第五十一話 残念美人ホイホイ
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「なんだよ、いきなり横から入ってきて……。それに、俺達の作戦に『致命的な欠陥』だって……?」
突然の横やりに内心驚くアッシュではあったが、伊達にたった数日の間に次から次ととんでもない経験を乗り越えてはいない。その動揺を表には一切出さず、アッシュは目の前の女性に向かって冷静に質問を返すと、その女性は堂に入った様子で朗々と歌い上げるように答え始める。
「ふふ、すまないな……。盗み聞きをするつもりは無かったのだが、耳に飛び込んできた作戦の内容があまりにも杜撰なものであったからついついこうして飛び出してきてしまっ」
「あ! アップリケのおねーさんだ!」
ガタッと椅子を倒す勢いで立ち上がったドルカは、その歌い上げるようなすらすらとした問答などお構いなしといった様子で思いっきり言葉を遮り叫んだ。
「ふみゃうっ!?」
「ねーそうだよねっ! あの時のおねーさんだよねっ! このアップリケかわいーから私ほんと気に入っちゃった! ありがとねーっ!」
今までの堂々とした雰囲気から一変、予想外のことにビクッと縮みあがり妙に女の子らしい声を上げたその女性は、ドルカの指摘を受けたことで露骨にわたわたとし始めてしまった。
「いやっ! わ、わたしゅはそのっ! そんなアップリケなんて知らないっ! 知らないったら知らない!」
「おろ? 人違いかー……。ごめんね、おねーさんにそっくりの人からこのかわいいアップリケを買ったんだー。かわいいでしょこれ」
「ああっ! そ、そうだったのかー! 確かにそのウサギさんは可愛いな。私も一つ欲しい位だっ!」
「……そのぼろきれみたいなアップリケ、ウサギのつもりだったのかよ」
余りにも誤魔化し方が下手過ぎて逆に突っ込む気が失せてしまっていたアッシュであったが、同じく一連の様子を静観していたマヤリスが、珍しく頭を抱えながら沈痛な面持ちでぼそっと呟いた。
「……オリビア。あなたこんな所で何やってるのよ……?」
「みゃっ!? まっ、マヤリス! 私はだな、そのっ!」
「……マヤリス、この人知り合いか?」
マヤリスに冷静に突っ込まれたことで更にわたわたとし始めたオリビアというらしい女性を、アッシュはそこで初めてまじまじと観察し始めた。
赤みがかった茶髪に同じく赤みがかった茶色の瞳。つやつやとした細長い睫毛が伸びたその瞳はくりっとしていて、ただそれだけで芸術的な作品のような気品と上品な美しさを感じさせる。細く柔らかそうな質感の髪は肩の下まで伸びており、本人のおどおどとした様子も相まってついつい指に絡めて弄びたくなるような、悪戯心をくすぐる可愛らしさがある。身に纏っているニットのワンピースはゆったりとしたデザインなのだが、盛り上がった肩回りやぴちっとはちきれそうになっている袖から覗く筋肉が、決して見た目や仕草通りのか弱い女性ではないことを示している。
体格はその四肢か覗く鍛え上げられた筋肉にかなりの大柄で、アッシュが正面に立つと丁度目線の位置に豊満な胸が飛び込んでくる程の長身であり、最初の堂々とした振る舞いも相まって、まさに勇ましくも凛々しい女騎士……といった様子だったのだが、ドルカに演説めいた発言を遮られてからはその様子はどこへやら。大きな身体を縮こまらせてぷるぷると身体を震わせている様子を見ているとただのか弱い内気な女性に見えてしまう。
「『オリビア=バルバロード』。……私と同じ、魔窟でソロで生き抜いてる冒険者よ。それもとびきり戦闘に特化したタイプの」
「そ、そそそそうなのだっ! わ、私の名はオリビアッ! 由緒正しい勇者を助けた英雄が一人、戦士アルフレッド=バルバロードの末裔にして魔窟の冒険者であるっ!」
自己紹介をしながら徐々に勢いを取り戻したらしいオリビアは、おどおどとした様子から再び威風堂々とした振る舞いを取り戻していく。
「そもそもだっ! お前達の作戦が杜撰過ぎるからこうして私がわざわざ口を挟まざるを得なくなったのではないかっ!」
そう開き直ってみせたオリビアであったが、そこにすかさず冷静なマヤリスのツッコミが入った。
「……それで、真後ろの席で私たちの話を盗み聞きしながらぶつぶつさっきのセリフを一字一句そのまま繰り返し練習しつつ会話に入って来るタイミングを見計らってたってわけねぇ? えぇっと『『ふふ、すまないな……。盗み聞きをするつもりは無かったのだが、耳に飛び込んできた作戦の内容があまりにも杜撰なものであったからついついこうして飛び出してきてしまってな』だったかしらぁ? 何回も何回も後ろで繰り返してるから覚えちゃったわぁ」
「うにゃぁああぁあっ!? き、きこっ! 聞こえてたの? なんでっ、なんでぇっ……!?」
「私、耳は良いのよ」
その一言がトドメとなったのであろう。完全に心が折れてしまった様子のオリビアは、「ああぁあぁぁぁぁあ……」と声にならない声を漏らしながら両手で顔を覆い隠ししゃがみこんでしまった。
「どうすんだよこの人、完全に心を折りにいきやがって」
「だってこの子、私たちのことを待ち構えてたみたいでギルド入った瞬間からずっと私たちのことこそこそマークしてたのよ? これくらいやり返してやっても罰は当たらないでしょう?」
「ああぁああぁぁ! そこから!? ううぅうぅそこからバレてたなんてぇ……」
マヤリスの追い打ちにより、両手で覆い隠されたオリビアの口から漏れ出る悲鳴が更に大きくなっていく。
「なあ、一応作戦に欠陥がどうのこうの言ってくれてたみたいなんだけど、ここまでする必要あったのか……?」
「ごめんなさぁい。でも、楽しくなっちゃって……」
「……それとドルカ、アレクサンダー達を使って祀り上げるのはやめてやれ」
周りを大根に取り囲まれ、ぐるぐると練り歩き始めたにも関わらず、相変わらずしゃがみこんで顔を両手で覆い隠したまま微動だにしないオリビアと、その様子を見て両手で自分をかき抱きながら身体をゾクゾクと駆け巡る興奮を堪えくねくねしているマヤリスに、しゃがみこんだオリビアの周りを大根と一緒になってぐるぐると取り囲みながら練り歩いていたドルカを順番に眺めていく。
「どうしてこう、俺の周りには面倒な奴しか集まってこないんだ……?」
マヤリスという大きな試練を乗り越えたかと思いきや今度は見るからに残念そうなオリビアの登場である。
魔窟という場所がそういう連中が集う場所とは言え、流石にハイペース過ぎはしないか、と気が滅入ってしまうアッシュであった。
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