第四十八話 教えてマーヤちゃん! ~宝石樹ってなぁに? 編~
一日おきで投稿すると言いつつ早速ここまで更新が遅れてしまい、すいませんでした……!
色々回り道がありましたが、ようやく第二章のメインイベント(の導入部)に到達です……!
「なんにせよ、この麺棒の正体が世界樹だとはっきりしたことで、安心して計画を実行することができるわぁ」
「いや、流石にあんなもん嗅がされた上でやっぱ無理だわって言われるよりはよっぽどいいんだけどさぁ……」
ドルカの持つ麺棒が世界樹であることに確信を持つために、アッシュにドラゴンにさえ通用するレベルの猛毒を嗅がせたマヤリスが平然とした口調で続ける。
「ふふ、ごめんなさぁい。……それで、話を戻すとね、二人には私がとあるモノを採集するまでの間、魔物を引き付ける囮をしておいて欲しいのよ」
「おとりー? よくわかんないけど任せて! 私とアッシュ君なら何でもできる!」
「ちょっと待て! Aランク冒険者でも念入りな準備の上パーティで挑むのが必須のダンジョンなんだろ? 囮ってどういうことだよ!?」
さらっととんでもないことを言い始めたマヤリスに、アッシュが身を乗り出して抗議する。アッシュの右腕にまとわりついたままであったドルカは、アッシュが身を乗り出したのに合わせて自分も身体を預けたままにょーんと伸びていく。その姿はまさしくやる気のない猫であった。
「そうよね、普通のダンジョン、普通の魔物が相手ならアッシュちゃんのその感覚が正しいわぁ。でも、私たちがこれから潜ろうとしているダンジョンなら、そのダンジョンの魔物だけなら、私たちはなんとか出来る方法があるの」
「……『宝石樹の洞窟』。そんなに特殊なダンジョンなのか……?」
アッシュの疑問に答える代わりに、マヤリスは別の質問をアッシュに投げかけた。
「ねえアッシュちゃん、そもそもアッシュちゃんは『宝石樹』についてどれだけのことを知っているか、教えてもらえないかしらぁ?」
「宝石樹……前に宝石細工の師匠の所で聞いた覚えがある。確か、強い魔物がゴロゴロいるようなダンジョンの奥地にしか生えない、実の代わりに宝石が生る夢のような樹で、その樹から取れる宝石は特別に『ジュエルシード』と呼ばれている、だったかな……」
そんなうろ覚えのアッシュの答えに対し、マヤリスは頷きつつも情報を補足していく。
「いくら本職の宝石匠といっても実際にジュエルシードが簡単に手に入るような地域に居を構えてない限り、持っている知識はその程度って所かしらねぇ。……宝石樹は、お日様の光の代わりに魔素を養分として育ち、魔力の詰まった果実を実らせる。その樹皮や果実の香りには魔物を呼び寄せ、興奮させるフェロモンが含まれていて、その香りに誘われた魔物たちは宝石樹の下で見境の無い同士討ちを始めるわぁ。そして、魔物の死骸から魔素を吸収し、樹はどんどんと大きく成長していき、最後に大きな果実を実らせる。その実を特殊な触媒と反応させてその身に宿した魔力をそのまま結晶化させたものが、通称ジュエルシード。朝露の一滴程のサイズ一粒でも数十万ペロ、指の先程のサイズに至っては相手が相手なら数千万ペロ出してもおかしくない程の代物。それを、今回私たちは狙いに行く」
美しさもさることながら、採集の難易度、加工の難易度、魔石としての価値、その全てが超一級品であることを意味しているその宝石は、最小サイズのものですら市場に流れるまでに携わった者が全て一流の世界の住人であることの証となるとまで言われている逸品である。そして、その原料であり冒険者にとっては一流の証である、『宝石樹の果実』にはもう一つ、冒険者が、そして魔物たちが追い求める恐るべき理由が存在する。
「私たちが恐れるべきは、フェロモンに誘われた有象無象の雑魚モンスターじゃないわぁ。……その禁断の果実を口にすることが出来た、選ばれし一握りの魔物たち。通称『宝石獣』。数多の魔物の亡骸の上に生き残った数体の魔物が、死んでいった同胞達の魔力が凝縮された果実を口にし、己の身体に取り込む……。それが、何を意味しているか、アッシュちゃんにはわかるかしらぁ?」
