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第五十二話 ドジっ子オリビアの可愛い失敗と四散する命

徹夜で更新分を書き溜めしたら投稿前に力尽きて寝過ごした件

変則的な時間になってしまいましたが投稿致します!

「……と、とにかく。わたしは確かには三人のことを待ち構えてたし、いつ会話に割り込もうかタイミングを見計らっていたのも確かだけどっ! 作戦に穴があるといったのは本当なの!」

「……あらぁ? 気取った騎士みたいな口調はもういいのかしらぁ?」

「ううぅううぅう! もうやだぁ! マヤリスちゃんはなんでいっつもそんなに意地悪なのぉ!? わたしは仲良くしたいのにっ! 貴重な魔窟の女ソロ冒険者仲間なのにっ!」


 顔を覆い隠し蹲った状態で呻き続けること数分間。ようやく落ち着きを取り戻したオリビアというらしい大柄の女性が、それでもほんのり耳まで赤い状態のままなんとか真顔を取り繕って話し始めた所に、すかさずマヤリスが追い打ちをかけ、オリビアはなんとか蹲る一歩手前で踏みとどまったものの、自分のニットワンピースの裾をがっちりと握り締めてぷるぷると震えている。


「おいマヤリス! いい加減話が進まないからやめろって! オリビア……さん? もなんとか勇気を振り絞って話しかけてくれてるんだからちゃんと聞いてやろうぜ」


 マヤリスが『私、もうソロじゃないし』と更なる追い打ちをいつぶつけてやろうかと恍惚とした笑みを浮かべながらうずうずしているのを察したアッシュが、マヤリスをじろりと睨みながらそう言うと、オリビアは感極まった表情でアッシュに詰め寄り、アッシュの両手をがっしりと掴んでぶんぶんと振り回し始めた。


「ああぁああぁぁっ! アッシュ君! やっぱりいい子だぁ! わたしね、君のこと噂で聞いてからずっと『どんな子かなぁ』『いい子だと良いなぁ』って思ってたのっ! 良かった、思った通り、ううん思った以上のいい子でわたし嬉しいっ! アッ君! ねぇアッ君って呼んでいい? わたしのことはお姉ちゃんって呼んでくれればいいからっ!」

「いでででっ! 手がっ! 手が折れるっ! ってか砕けるっ! ひぃぃ骨が軋む音がっ! 放してっ! オリビアさん放してっ!」

「ああぁああっ! ごめんねっ! わたしってばついっ!」


 どうやらオリビアは、見た目以上の怪力の持ち主らしい。いや、本人のふわふわとした性格や服装によって誤魔化されてはいるが、その服からぬっと伸びている両腕やニットワンピースでは誤魔化しきれない肩幅、そしてよく見れば太ももやふくらはぎの筋肉も恐ろしいほどに引き締まっている。アッシュの悲鳴を聞いて慌てて両手を放したオリビアは、過剰なまでに後ずさり、涙目でアッシュに謝り始めた。


「大丈夫だよオリビアちゃん! アッシュ君の怪我なら私がいつだって治せるから! ねーアッシュ君?」


 凄まじい力で握り締められたことで赤どころかぼこぼこと青黒く変色した箇所さえ見受けられ、痛覚以外の一切の感覚を失ってしまっている惨状を敢えて見ないようにして、ドルカにされるがままにその両手を預けたアッシュは、温かい力が流れ込みその両手を治していくのを感じながらもオリビアに話しかける。


「ああ痛かった……。ドルカもありがとな。それで、オリビアさん」

「お姉ちゃん」

「あ、あの……」

「お姉ちゃんって呼んで」

「……いや、初対面でいきなりそれはちょっと」

「お姉ちゃんって呼んでよぉ……!」

「お前最初のキリッとしたキャラ設定はどこに行ったんだよ!」


 ほんの10分前に話しかけてきた時はまるで厳格な女騎士のような口調で話しかけてきていたはずなのに、ものの10分足らずでこの体たらくである。

 そのアッシュの突っ込みに、捨てられた子犬のような目でぷるぷると震えながらアッシュを見つめて黙りこくってしまったオリビアの代わりにあきれ顔のマヤリスが話し始めた。


「この子のペースに合わせていたらいつまで経っても話が進まないから私が説明すると、一応さっき自分でも言っていた通り、この子は本物の英雄の末裔なのよ。……ドルカちゃんと同じ、本物の英雄の血を引く、ね」

