第四十九話 教えて! マーヤちゃん! ~コレが宝石獣の弱点だ! 編~
せっかく昨日夜更かしして書き溜めしたのにそのせいで寝坊してしまった……
というか目覚ましが鳴らなくなってた……
というわけで1時間遅れの投稿です……!
「あのぉ……その話を聞く限り、『宝石獣』の群れ、というか1体が相手だったとしても俺とドルカの二人だけで到底何とかなるような相手だとは全く思えないんですが」
ただでさえ強力な魔物がひしめく魔窟周辺のダンジョンに巣くう、『宝石樹の果実』を口にしたことで更に力が強まっている魔物の群れ。そんなものを相手に何をどうすれば丸腰の新人冒険者二人にその魔物達の気を引く囮が務まるというのであろうか。
ちらりと隣を見るとそこには産み出したばかりの大根達に再びアレクサンダー二世、アレクワンダー二世…と名前を付けていき点呼を始め、名前を呼ばれるたびにぴょこんと飛び上がりきびきびとドルカの前に跪いていく大根達と、それを見てご満悦な表情でムフンと偉そうにふんぞり返っているドルカの姿があった。
「……そう思いたくなる気持ちはわからなくもないけれど、大丈夫。むしろ、今回の作戦は宝石獣達が相手だから可能となる。私の計画通りに事が進めば、下手にワンランクツーランク下のダンジョンに潜るよりよっぽど低リスクになるはずよぉ。……そもそも、アッシュちゃん達の強さじゃ相手が普通の魔物だろうが宝石獣だろうがまともに戦おうとした時点で結果は同じでしょうし」
余りにも酷い言い様ではあるが、事実は事実。実際問題として、アッシュとドルカが普通に戦おうとするのであれば、ゴブリンやコボルトなどの下級魔族や魔獣ですらない狼の群れを相手にするのが限界といった所であり、元々瘴気立ち込める人外魔境の地であるショイサナ周辺の、それもダンジョンに巣くうモンスター等まともに相手取れるわけがないのだ。
「宝石獣達が相手だから可能になる作戦……。 それって一体……?」
「さっき説明した通り、宝石獣達は宝石樹に寄生され理性を失った存在。その動きは植物である宝石樹によって支配され、動きこそそこまで緩慢にはならないものの、アンデッドのような単調な動きになってしまうのが特徴なの。動きの緩慢さも、宝石樹に支配されたからというよりは、その結果樹皮に似た表皮が身体を覆うようになって体重が増加、動きが阻害されたことが理由って話みたいだし」
そして、この『理性を失っている』という特徴が非常に重要なポイントとなる。
「要するに、完全に宝石樹に理性を奪われちゃった魔獣たちは、もう人間を襲うことが第一目的ではなくなっちゃうのよ。『宝石獣』達の目的は、何よりもまず魔素の濃い方向へと向かうこと。そして、より強力な魔力を秘めた魔物を喰らい、宝石樹が芽を出す為の栄養を蓄えること。また、強力な魔物が素体となった『宝石獣』は『宝石樹の果実』一つでは飽き足らずいくつもの果実をその身に取り込もうとする習性があるし、場合によっては『宝石獣』同士の共喰いさえあり得るわぁ」
彼らの行動原理は大きく分けて二つ。より魔力の濃い生命体を喰らうこと、そして一つでも多くの『宝石樹の果実』をその身に取り込むこと。 複数の果実と、それに見合うだけの栄養素(魔力)を取り込むことで、より強力な魔物となり、更に魔素の濃いエリアに宝石樹の種を運ぶ。それこそが宝石樹に寄生された魔獣たちの本能となり替わっているのだ。
「つまり、この二つの要素を私たちが完全にコントロールしてしまえば、宝石獣たちが私たちを襲うことはなくなり、安全に果実を採集することが出来るようになるってわけよぉ」
なるほど、本来の魔獣の知能であれば目の前の出来事に対し、その場で考え判断する思考が存在するが、宝石樹によって寄生され、行動が支配されてしまった宝石獣であれば話が違う。果実を狙う冒険者達に対しては死をも厭わぬ勢いでその牙を剥くことになるが、極論を言えば冒険者達が一切手出しをせず、かつ宝石獣に対して危害さえ加えないのであれば襲われる心配はないとも考えられる。
「……とはいえ、ぼんやりと元の魔獣の知性や本能も残るケースが大半だから、完全に油断しているとあっさり食われておしまいになっちゃうのだけれど。要するに優先順位が宝石樹にとって都合の良い方向に挿げ替えられてるだけって考えておいた方が無難だと私は考えているわぁ」
そう言いつつ、マヤリスは懐から小瓶を取り出し、コトリとテーブルの上に置いた。
「これは……?」
「なにこれー? なんだかオレンジ色できれー! これもマーヤちゃんの香水?」
