第二十六話 ゴブリン大ピンチ(笑)
ブクマと評価を入れて下さった方、ありがとうございます!
ストーリー文章共にまた満点をつけて頂きめちゃくちゃテンション上がりました!
これからも頑張ります!
ブルーノに連れられて森の奥へ奥へと向かっていくこと約20分。アッシュ達は、森の中の様子が徐々に変わってきていることに気付き出していた。
「……やっぱり何か変だ。森に入った時も変に静かだって思ったけど、あの時はまだ鳥や虫なんかが動く気配があった。だけど、泉に近づくにつれそういう小動物たちさえ息を潜めて身を隠してるように感じるんだけど、俺の気のせいか?」
それこそ、ぼそっと呟いたアッシュの言葉が数歩後ろを歩くマヤリスの耳に鮮明に届く位に、森が静まり返っている。聞こえるのは、アッシュ達4人分の足音と、時折我慢できずに鼻歌を歌い出すドルカの声と、風で揺れて擦れる葉の音くらいであり、小鳥の囀り、虫の羽音一つしない森はまさに不気味の一言であった。
「気のせいじゃないわね。みんな、何かに怯えて身を隠してるみたい。……間違いなくこの森で何か大きなことが起こってるわぁ。もしその『何か』が泉で起こっているのなら、そろそろ物音が聞こえてきてもおかしくない頃合いなのだけれど」
まるでマヤリスのその一言がきっかけだったかのように、今まさにアッシュ達が向かっている方向からゴブリン達の悲鳴とも雄たけびともつかないような叫びが幽かに聞こえてくる。
「ヒッ!? い、今確かにゴブリンの声がしましたよねっ!? 気のせいじゃないですよね!?」
「気のせいじゃないから貴方は一歩下がりなさぁい? ここから先はアッシュちゃんとドルカちゃんが先頭、ブルーノさんはその5歩後ろから道案内をしてちょうだい。私が殿でちゃぁんと全員を護ってあげるから、不意打ちは一切気にしなくていいわ。どの道心配する必要はないでしょうし」
そう言って、それまでアッシュやドルカとほぼ横並びで歩いていたブルーノを数歩下がらせたマヤリスを受け、アッシュもブルーノに対し質問を投げかける。
「ブルーノさん、ここから泉までの道に分かれ道はありますか?」
「えっと、大きな岩の手前で二手に分かれていて、泉に向かうのはその左手の道だよ。それ以外は分かれ道は無かったはずです」
それを聞いたアッシュは、先ほどから強くなるばかりの妙な胸騒ぎのこともあり、これからの道を急ぐことに決める。
「よし、それならちょっと急ぐぞ! ブルーノさん、ブルーノさんまで走らせちゃって申し訳ないんですが、大丈夫ですか?」
「たった数ヵ月とはいえ、伊達に森で暮らしてないよ! ボクもさっきかすかに聞こえてきたゴブリン達の悲鳴が気になってしょうがないんだ。皆さんと違ってそこまで早くは走れないかも知れないけど、出来る限り急がせてもらうよ!」
「ありがとうございます! ドルカ! 今から走って向かうけど、前の時みたいにお前のペースで走られたら誰もついてこれないからな、ちょっとは加減してくれよ?」
ずっと静かにするよう言われてただただ黙々と歩くだけで退屈していた所に、走ると言われて目を輝かせていたドルカは、すかさずアッシュに釘を刺されてしまったことでちょっぴりしょんぼりしつつ、しぶしぶ頷いた。
「や、やだなぁアッシュ君。私だってそれくらいのことはわかってるよ!」
「なら安心だな。じゃあ、行くぞ!」
そう言って駆け出すアッシュと、それに続く一行。程なくしてブルーノが言っていた大きな岩の前の分かれ道に差し掛かる頃には、もはや一歩踏み出すごとにゴブリン達の喧騒が大きくなっていくのがわかる程、明らかにゴブリン達の声が聞こえるようになってきた。
「この声っ! ゴブリン達は今何かと戦っている……っ!?」