「そうだっ! わたしはすごいんだぞーっ!」

「はいはい、わかったから。少しでもすごいと思われたいのならもうちょっと黙って聞いてなさい」


 隙を見つけてはドヤ顔を披露するオリビアをばっさりと切り捨てたマヤリスは、なおも言葉を続けていく。


「ドルカちゃんが『遊び人』の末裔なのに対して、この子は『戦士』の末裔。こんな可愛らしい恰好で誤魔化してはいるけれど、実際の戦いとなればその恐ろしさは魔窟の中でも随一。単純な腕力勝負でならあのダグラスでさえ相手にもならない。素手でドラゴンをミンチに出来る冒険者なんて、恐らく世界中を探しても今目の前で震えているこのオリビアただ一人でしょうね」


 そう紹介された当のオリビアは、マヤリスによってあまりにも手酷くいじめられていたのを見かねたドルカがその手のひらにぽとっと大根の種を乗せてやり、そこに香水をひと吹きさせたことで急成長した手のひら大根がすかさずオリビアに向かって腰? を振ってリズミカルに踊りだしたのを見て目を輝かせて喜んでいる。


「あの、踊る大根を見て喜んでる奴が……?」

「……見ていればわかるわぁ」


 そう言われて半信半疑でその様子を伺い始めたアッシュをよそに、オリビアとドルカは意気投合した様子でにこにこと笑いながら話を弾ませている。


「なにこれっ! かわいい! かわいいっ!」

「えへへへー! でしょー? 私もいっぱい持ってるんだー! 私のはアレクサンダーっていうの! オリビアちゃんも名前付けて上げたら?」


 『大根に名前を付けて愛でる』という行為はオリビアとしては全く想像だにしていなかったようで、ドルカのその提案に数秒の間完全に動きを止め固まってしまったのだが、その直後に満面の笑みを浮かべながら言った。


「名前……! なまえっ! わたし、この子の名前決めた! 大根(ラディッシュ)のラッちゃん! この子の名前はラッちゃん!」

「うひょー! ラッちゃん! 私のアレクサンダー達に負けないすごいかわいい名前! オリビアちゃんセンスあるぅー!」

「ありがとうドルカちゃんっ! わたし、この子大事に育てるっ!」


 幸い「どこがだよ」というアッシュの冷静なツッコミが耳に入らなかったらしいオリビアが、愛おしそうに大根のラッちゃんをそのまま胸に抱き寄せた所で悲劇は起きた。


「あぁもう可愛いなぁっ! わたし、もうラッちゃんのことぎゅーって抱きしめちゃうっ!」


 そう言ってぎゅっとオリビアの胸元に抱き寄せられた大根が、ミシミシとおよそ植物らしからぬ音を立てて一瞬でオリビアの手によって握りつぶされ、辺り一面に大根卸しとなって四散したのである。


「ああもう可愛いなぁラッちゃんはっ! ……ラッちゃん? ラッちゃぁんっ!?」


 顔にべしゃりと張り付いたラッちゃんの頭部の葉の部分によってラッちゃんが爆ぜたことに初めて気が付いたオリビアは、この世の終わりのような表情を浮かべながらその場に崩れ落ちた。


「……ね? あの子、アッシュちゃんとの握手の時もそうだったけど、今見てもらったように基本的に自分の怪力を一切使いこなせずに持て余しているのよ。着てる服がゆったりとした良く伸びる素材のものばかりなのも、そうしないと自分の怪力で袖を通すつもりがびりびりに引き裂いちゃって一瞬のうちにぼろ雑巾になるからなのよ。あの子の着ている服、ああ見えて全部一級のスパイダーシルクを使ったかなり丈夫な代物なのよねぇ」


 本人としてはほんのちょっと力の加減を誤っただけのつもりなのに、ただそれだけで大根が握りつぶされその握力で爆発四散する。その恐ろしいまでの不器用さを目の当たりにしたアッシュは、やはり魔窟にまともな人間はいない、と心に刻み込むのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ようやく3人目の仲間が出揃いました!ますます賑やかに、混沌としていくアッシュとドルカの冒険をよろしくお願いいたします!


次話の投稿は近日7時の予定です。


私事ですが、第6回ネット小説大賞に応募しました。

もしよろしければ応援してください!


面白いと思って頂けたようでしたら、お手数ですがなろうログイン後にブクマ、評価など頂けると嬉しいです(評価は最新話ページ最下部に表示されます)!


よろしくお願いいたします!

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