第九話 ちなみに「ペロ」って通貨単位は昔王様が飼ってた猫の名前から付けられたらしいよ。犬じゃなくて猫かよ
本日二度目の投稿です。
「でもまあ、そういうことなら良かったよ。お前やお前の家族からしたら10万ペロの借金なんて屁でも無いってことだよな。そもそも市場で80万も散財したわけで、最悪でもそれを全部売っちまえばどんなに安く買いたたかれても10万にはなるだろうしな。成り行きとはいえこうして出会った奴が借金にまみれてチンピラに追われていなくなるなんて嫌だったから、ちょっと安心したよ」
「うひょー! アッシュ君がデレた! これが両想いってことですか! うひょー!」
「なんで一瞬でそこまで結論がぶっ飛ぶんだよ! それはそうと、一体80万も使って何買ったんだよ? チンピラ共に奪われずに今も持ってるんだろ?」
「もちろん! って言っても大したものじゃないんだよ? えっとねー……」
――ドルカが市場で買ったもの一覧。
・必ず二股に割れて育ち、十分に育つと勝手に地面を抜け出し歩き回る『歩き大根』の種。愛情を込めて育てると自分で勝手に倉庫に並ぶので収穫の手間がいらない! と言われ購入を決意。一袋で10万ペロ。
・服にペタッと張るだけでぴったりくっついて離れなくなる魔法のアップリケ。その名状しがたいデザインに一目ぼれ(少なくともアッシュには何かの生き物の染色された革の切れ端にしか見えなかい)。あるだけ買い占めて50個購入。5万ペロ。
・植物が良く育つ『香水』。良い香りに満ちた空気を吸って育つことで植物も元気いっぱいになるらしい。ウォークラディッシュを育てる為に購入。一瓶10万ペロ。
・魔法の杖の先端に嵌める魔石ホルダー(石無し)。家から持ち出した麺棒に試しにつけてみたらピッタリハマって抜けなくなり、やむなく店主の言い値で購入。5万ペロ。
・魔法の腕輪(効果不明)、効果は説明されたが難しくて覚えられなかった。デザインが気に入ったので購入。右手と左手どちらに着けようか迷ったが両腕に着ければいいと店主に言われて目から鱗が落ちる。二個まとめ買いでキリよく50万ペロ。
「大したものじゃなさすぎだろ! 完っ全っにカモられてるじゃねぇか!」
「えー? そうかなぁー?」
「冒険者になりに来た奴が何で大根の種買ってんだよ! 勝手に地面抜けて歩き出すってなんだよ! こえぇよ! 絶対逃げるじゃねぇか!」
「そんなことないもん! 愛情たっぷり注いで育てたらちゃんと言うこと聞くんだって言ってたもん!」
「そのお洋服のアップリケ? 全部そのお店で買ったものだったのね。……ちょっと! その右袖に張ってある奴ヘルグリズリーじゃない!? それに胸元のは大嵐龍の鱗! ぼろ雑巾みたいだけど一流どころの騒ぎじゃないわよこの切れ端! ……凄い素材なのはわかったけど、ドルカちゃんちょっとオシャレも勉強しましょ? わけのわからない切れ端をわけのわからない付け方してるからまだら模様の牛みたいになっちゃってるわよ?」
「でしょー? これ絶対かわいいと思ったんだー! 売ってたおねーさん『本当に売れるとは思ってなかった。全部買ってくれるなんて信じられない』って泣いて喜んでたし!」
「ってか植物が良く育つ『香水』ってなんだよ!? 普通に肥料じゃねぇか」
「やだなぁアッシュ君、香水屋さんで買ったんだから香水に決まってるよ? 『香水をそのまま嗅ぐ分には良い香り』って作ったお姉さん言ってたし」
「あ、その子多分『魔窟』の冒険者だわ。『邪毒のマヤリス』とか『死毒の香水屋 』って呼ばれている、猛毒の香水使いよ」
「よしドルカ、その香水使って大根を育てるのは構わないが絶対に食べるなよ。何が起こるかわかったもんじゃない」
「あとね、ドルカちゃん。この街に限らないと思うんだけど、魔法が付与された装備は効果がわからないまま身に着けちゃダメよ? 魔法の効果を聞き流してデザインで選ぶなんて狂気の沙汰にも程があるわ」
