかれたような錯覚を受ける。聞き慣れたエンジン音を聞きながら、大之木大悟は溜息を吐いた。

「アニキ、何かやらかしたンスか?」

「いや……でもなぁ」

 耳聡く溜息を聞き付けた運転手、雄染寺瑞樹の揶揄う様な口調に少しだけ苛つきながら、大悟は歯切れの悪い返事を返した。大悟の記憶では、組長から直々に呼び出される程のヘマはしていない筈なのだ。しかもこんな夜更けに高速を走る程の事など、大悟が組長に拾われて以来一度も無い。

 とはいえ。大悟が若頭を務める美濃組は、お世辞にも大きな組とは言い難い。それ故–––最近はめっきり聞かなくなった事だが–––他の組との抗争も多い。しかしそれにしても、こんな時間に呼び出しがあった事は無い。兎に角前代未聞で、急過ぎる呼び出しなのだ。

「……何かあるんスか?」

 弟分の不安そうな声に、大悟は思考の海から抜け出した。

「いや、俺は聞いてねェ。でも何かあるのかもしれねェな」

 口から出るのは曖昧で意味の無い言葉。不安を払拭しようとした頭とは裏腹に、言葉は心の本音を持って出た。焦燥、不安。そんな物の入り混じった言葉だ。

「……組長の声とか、どうでした?」

 そう言われて、それ程深刻そうな声では無かった事を思い出す。どちらかと言えば寂しそうな、しかし年の割には覇気の篭った変わらぬ普通の声だった。

「……普通、だったな」

「じゃあ、大した話じゃないかもしれないスね!」

 バックミラーに映る人懐こい笑顔を見て、大悟は無意識に肩を怒らせていた事に気が付いた。近頃やけに直ぐ凝る肩を揉み解しながら、これが四十肩か等と下らない事を考え。

「かもな」

 努めて気を抜いた笑顔をバックミラーに向ける。得体の知れない違和感が、頭に浮かんで離れなかった。

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