「間違いないわね。それもゴブリン達が総力を挙げて戦わなければならないような何かと戦っている。ここまでの間に逃げ出してきたようなゴブリンとすれ違いもしていないのが良い証拠。逆に言えば、ゴブリン達からしても逃げる以外どうしようもない相手と戦っているというわけではないということね」
勝ち目が無いとわかるや否や仲間を見殺しにしてでも自分は生き延びようとするのがゴブリン達の習性である。それがまだ、一体もこちらに向かって逃げてくるゴブリンがいないという事実が、ゴブリン達が相対している『敵』の強さを予測するヒントとなった。とはいえ、戦闘状態になっているのは間違いがない。ドルカを除くアッシュ達一行は、一切の油断をなくし最大限に警戒しながら泉に向かって走るのだった。
「ゴブッ! ゴブゴ、ベグギョラァッ!(訳:クソッ! 全員だ、全員でかかれっ!)」
「ゴボウブゴブゴボウ! ゴブッゴブゴボ!(訳:馬鹿野郎、一カ所に固まるんじゃない! 散らばれ!)」
「……うわぁ」
泉についたアッシュ達一行を待ち受けていたのは、およそ地獄絵図と言って差し支えの無い光景であった。
「……そうだよなぁ。俺達がついさっき、ここに移り住むように言ったんだもんなぁ」
泉の前で繰り広げられていたのは、死闘。縄張りを荒らされて怒り狂い、総力を挙げて侵略者を追い返そうと奮闘するゴブリン達と、それを真っ向から迎え撃ち、量で圧倒するアレクサンダー率いるマンドラ大根達の混沌とした戦いの図であった。
「うひょー! アレクサンダー! さっきぶりだー! いけっ! ゴブリンなんてやっつけろー!」
ドルカのノリと勢いだけの声援に、この場に創造主が居ることに気付いたマンドラ大根達はわさわさと葉っぱを揺らし、その喜びを全身で表現し始める。無数の大根達が突如腰? をくねくねと揺らし始めたその光景を見て震え上がるゴブリン達。その揺れが終わった瞬間、大根達の攻勢は一気に激化していった。
「ゴブゴベラッ!? (訳:なんだこいつら!?)」
「ゴブットゴブランゴブレリゴブン……! (訳:急に勢いが増してこのままじゃ押し負ける……!)」
それまででさえ防戦一方で、ずっと辛うじて戦線を維持しながらじりじりと後退し、飲み水を確保する為の文字通り生命線であるこの泉をある意味最終防衛ラインとして必死に凌いでいたのであろう。今にも倒れ伏しそうなほどに疲弊しきっていることが見て取れるにも関わらず、ゴブリン達は必死で大根達に抗っている。
というか大根達が強すぎる。生まれて間もない小振りで手のひらサイズの大根達は数で圧倒し、相手に纏わりついて動きを封じてしまう。人間の下半身よりやや小さい位にまで成長した大根達は器用にもその両足? を使って鋭い蹴りを繰り出している。リーダーであり唯一2メートルを超える巨体にまで成長したアレクサンダーに至っては、青々と生い茂った葉をムチのようにしならせてたったの一撃でゴブリン達を薙ぎ払っている。とはいえ所詮は葉っぱなので、ダメージというよりは吹き飛ばす方に主眼を置いた攻撃のようであるが。
「……これ、止めないと本当にゴブリンを絶滅させちゃうんじゃないの?」
ある程度はこの光景を予想していたらしいマヤリスでさえ、マンドラ大根達がここまでゴブリンを圧倒しているというのは想定外だったらしい。その頬には冷や汗まで流れ、目の前で繰り広げられている蹂躙と言っても過言ではない戦いに若干引いていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次話の投稿は明日7時頃の予定です。
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