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第十四話 あたしがセーフって言ったらセーフ

「で、あんたいつまであたしのこと眺めてんの? 依頼探すならさっさと探せば~?」


気怠そうな表情に相反して、テキパキとした手付きのまま手を止めることなく依頼を張り終えたドリーは、アッシュの方に向き直り、やはり気怠そうな口調のままで言った。


 返事も待たず、気怠そうな表情のまま立ち去ろうとするドリーに、アッシュはなんと声を掛けていいものやらわからず、とりあえず軽く会釈だけして見せつつ、新しく張り出された依頼を確認しようと改めて掲示板に近づいた。

 ドリーに言われた通り素直に依頼を一つ一つ確認しているだけなのに、何故かドリーはそれがお気に召さなかったらしい。


「ねえ君、こういう時は受付嬢におススメの依頼を尋ねるものナンですけど~?」


 腕を組み左足に重心をかけて右足のつま先で床をパタパタと踏み鳴らしながら、ドリーは言った。ただでさえ大きく開いている胸元が腕を組んだことによって更に強調され、アッシュとしてはドリーを直視できない状況なのだが、せっかく受付嬢らしく新人にあれこれ教えてやっているというのにちゃんと顔も見ようとしないなんて、とドリーにとってはその態度は更に気に入らないものだったらしい。


「ドリーちゃん、教えてくれるのはとっても有難いんだけど、アッシュちゃんにとってその恰好はちょっと刺激が強すぎたみたいよ?」

「え……? ……キャッ!?」


 そう言ってマヤリスに胸元を指さされたドリーは、それで初めて自分がかなり扇情的なポーズでアッシュに詰め寄っていたことに気付いたらしく、指摘されるや否や胸を両腕で覆い隠し、顔を赤らめてしまった。


「あら可愛い。貴女って見かけよりもずっとウブなのねぇ」

「い、いいでしょ別にそんなことはっ! とにかく! アタシが言いたかったのは、アンタ達で一番左上の依頼を受ければ? って話! ちゃんと伝えたからね! 受けるならちゃんとアタシのカウンターに依頼表を持って来なさいよ!」


 そう言うだけ言ってドリーは両腕で胸元を隠したまま、走って行く。


「結局何がしたかったんだ、あの人……?」

「あの子もアッシュちゃん達が気になってるのよ。なんていったって初の魔窟ギルドで冒険者登録をした新人でしょ? みんな、アッシュちゃん達のこと、応援してあげたいって思ってくれてるのよ」


 そう言いつつ、マヤリスはドリーが言っていた一番左上に張り出された依頼表を手に取り、しげしげと眺めると、何故かくすくすと笑いだした。


「ドリーさんがわざわざ俺達に勧めてくれた依頼だろ? 何がおかしいんだよ、何が書いてあったんだ?」

「いや、これは確かにアッシュちゃんとドルカちゃん専用の依頼みたいなものだわぁ」

 

 そういってひらりと依頼表をアッシュに投げてよこしたマヤリスは、依頼表を読んだらどんな顔をしてくれるのか、と好奇心に満ちた目でアッシュを見つめている。


「うわっと! えっと何々……? 『昨日街外れに現れた謎の植物型の巨大生物の調査』!?」


――大根だコレ。


 いや、もしかしたら偶然タイミングが同じだっただけで、アッシュが一昨日街中に放った大根達とは無関係かも知れない。そう思い詳細を凝視してみると。



<昨日より突如目撃されるようになった大根型の超巨大生物の調査、危険性が認められた場合、可能であればその討伐。当該の生物が目撃された場所はショイサナの街外れの……>


「やっぱ大根じゃんこれっ!?」


 これ、俺達で受けたらマッチポンプになるんじゃないか? と不安になってしまうアッシュであったが、マヤリスはそんなアッシュの困惑を知ってか知らずが、こちらを見てひたすらくすくすと笑っている。


「あ、ほんとだ! アレクサンダー達ちゃんと逃げ切れたんだねー。よかったよかった」


 アッシュの手に握られた依頼表を横から覗き見たドルカはアッシュとは対照的に呑気なものである。しかし、なんとなくドルカが聞き捨てならないことを言っている気がしてアッシュはドルカに喰らい付いた。


