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第四十三話 ヘタレ冒険者一斉駆除祭り

「なぁおい、これは一体どういうことなんだ……?」

「う、嘘だろ!? あの『邪毒』が男と一緒にいやがるなんてよ……!」

「いや、俺はあの『邪毒』によそわれたスープを平気で飲める男の方が信じられねぇ……!」


 その日の朝、アッシュ達一行が泊まった宿『剛腕のベッドメイク』の食堂内は騒然としていた。


「……あのぉ、マヤリスさん?」

「なぁに? アッシュちゃん」

「その、なんというか、食堂中の視線がこっちに集中してらっしゃる気がするんですが……」


 そう呟き、アッシュが疲れ切った表情で周りを見渡そうと顔を上げると、アッシュが顔を向けた方向にいる宿泊客たちが全員ウェーブを作るかのようにサッと視線を戻し、ジョッキをあおり、パンを頬張り、わざとらしい咳払いが立て続けに起こる。


「気のせいじゃないかしらぁ? ねぇドルカちゃん、ドルカちゃんはどう思う?」

「うひょー! スープおいしー! なんだこれ! なんだこれー! おいしー!」


 アッシュの右隣りでスープとパンを交互に頬張るドルカは、周りのことなどお構いなしといった様子で目をキラキラと輝かせながら宿の主人であるドログ特製のスープに舌鼓を打っている。


「ほら、ドルカちゃんもああ言ってることだし、気のせいよ。ほら、アッシュちゃんも美味しいスープ飲みましょ? それとも私に『あーん』ってして欲しくてわざと手を止めてるのかしらぁ?」


 そして、アッシュの左隣(・・)には、くすくすと笑いながらこの上なく楽しそうな表情を浮かべつつ、じーっとアッシュに熱い視線を注ぎ続けているマヤリスが座っている。

 右手には見るからにアホそうな美少女、そして左手には『邪毒』と知れ渡った今でもふらふらと惹き寄せられては毒で返り討ちにあう哀れな男が絶えない絶世の美女。

 傍から見ている分には羨ましくてしょうがないが決して自分が取って代わりたいとも思えない、なんだかよくわからない『両手に華』がそこに存在していた。


「……マヤリスお前、わざとやってるだろ?」

「ふふ、何のことかしらぁ? 私はただ、『邪毒』と知れ渡った今でもお構いなしに声をかけてきたり、ありもしない可能性に賭けてわざわざ同じ宿に寝泊まりするほど付きまとっておきながら結局声もかけられないような哀れな男共に、私が誰のモノになったのかをしっかりきっぱり教えてあげてるだけよぉ?」

「やっぱりわざとなんじゃねぇか! あと誰が誰のモノになったっていうんだよ! わざと大声でデタラメ言い触らすのをやめろぉっ!」


マヤリスの言葉を聞いてざわついていた周囲の冒険者の中に、一人、また一人と明らかに顔をこわばらせ手に持っていたパンを取り落としたり、頬に一筋の涙を零したり、がっくりと項垂れたりといった者が増えていく。というか多すぎである。この場に居る冒険者のうち何人がマヤリス目当てでこの宿に泊まっていたというのだろうか。


「……ね、やんなるでしょ? そういう訳だからアッシュちゃん。はい、『あーん』」

「……この流れで躊躇いも無くトドメを刺しに行くあたり、流石だよなほんと」


 ここぞとばかりにわざとらしく作られた完璧な微笑と共に口元に運ばれたパンを、アッシュは後ろにのけぞることでさらしと躱し、ついでにちょんちょんとドルカの肩を叩くと、アッシュの方に向き直ったドルカは差し出されたパンに目を輝かせ、即座にそのままぱくりと飛びつき食べてしまった。


「えへへへー、マーヤひゃんありあほー!」

「礼を言うのは良いけどちゃんと呑み込んでからにしろよ行儀が悪い! 」

「もう、アッシュちゃんってば釣れないんだから……」


 微笑に続き、これまたわざとらしくむくれてみせるマヤリスに、アッシュはげっそりとした様子で答える。


「マヤリスは俺の方向いてたから気付かなかったかも知れないけどな、『あーん』のタイミングで虚ろな目をした男共が揃いも揃って口を開けてこっち見てたんだよ! あの状況で何も気にせず大人しくされるがままの奴がいたら見てみたいくらいだよ!」

「あら、見せつけてあげればよかったのに……。ねぇドルカちゃん?」

「そうだそうだー! よくわかんないけどそうだそうだー!」


 恐らく、これからはこのやり取りが日常となるのだろう。それを思うとアッシュは、今からどんよりと気が重くなる。


「あ、そうだ。ドルカちゃん、はいこれ」

「うぉー! そ、それはまさかっ!」


 一通りアッシュをからかいつつ食堂にいた男性冒険者達にトドメをさせたことに満足したマヤリスは、おもむろに腰に下げた鞄から香水を一つ取り出し、ドルカにポンと手渡した。


「アンコールにお応えして、植物の成長促進剤。種も手に入れたわけだし、これでまたいつでも大根ちゃん達を作れるわよね?」

「やったー! アッシュ君! アレクサンダー二世作ろうアレクサンダー二世!」


 早速自分の鞄から種袋を取り出しザバァと机の上に種をひっくり返したドルカを見て、アッシュは必死でドルカから香水と種袋を奪い取る。


「馬鹿かお前はっ! その量の種をこの場で全部大根に変えたらこの間の二の舞じゃねぇかっ! ギルドに着いてから、5体までなら許してやるからそれまで待てっ!」

「えー! アッシュ君ずるい! アッシュ君がやってたざばーってひっくり返した種から数え切れない位の大根がずーっとぽこぽこぽこぽこ出てくる奴、私もやりたい!」

「それに関しては俺も反省してるの! あんなこと次やったら今度こそ俺らお尋ね者になるの! わかったらそのぶちまけた種を拾え! そしてしまえっ!」


 口を尖らせて抗議してみたり可愛らしくおねだりをしてみせようとしたり。朝から元気いっぱいのドルカに振り回されるアッシュを、マヤリスはその隣で、愛おしいものを見るように微笑を浮かべ、ただただ眺めているのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は明日7時の予定です。

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