小瓶に入っている透き通った橙色の液体は、まるで琥珀のような色合いをしており、キラキラしたものが大好きなドルカは一瞬で大根達から興味を失い小瓶に飛びついた。その陰で大根達があからさまにしょんぼりし、互いで互いを慰め合い始めたことに、もはやアッシュは疑問さえ抱かずにスルーしてマヤリスの言葉を待った。
「これは、『宝石樹の果実』から作った特別製の香水。私が単独で宝石樹の洞窟に潜り込んだ時に、辛うじて一つだけ手にすることが出来た果実から、そのフェロモンを抽出して作った珠玉の逸品よぉ? ……そのせいで大赤字になっちゃったんだけれど。この香水に含まれるフェロモンは、本来の宝石樹が放つものの数倍の濃度にしてあるの。これを吹き付けたものを魔獣達の群れに投げれば、たちまち魔獣達は目の色を変えて命がけの奪い合いを始めるでしょうね……。あぁ、想像しただけでもゾクゾクしちゃうわぁ……!」
いつものスイッチが入り、恍惚とした表情を浮かべ始めたマヤリスに冷ややかな目線を送りつつ、アッシュはふと思い浮かんだ素朴な疑問を投げかけた。
「というか、マヤリスはこれ一人で取りに行って無事に帰ってこれたのかよ……。 ぶっちゃけた話、俺達いらないんじゃないか?」
「それがねぇ……。困ったことに、宝石樹に支配された魔物は半分植物みたいなものだから、私の毒が効きにくくなっちゃうのよぉ……。おかげでしつこく追いかけてくるあいつらの動きを止めてなんとかもぎ取って帰ってこれたのはたった一つだけ。宝石獣達を惹き付ける香水を作った所で、私一人で安全に採集するにはちょっと不安が残るっていうのが実際の所だったの。そこまでする位ならドラゴンでも狩りに行った方が手っ取り早いのだけれど、そうなると今度は一人でどうやって倒したドラゴンを持ち帰るのかが問題になるでしょう? 『宝石樹の果実』はそういう意味では手軽に持ち帰れて一攫千金になる、ソロや少人数で冒険する私たちのような冒険者にとっては最高に効率が良い素材ってわけ。私ならそのままジュエルシードへの加工も出来ちゃうしね」
「なるほど、だから俺とドルカっていう囮役を連れて再挑戦したかったってわけか」
さらっとマヤリスが言ったのでついついアッシュもそんなもんかと流してしまったが、宝石樹の果実の魔力を凝縮してジュエルシードに加工するという一連の作業は、それが出来るということが一流の証であり、並の錬金術師がおいそれと手を出せる代物ではない。
そもそもが冒険者達が文字通り命がけで挑んでようやく一つ二つ持ち帰ることが出来るかどうかという果実は、果実のままの状態でも恐ろしく高価な代物なのである。
一攫千金を夢見た錬金術師が大枚はたいて果実を購入したのは良いものの、そのあまりの加工難度にあっさりと失敗、一瞬で億万長者の夢は潰え借金に追われる生活に早変わりというのは錬金術師の間ではあまりにもありふれた話であり、よほど腕に自信があるか、加工に失敗した所で多少懐が痛む程度で済むレベルの財力を持つ者か、そのどちらかでなければそもそも挑戦することさえ許されないのが宝石樹の果実の錬金なのである。
「その通りよぉ。……ほら、二人には『ほぼ無尽蔵に作りだせて』『敵から逃げ回るだけの知能を備えた』とっても心強い仲間がいるでしょ? あの子達にこの香水を吹き付けて魔物の群れに向かって放り投げれば、かなりいい囮になる上デメリットはゼロ。その隙に本命の猛毒をまき散らしてじわじわと毒が回り切るのを待つ……これ以上は無いって位に素晴らしい手札が揃っていると思わないかしらぁ?」
「……ちなみに、マヤリスに囮になってもらって俺達がその果実を採集するっていうのじゃダメなのか?」
作戦の概要が明らかとなり、確かにそれならもしかすると、いや、むしろかなりの確率で上手くいくのではないかと思ったアッシュではあったが、念のため、更に安心安全な方法として、マヤリスに囮になってもらった方がよいのではないかと提案をしてみる。
「……宝石獣って、必ずしも陸上の魔獣だけじゃないのよねぇ。アッシュちゃん、3~4メートルくらいで3人がかりで両手を伸ばして手を繋いでようやく囲める位の大きさの木で木登りをしてる最中に、そのままの姿勢で鳥の魔物から襲われてなんとか出来る自信はあるかしらぁ?」
「ごめんなさい、やっぱ無理です」
万が一鳥型の魔物に目を付けられてしまえばこの香水によって惹き付ける作戦も咄嗟の判断もアッシュとドルカには不可能であろう。それが心の底から理解できてしまったアッシュは、早々に前言を撤回し、囮となる覚悟を決めるのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
書き溜めが尽きている為、次話の投稿は未定です。
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