第四十六話 正体判明
後がきに今後の投稿ペースについてご報告があります。
お手数ですがご一読をお願いします。
「そうそう、今日は依頼を探す必要はないわぁ。ダメもとで探してみてもいいけれど、オークやゴブリンの討伐依頼なんてもう他のギルドの冒険者に取られた後でしょうからさらっと眺める位でいいわぁ」
「わかったー! 私! 私がけーじばん見てくる!」
「今日は依頼じゃなくて魔物討伐報酬で稼ぐってことか……」
ギルドに着いて早々、依頼を探す必要が無いと言われて何故ドルカがあんなにも嬉しそうに依頼が貼られた掲示板に嬉しそうに飛んでいけるのか理解に苦しみつつ、アッシュはマヤリスの言葉から今日の予定を推測する。
「その通り。前も言ったと思うけれど、ろくな依頼が回ってこない魔窟の冒険者達のメインの稼ぎは常設されている魔物討伐。素材が取れる魔物でも良いけど剥ぎ取りを教えなくちゃいけなくなるから、今日は討伐証明部位を持ち帰るだけでいい魔物を中心に狙っていこうと思っているの。どうかしらぁ?」
「俺としては問題ない。……これがマヤリスの言っていた『サクッと稼ぐ方法』なのか? そうなるとかなり強い魔物を相手にすることになる気がしてちょっと心の準備が……」
討伐報酬は、需要のある素材が取れない、稼ぎにならないと放置されたら困る魔物に対して、ギルド側が設定した報酬である。一部の例外を除き、強力な魔物というのはそれ相応の素材としてその肉体を再利用出来たり、その魔物自身がため込んだ金銀財宝や装備が間接的な報酬となったりというパターンがほとんどで、剥ぎ取るものは無いが討伐することで大金をせしめることが出来る魔物となると一気に数は絞られる。
何かしらの理由で巨大化したスライムか、それともオークやゴブリンの変異種か……などと当たりを付け始めていたアッシュに対し、マヤリスが笑いながら答える。
「ごめんなさぁい。そういうわけではないの。今日はその準備段階として、お互いの戦いでの動きを確認させて欲しいなって思って。二人が実際どれだけ戦えるのか。私がどういう戦い方をするのかも知っておいてもらいたいから。昨日はなんだかんだで一切戦わずに依頼をクリアしてしまったでしょう?」
「そういうことか。ってことは、今日お互いの動きを確認して、問題が無ければ明日にでも『サクッと稼げる方法』に挑戦する……ってことであってるか?」
なるほど、マヤリスは想像以上にしっかりとした計画を立てた上で、アッシュ達に提案をしてくれていたようだ。『サクッと』等という表現を使いつつもそこは冒険者、それ相応に危険があるのは当たり前と言えば当たり前の話である。
「ええ、念には念を入れて、一日くらい間に休息に充ててもいい気はしているけど、大体はその通りよぉ。その辺の話も踏まえて、今日は冒険に出る前にちょっとあそこのテーブルで話し合いましょうか」
ちょうど何やら依頼表を持って嬉しそうにアッシュ達の元に戻ってきたドルカを眺めながら、マヤリスが右手側にある冒険者達の憩い兼情報交換の場であるギルド併設の酒場のテーブルを指し示した。
「おいドルカ! 今日はまずあっちのテーブルに座って作戦会議だ!」
「ねえねえアッシュ君! すごい依頼見つけた! 地獄狼の群れを束ねるケルべロスって奴をやっつけたらいっぱいお金がもらえるって書いてある! これ受けようこれ!」
「相変わらずの馬鹿かお前は! 即刻元の場所に戻してこい!」
昨日の失敗から何一つ学んでいない事実が判明してしまったドルカがしょんぼりとしながら依頼表を元の場所に戻しに行くのを見守りつつ、アッシュ達は酒場の一角に腰を下ろした。
「さて、ドルカちゃんが戻って来るまでの間に難しい話はちゃちゃっとすませちゃいましょうか。結論から言うと、私は『サクッと稼げる方法』として、超々高難度ダンジョンへのアタックを考えているわぁ。……その名も『宝石樹の洞窟』。まともに攻略するなら最低でもAランクの冒険者複数、連携及び役割分担まで完璧な布陣を敷いた上で挑む必要のあるダンジョンね」
「ちょ、そんな所俺達だけで入っていってなんとかなるのかよ?」
Aランクの冒険者複数が万全な体制で挑むことが前提となるようなダンジョンに、それ以上の強さを秘めているマヤリスがいるとはいえ二人のお荷物を抱えて攻略していけるようなダンジョンではないのではないだろうか。アッシュがそう不安気な表情を浮かべると、その反応もまた予想通りだったようで、マヤリスはこう続けていく。
「私も、無茶だと思っているしもう少し時間をかけて最低でもBランク程度までは実力を引き上げてから連れて行くべきだと思っていたわぁ……。昨夜までは」
そう言って視線をアッシュの後ろにやったマヤリスに釣られ、アッシュが振り向いてみると、言われたことをやり切ったという達成感でこの上ないドヤ顔のドルカがアッシュ目がけて全力疾走しているのが目に入った。
「アッシュくーん! ちゃんと依頼票戻してきた! ほめて! ほめれ!」
「わかったわかった。偉かったからこっち座れ、な?」
「はーい! えへへへー、アッシュ君の隣にいっちゃおっと」
丸いテーブルについたというのにドルカがアッシュにすり寄るように座ったせいでなんだかよくわからない構図になりつつも、アッシュは適当にドルカの頭を撫でて大人しくさせる。
