第三十話 G定食の秘密
ついに書き溜めが切れてしまった……!
先の構想は完成してるから、もう後は手を動かすだけなのにその手が動いていない……!
頑張ります。
「それじゃあ、マヤリスが仲間になってくれたことと、無事初めての依頼を達成したことを祝して! 乾杯っ!」
「うひょー! かんぱーい! かんぱーい! かんぱーい!」
「乾杯! ……ドルカちゃん、乾杯は一回やればいいのよ?」
珍しくダグラス達の姿が見えず、ほぼ貸し切り状態となっていた不純喫茶ガチムチゴブリンにて、アッシュ達一行はアッシュ、ドルカ、マヤリスの3人パーティ結成記念、そしてアッシュとドルカにとっては初の依頼達成記念としてちょっとした祝賀会を開くことにした。
ただでさえ普段からテンションが暴走気味のドルカは特別な会というだけでテンションがMAX状態になっているようで、いつも以上に落ち着きがなくにこにこへらへらと笑いながら目の前のご馳走に目を輝かせている。
「それにしても、急な話だったのにこんなに色々ご馳走を用意してくれて本当にありがとう!」
「あら、いいのよ。ダグラス達が一昨日捕まえて来たチンピラの下っ端達の性根を鍛え直す為にどっかのダンジョンに潜りに行ったからこのお店もしばらくは閑古鳥。一週間は戻らないって話だったから余った食材をどう処分しようか悩んでた所だったのよ。今日は安くしとくからじゃんじゃん食べて頂戴な」
普段入り浸っている数十人規模のクランが総出で遠征に行くと、店としては事前に知らされていたとしてもどうしても食材を余らせてしまうものらしい。日持ちのするものは可能な限り弁当として持って行かせたとのことではあったが、それでもまだ余った食材は自分で食べるか腐らせるかしかない。そんなタイミングで3人とはいえ食事を取りに来たアッシュ達はマスターにとっても丁度いい客となったようだ。
「ああ、一昨日のあの市場の騒動でダグラスに捕まったチンピラ達の矯正、いよいよ始まるのか。……つくづく俺達はあのクランに入らずに済んで良かった」
恐らく、一週間のうちにどちらかと言えばひょろい外見の者が多かったはずのチンピラ達もダグラス程ではないにせよ、バッキバキのムッキムキになり半裸でワセリンを塗りひたすらプロテインを飲み続ける生活に何の違和感も持たなくなって帰って来るのであろう。
「そうね。でなきゃ今頃は筋肉を増やす為にひたすら食べて鍛えて寝るだけの恐ろしい生活の幕開けだったに違いないわ。……それで、そこのアナタがこのコ達の仲間になってくれたっていう」
「マヤリス。『邪毒のマヤリス』と言った方が耳馴染みがあるかしらぁ? ギルドに行って誰か良い冒険者を見繕って仲間に入れてもらえってこの子達にアドバイスをしたの、貴女なんでしょ? 感謝するわぁ。そのおかげで長くソロでやってきた私にもこんなに可愛らしい仲間が出来たんですもの」
食べる仕草さえも冒険者らしからぬほどに洗練され、こうして普通にしていれば場違いな店に迷い込んでしまった貴族令嬢としか思えないような振る舞いを見せるマヤリスは、ピンクのふりふりエプロンからぬっと伸びた筋骨隆々の手足も、ぴちぴち過ぎてエプロン越しでもわかるバッキバキに割れた腹筋や胸筋にも、何よりどぎつい化粧が施されたどこからどう見てもゴブリンであるマスターの顔にも一切動じることなく談笑を続けている。
「名前だけは知っていたけど、こうしてお目にかかるのは初めてね。……魔窟のイカれた連中相手にソロで引けを取らない程の実績を上げ、二つ名まで手にするだけあって流石に身に纏うオーラが違うわね。アタシの名前はキャンディ。是非これからもごひいきにお願いするわ」
「マスターって名前キャンディちゃんだったんだ! かわいー名前!」
「あらヤだドルカちゃんってば嬉しいこと言うじゃない! んもう今日はいっぱいサービスしちゃうわぁっ!」
ドルカの言葉にくねくねとしなを作って喜ぶムキムキのゴブリンと一緒になってスプーン片手に踊り狂うドルカ。そんなカオスな状況を意にも介さず、マヤリスはいつも通りの微笑を浮かべながら言った。
「私も、この店の名前とキャンディの名前だけは知っていたわぁ。噂通り、普通の料理を食べる分には絶品なのね。あのむさ苦しい連中がいない時になら是非また来たいくらいだわぁ」
「アナタも嬉しいこと言ってくれるわね! あのバカなオトコ共がプロテインやワセリンばっかり欲しがるからそっちで有名になっちゃったけど、アタシこう見えてちゃんとした料理も得意なの。プロテイン以外の食べ物はただの栄養補給としか考えてない連中と違ってこうやってちゃんと味わって食べてもらえるのは久しぶりよぉ! あいつらが居ない時だけでもいいから、是非こうしてまた食べに来て欲しいわ」
そう言いながら、マスターはさっと新しい料理をテーブルに置いていく。
「うひょー! こっちも美味しそう! どうしようアッシュ君! 全部美味しそう! どうしよう!」
「全部自分の好きなだけ食べればいいだけじゃねぇか。ほら、全部ちょっとずつ更によそってやるからちょっと待ってろよ」
もはやドルカを落ち着きのない小さな妹のような扱いで見ているアッシュを見て、『あっこれは完全に私の魅力にやられちゃったな』と勘違いしたドルカのテンションは最高潮に達した。
「さすがアッシュ君やさしー! じゃあ私はアッシュ君に『あーん』してあげる! ほらっ『あーん』って!」
「ちょっバカやめろっ! そんなスピードでフォーク突き出されたら喉にぶっささるだろうが! 俺は自分で食べるから大人しくしてろっ!」
「……ドルカちゃんがアッシュちゃんに『あーん』してあげるなら、私が二人の分まで料理をよそってあげるわぁ」
そう言って、恐ろしいスピードでまっすぐに繰り出されるフォークの連打を必死で躱すアッシュをよそに、マヤリスはテキパキと料理を取り分けていく。
「……そう言えば」
なんとか怪我をする前にドルカからフォークを取り上げ、なんとか落ち着くことが出来たアッシュは、ふと思い出したことをマヤリスに尋ねた。
「ブルーノさんの誘い、断った理由って結局何だったんだ?」
アッシュのその何気ない質問に、料理を取り分けていたマヤリスの手がピタッと止まる。
「……アッシュちゃん、今朝私が絶対に受けちゃダメって言った依頼、どんな内容だったか覚えてるかしら?」
「……え? そりゃあ覚えてるけど……」
そうマヤリスに聞き返されたことをきっかけに、アッシュの中で点と点だった情報が繋がっていき、輪郭を帯びていく。
「『受けたらヤバい依頼』『あり得ない魔物素材を扱うレストラン』『人体改造』……。『ある日』を境に襲われるようになったブルーノさん、ハマってしょっちゅう通うようになった『レストラン』、お気に入りの『G定食』、何故か抜けているGより前の定食メニュー、『G』の意味が違う? ……っ!」
荒唐無稽な、しかし何故かそうに違いないという確信めいた予感に、アッシュは身震いをしてしまうのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話の投稿は明日7時頃の予定です。
よろしくお願いいたします。