「逃げ切れた? ……おい、ドルカお前この大根共の目撃情報について何か心当たりでもあるのかよ?」

「えー? アッシュ君覚えてないの? 街中に放った大根達が途中から街の人たちに食料として狩られる側に回り始めたから、一旦街の外に逃がして潜伏させ、数が増えた所で再び襲撃させようって言って命令してたのアッシュ君だよー?」

「俺ぇええぇ!?」


 完全に記憶にない。ドルカの多額の借用書を見て正気を喪っていた間の俺は、どうやら本気でショイサナを大根で征服する算段を付けていたらしい。

 現実を受け入れたくはなかったアッシュであったが、そこまで無茶苦茶なことをしでかしていた自分を振り返ると、『借金バーサーカー』という二つ名がついてしまったことも仕方がないと思わざるを得なかった。


「やっぱり面白すぎるわね、二人とも。でもそういうことなら話は早いじゃない。二人でそのアレクサンダーちゃん? に会いに行って人に見つからないようなもっと遠い場所に行くよう伝えるなり、テイムしたことにして連れて来るなりしちゃえば依頼達成よ?」

「それはそうだけど、本当にそれでいいんですかね……」


 アッシュとドルカが放った大根を何とかしてくれという依頼をアッシュとドルカが解決する。どこからどう見てもマッチポンプである。しかし、言われた通り依頼表を持って受付に向かってみると、待ち構えていたドリーはこともなげに答えた。


「やっぱコレ、アンタたち絡みの依頼だよね~? んじゃさっさと受けてさっさと解決してきて欲しいんですケド~」

「良いのかよっ! これ、だって明らかにマッチポンプっていうか……」


 本当に問題が無いのであれば、恐らくただ行って帰って来るだけで報酬が出ることになり、有難い話ではある。しかしどう考えてもこれはおかしな話で、後から文句を言われたり詐欺として訴えられたら溜まったものではないと考えたアッシュは敢えてドリーに突っ込んだ。


「いーのいーの。アンタ達はこないだの騒動については賠償済みってことでそれ以上のお咎めはナシ。この依頼表に書かれている植物型の巨大生物が本当にアンタ達がやらかした大根絡みかは未確認。依頼を受け付けたギルド本部の冒険者がこの依頼を受けて大根だって確認して、更にその大根に危険性が見受けられたって話になったとしてもペナルティ喰らうかどうかは五分五分ってトコだし~。そもそもあいつらがこの依頼を受けなかったからこうしてアンタ達の所にまで情報が回ってるワケだし~。あと、アタシ本部の奴らキライだし」


 そんなにいい加減でいいのだろうか。最後に至ってはドリーの個人的な感情論である。

 心配性なアッシュは本当に大丈夫なのかと不安になってしまっているが、結局のところ街の外れに出没した巨大生物とアッシュ達の間に明確な因果関係が立証出来なければ賠償のさせようもない。また、マヤリス作の香水の効果はあくまで植物の成長を強制的に促進させるだけであり、実はアレクサンダーはじめ一部の大根が人間を超えるサイズにまで成長した理由はギルド本部においても解明が出来ていない。

 現状最も有力な説として支持されているのが『アッシュ達がばらまいた大根の一部が魔族の強力な瘴気あるいは魔力に当てられた結果、異常に巨大化する個体が発生した』という説で、この考えが正しいのであれば目撃されたという『巨大生物』の責任の所在はアッシュ達ではなく、ショイサナを襲った四天王ディアボロスということになる。

 そんなわけで、若干グレー感は否めないものの何かを咎められるわけでもなく、また散々大根達に追いかけ回されまともな冒険者達がトラウマを抱えて大根を極度に恐れてしまっている今、むしろ自在に大根を操り四天王を撃退までしてみせたアッシュ達にこそ、街外れで目撃された植物型の巨大生物を何とかしてもらった方がギルド的にも有難い話なのだ。

 そんなこととは露知らず、ドリーに言われるがままに依頼を受けたアッシュは、なんとなく後ろめたい気持ちのまま、その生物が目撃されたという街外れに向かうのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は明日7時の予定です。

よろしくお願いいたします。

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