「……アッシュちゃん、随分と手慣れたものね」
「やたら構って欲したがるちびっこは村でも色んな師匠に弟子入りしてた時でも多かったからな。もう俺はこいつをそのレベルの子どもだと思うことにした」
「えへへへー。アッシュ君もっと撫でて! もっと! えへへへへー」
真横でそんな話が繰り広げられているにも関わらず、当のドルカはアッシュに頭を撫でられる感触に専念をしアッシュの右手を両手でがっしりと掴みながら自らの頭に擦り付けるのに忙しかったのでまるで聞いていなかった。知らないことが幸せとはよく言ったものである。
「それで、『昨夜までは』……ってどういう意味だったんだ?」
「ええ。それを説明させてもらう為にも、私自身が確信を得る為にもその前に一つだけ確認をさせて欲しいの」
「確認……?」
アッシュが思わず繰り返したその呟きに、言葉ではなく微笑みを返したマヤリスは、ドルカの方を向き直って言った。
「ねえ、ドルカちゃん? あなたのその麺棒、私に見せてくれないかしら」
「お? これ? いいよー! はいどうぞー!」
躊躇いもなく差し出された麺棒を、とてもそんなものを受け取るようには見えない程に慎重に、恭しさまで見える手付きで手に取ったマヤリスは、慎重に、その麺棒を端からじっくりと検分していく。
「なあ、その麺棒、やっぱり何かあるのか? 確かに昨日の夜はそれのお陰で助かったと言えば助かったわけだけどさ……」
「ごめんなさい、ちょっと待ってて」
いつになく真剣な表情で、アッシュの問いをばっさりと遮ったマヤリスは、一通りの観察が終わったかと思いきや、懐から何やら香水の小瓶を取り出しおもむろに麺棒に向かって吹き付ける。
「ちょっ、ほんとに何を確かめてるっていうんだよ?」
「黙って」
マヤリスが何を確かめているのか気になってしょうがないアッシュがそう問いかけるが、マヤリスは完全に麺棒の検分に全神経を注いでおり、ばっさりと一言で返されてしまう。
……代わるがわる、色々な香水をかけては何かを確認するという光景が数分程繰り返されたのち、マヤリスはようやく顔を上げ、アッシュに麺棒を手渡した。
「ごめんなさいね、待ってもらっちゃって。……最後にもう一つだけ確認させてちょうだい?」
「最後? 確認? 一体何を……ってうわっ!」
肝心の麺棒をアッシュに手渡した状態で一体何を確認するのかと不思議に思ったその瞬間、アッシュの顔が甘いような、それでいて痺れるような不思議な香りに包まれた。
「……なんだよ! また何かの香水か? 別にもうマヤリスを信じるって決めたからいいけどさ、せめてやるならやるって言ってくれよな」
「……やっぱり」
そんなアッシュの抗議の声さえも無視して、真剣な表情でアッシュの様子を確認していたマヤリスはようやく何かに得心が行ったようで、そこで初めて大きく息をつき、いつも通りの微笑みを浮かべた。
「ごめんなさいね、私も流石にこの目で本気で確かめないと確信が持てなかったの。……でも、ようやくわかったわぁ」
「それって、この麺棒のことだよな? 一体何をそんなに真剣になって確認してたっていうんだよ?」
確かにこの麺棒の効果は尋常ではない。それはわかっていたが、それ以上にぶっ飛んだアイテムや冒険者達を目にしていたアッシュはどうせこの麺棒もそういうよくわからない魔道具の類なのだろうと勝手に納得していたのだ。
――しかし、そんなアッシュの思い込みは、次のマヤリスの言葉によって一瞬で吹き飛ぶことになる。
「それ、多分世界樹だわ。ちょっと信じたくない状態に加工されてるけれど、そうとしか考えられないの」
「……は?」
マヤリスのその言葉に、アッシュは今もなお自分の手に握られている、妙にしっくり手に馴染むように加工された麺棒を呆然と眺めるのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次話の投稿は明日7時の予定です……と言いたい所なのですが、ついに書き溜めが完全に尽き、毎日必死で書き溜めてはそれを投稿するというジリ貧状態ももはや限界が来てしまいました……。
リアルでの生活との兼ね合いもあり、大変申し訳ないのですが、ひとまず今後の投稿ペースを落とさせて頂ければと思います。
当初の予定ではひとつひとつの章を15万字前後で終わらせ、次章へ移るという目算で進めていたのですが、ご覧の通り第二章はまだ全く終わりそうな気配がありません……。
丁度今位の時期に書き溜めが無くなりつつも第二章が完結するという計算で進めていたのに、中身が膨らみに膨らんで全然終わる気配を見せないまま書き溜めだけが尽きたというのが現状で御座います。
毎日の更新を楽しみにして下さっていた方々には大変申し訳ないのですが、そんなわけで投稿のペースを落とさざるを得ない状況となってしまいました。
なるべく一日おきでは投稿できるように努力いたしますので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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今後とも何卒よろしくお願いいたします。