「えーっ!? 香水使ったけど平気だったしすごく良い匂いだったよ? 腕輪もこうして装備してるけど今のところ何も起きないし大丈夫!」
最早突っ込みどころが多すぎてスルーしていたが、麺棒にハマって抜けなくなったという魔石ホルダーに至ってはただの留め金に5万ペロである。抜けなくなったのを見て、しめしめと思った店主の言い値で買わされたに違いない。ただの金属の留め金なら相場は精々高く見積もって大銅貨3枚で300ペロ。実に約170倍の値段を吹っ掛けられて素直に払ってしまうとは馬鹿にもほどがある。
「あ、そうだ! 忘れてた! アッシュ君にお礼しなきゃ」
アッシュが、ドルカがまんまと買わされた魔石ホルダーその他品物の本来の相場価格を計算するべく上の空になった一瞬の隙をついて、ドルカは左手に着けていた腕輪を外し、アッシュの右手を取ったかと思えばサッとその腕輪を嵌めた。嵌めてしまった。
見たことのない、模様のようにも文字のようにも見える不思議な形が規則正しく並んだその腕輪は、アッシュの右手をするりと通り、手首の下の辺りまで来たところで急に光り出した。
するとどうしたことであろうか。腕輪は光を放ちながら縮みだし、アッシュの腕にぴったりとくっつき、完全に密着してしまったではないか。
――ぞわり。
腕輪がピッタリと腕にくっつくや否や、アッシュは、ドルカが触れている右手から身体の中心に向かって、温かい何かが流れ込んでくるのがわかった。流れ込んでくるモノ自体はとても温かくて心地良い。それなのに、アッシュは何故か寒気が止まらなかった。何か大切なものが、アッシュにとって大切な何かが喪われる予感というか、そんな恐ろしい感覚だった。
「お? なんかおもしろーい! 私からアッシュ君に流れてる?」
「おい! なんだよこの腕輪! ドルカから何かが流れ込んでくる! ……くそっ外れないぞこれ!?」
ただならぬ気配を感じ取ったのか、マスターがドルカとアッシュの手を無理やり引きはがし、アッシュの腕に嵌った腕輪を見つめる。気が付けば腕輪はもう光を失っている。
「アッシュちゃん、どう? まだ流れ込んでくる感覚はあるかしら?」
「いや、もう大丈夫みたいだ。 ドルカに腕輪を嵌められた瞬間から、ドルカから何かとても温かいものが流れ込んでくる感じがして、でも、同時によくわからない嫌な予感って言うか、背中に寒気が走ったんだ。」
「ちょっと我慢してね。……ウォラァアァッ!」
「マスター!? ……イデデデェッ!」
「……駄目ね。これ以上引っ張ったらアッシュちゃんの腕を引きちぎっちゃう。私の力でも外れないとなると、呪われている可能性もあるわね。他に何か変なところはないかしら?」
「変なところ……?」
皮膚どころか右手首全て一緒に持って行かれるのではないかというほどの恐ろしい力でマスターが腕輪を引っ張ってくれたのだがびくともしない。他に身体に異変が無いか、改めて確認をしてみると、ひとつ思い当たることがあった。
「魔力が、回復している……?」
アッシュは、今日使った魔法の回数に反して、自身の身体の中に駆け巡る魔力が異常に満ち溢れているという今の身体の感覚を確認するかのように、自身の手のひらとドルカによって嵌められた腕輪を交互に眺めるのであった。
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初投稿作品なので自分自身いつまでモチベーションを保ってやっていけるのか自分のペースが速いのか遅いのかもわからない中頑張る毎日です。
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きっとその時はドルカちゃんばりに喜びます。うひょー!