第四十五話 結局これはお互いの主義主張をぶつけたことにしていいのだろうか
いよいよ書き溜めが尽きました……
でもここ最近ほぼ毎日ブクマをして下さる方が増えてる……頑張らなきゃ……
「この借金は俺とドルカの問題で、マヤリスには何の関係もないんだ。それに、こうして仲間になって色んな事を教えてくれたり、借金を返せるだけの実力を身に着けるまでサポートしてくれるって言ってくれてるんだ。……これ以上甘えちゃったら、俺達はもう冒険者じゃない。ただマヤリスにおんぶにだっこになってるだけのお荷物になっちまうだろうが! マヤリスにとってはこの程度の金額の借金は何ともない屁みたいな額かも知れない。でも、それなら俺達が一日でも早くマヤリスに追い付いてそれだけ稼げるようになればいいだけなんだ。『対等』な仲間になってくれるって言ってくれたマヤリスに、都合の良い時だけ新人面して甘えてられるかよ」
「うー……! わかんない、わかんないけどぉ……!」
そう、一息で言い切ったアッシュの普段以上の剣幕に、ドルカはたじたじになりつつもまだ納得はし切れていないようで、でも何をどう言い返せばいいかもわからず涙目でアッシュを見ることしか出来ずにいる。
「……はいはい、アッシュちゃんストップ。その大事な仲間の一人であるドルカちゃんを泣かせちゃってどうするの? ドルカちゃんも、アッシュちゃんの言ってることは凄く素敵でかっこいいことよ? ……彼、私に負けたくないんですって。男の子としてこれだけキャリアも実力も離れている私と、本気で対等にやっていきたいんですって。……それって凄くかっこいいことだと思うんだけど、ドルカちゃんはどう思うかしらぁ?」
アッシュとは対照的に、ゆっくり、優しく言い含めるように伝えられたマヤリスの言葉に、涙目だったドルカの瞳が、真ん丸に見開かれ、キラキラと輝きを取り戻していく。
「……私、変なこと言ってた?」
「ドルカちゃんもアッシュちゃんも間違ってないわぁ。お互いの大事にしているものの順番が違っただけ」
「……アッシュ君、怒った?」
「怒ってないわよ。男の子としての意地があっただけ」
「……アッシュ君、かっこいい?」
「かっこいいと思うわぁ」
「……そっか」
そんな一問一答を繰り返しながら、ドルカは一つ一つの言葉をゆっくり時間をかけて噛み締めていく。その様子を黙って見ていたアッシュであったが、もっと優しくかみ砕いて伝えてやればここまで涙目にさせることもなかったのだとバツが悪くなっていく。
「なあドルカ、俺もちょっと言いす」
「えへへへー、ならしょうがないね! アッシュ君かっこいいもんね!」
ついに先にアッシュの方が折れ、謝ろうとした瞬間に、ドルカはいつも通りのテンションに戻り、「うひょー!」と叫びながら走り出してしまった。
「……すっかり元気になったみたいね」
「……だな。マヤリス、くだらない口げんかに巻き込んじまって悪かった。それと、仲裁ありがとな」
バツの悪そうな顔で頭をぽりぽりと掻きながら謝るアッシュに、マヤリスはいつも通りの微笑を浮かべたまま返す。
「アッシュちゃん、これは『くだらない口げんか』なんかじゃないわよ? 冒険者として、一緒に支え合っていく仲間として自分の信念を伝えただけ。一緒に冒険していく、時に命を預けることになる仲間だからこそこの手の衝突は免れないものなの。遅かれ早かれ起きたことだし、それが生死を分けるような戦いの最中じゃなくて良かったと思いなさい」
強敵の攻撃で酷い怪我を負った仲間を前に、その仲間1人を見捨てて逃げるか、全滅の危険を顧みず足掻き、その仲間を助けようとするのか。どちらが正しいのかは神のみぞ知るものであるが、間違いないのは、その瞬間に仲間同士で意見が割れた場合、待っているのは無残な死のみである。
「それに、私は嬉しかったわぁ。薄っぺらい言葉だけではなく、アッシュちゃんはこうしてちゃんと『対等』であることを信念として見せてくれた。…その信念は、一流と呼ばれる冒険者であればその全員が何かしらの形で持っているもの。今自分が抱いている思いを、決して忘れないようにしていれば、アッシュちゃんなら必ず私たちと同じ所にま並び立てる。……それどころかあっさり追い抜いていっちゃうかしら? なんてね」
「……そう言ってもらえて良かった。実際、マヤリスの懐に余裕さえあるのであれば、マヤリスに一時期に金を借りてギルドへの借金を返しちまうのが一番合理的なんじゃないかっていう考えはずっと頭のどこかにちらついてたんだ。……でも、もしそれを受け入れてしまったらもう俺はマヤリスと対等にはなれない気がしてさ」
『信念』という程のものなのかはさておき、アッシュは合理的な判断を捨て、自分の感情を優先させたのである。だからこそ、この世の誰よりも感情の赴くままに生きていると言っても過言ではないのではないか、というレベルで自由奔放なドルカから、『マヤリスから金を借りれば良い』という言葉が出てきた時に過剰に反応してしまった。アホの子だってたまには鋭いことを言うものだ、アッシュは認識を改めざるを得なかった。
その肝心のドルカはいつも通り目の前であははうふふえへへとアホ丸出しの笑顔ではしゃいでおり、アッシュが今さっき伝えた信念について理解しているとは到底思えず、なんとなく複雑な気持ちにさせられてしまうのだが。
「まあ、いくら頭を下げられても一緒にお金を稼がざるを得ないのよね、実際の所は。ほら、無い袖は振れないって言うじゃない?」
「え……?」
「私、お金はあったらあっただけ使って香水の原料やお洋服を買っちゃうのよ。ほら、市場で見たことのない毒草を見つけたら気になっちゃうものでしょう? ……途中で言おうかどうか迷ったのよ? でも、なんかアッシュちゃん盛り上がってたし、それを遮ってこんな話するのもどうかしらって思って」
ドルカはアホ過ぎて話を理解してるんだかどうかわからず、お金を借りてしまったら対等にはなれないと、勇気を出して己の信念を伝えたマヤリスは、実はそもそも貸してもらえるだけのお金を持っていない。
せっかくちょっと良いことを言ったはずなのに、なんだか締まらないアッシュであった。
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