人や一部の知性を持ちえた魔人等とは異なり、己の肉体を、そしてその肉体から放たれる技を磨くという概念が存在しない野生の魔物達にとって、その身体に秘めている魔力の量はそのままイコールでその魔物の格や強さを表す、文字通り『強さ』の象徴である。その強さの象徴たる魔力の結晶とでも言うべき果実を口にした魔物達は当然……。
「それだけの強さを手にしている、ってことか……」
「半分正解よぉ。……確かにその果実を口にした魔物はその果実に秘められた魔力を全てその身に宿すことになる。でもね、それは同時にその魔物の死をも意味しているの。」
魔力を養分として成長し、魔力の元である魔物をフェロモンで呼び寄せ、そして狂わせることで自らの足元にたっぷりの栄養を蓄えていく宝石樹。この樹の真に恐るべき所は、純粋な植物にも関わらず、『宝石樹』という一つの種における本能のようなものが備わっているとしか思えない生態を見せる所にある。
「宝石樹のご飯は魔力。その本能としてより魔素の濃い、強力な魔力を持つ魔物がいる地に根を下ろしたがるのは自然の摂理よねぇ……? でも、植物は自分で移動することは出来ない。……そこで賢い賢いこの樹は考えたの。『魔物に種を運ばせればいい』って、ね?」
「わざと、実を食べた魔物を強くしているってことか……?」
――植物による寄生。そして宿主の行動の支配。
その禁断の果実を口にしてしまった魔物は、その果実に秘められた魔力を全て自身の物にすると同時に、その体内に宝石樹の新芽が根を伸ばしていくこととなる。その根が探し求めるのは脊髄。即ち、全身の筋肉の動きをコントロールしている神経系である。神経系に辿り着いた宝石樹の根は、その神経に沿って一気に全身に根を張り巡らせ、宿主である魔物をより魔素の濃い方へ、より強力な魔物達の住まう土地へと誘導していく。伸びた根が神経から脳髄にまで達することには宿主である魔物達にはもはや欠片の自我も残されておらず、全身に、樹皮によく似た堅い表皮を纏い、その表皮から魔物を呼び寄せるフェロモンを発し、おびき寄せられたより強力な魔物達の牙によって殺される。
そして、宿主の死をきっかけにその体内から悠々と芽を出した宝石樹は、元居た場所よりも更に魔力に満ちた豊かな大地に根を張ることに成功し、その土地に住まう魔物達を糧に成長する……というわけである。
「……そして、私たちがこれから潜ろうとしているのは、そんな宝石樹が完全に生態系を支配してしまった、『宝石樹の群生地』。そこに生息する魔物達のほぼ全てが既に果実を口にした『宝石獣』。禁断の果実の虜になった哀れな魔物達が、果実一つじゃ飽き足らずもう一つ、更にもう一つとその身が滅ぶまで本能の赴くままに敵を、そして『宝石樹の果実』を喰らう文字通りの修羅道よぉ。奥に進めば進む程、手に入る『宝石樹の果実』の大きさも魔物の強さも天井知らず。流石のショイサナの冒険者達でも、その最奥まで到達して無事に生きて帰ってこれたものはいないわぁ。……どう? ゾクゾクしてこないかしら?」
早々に話に飽きてマヤリスからついさっきもらった成長促進剤の存在を思い出し、アレクサンダー二世を一体、また一体と生み出していたドルカが六体目の生産に差し掛かろうとした所でドルカからすかさず香水を取り上げながら、アッシュは魔物さえもを己の糧とし意のままに操る恐るべき植物の生態に戦慄するのであった。
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次話の投稿は未定ですが、近日朝7時に更新致します!
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