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第十三話 依頼という名の人体実験

「じゃあ、早速依頼を探していきましょうか」


 世界中から冒険者が集うショイサナの中でも、己の欲望のままに生き、頭のネジがぶっ飛んでる冒険者ばかりが集うエリア、通称『魔窟』。そんな魔窟をたった一人ソロ冒険者として生き抜いてきた、一見どこぞの清楚な貴族令状にしか見えない女冒険者、マヤリス。半ば強引にアッシュ達の仲間になると言って近づいてきた彼女ではあったが、流石ベテランというべきか、掲示板に張られた依頼の探し方からして小慣れた様子であった。


「なあ、依頼にもやっぱり探し方のコツとかってあるのか?」


 その慣れた様子を見て、早速学べるものは全て学びたいと言わんばかりにアッシュはマヤリスに尋ねる。


「そうね……。私は、というか大抵の魔窟の冒険者はって言った方が正しいかしら。実はあんまり依頼を受けることって少ないの。ほら、大抵の場合美味しい仕事は他のギルドが根こそぎ取っていってるから」


そうなのである。ここショイサナは、世界で最も冒険者が集う街ということで、例外的に1つの街の中に4つの冒険者ギルドが存在し、建前上はどのギルドに持ち込まれた依頼も4つのギルド全てで掲示板に張り出され、受注することが出来るシステムになっている。

しかし、実際の現場では、依頼人との直接の交渉などが楽になるという尤もらしい理由から、持ち込まれた依頼はまず持ち込まれたギルドの掲示板に張り出された後、多少の時間差の後に初めて他ギルドにもその情報が共有されることになっている。


依頼人としても、最寄りのギルドに頼みに来たのにわざわざ街の反対側のギルドの冒険者を派遣されるよりは、なんなら今その場にいる冒険者に声を掛けてもらった方が手っ取り早いし安心感も得られる。冒険者と同様、持ち込まれる依頼もまた世界で最も多いショイサナであっても、その依頼を誰が受けるかは早い者勝ち、あるいは受付嬢から直々に指名を貰えるまでに信頼を得た者勝ちという競争状態にあることに変わりはないのだ。


そんな中、世界中から集まった冒険者の中でも一際異彩を放つ『何か』を持ち、その代わりに倫理や常識といった概念を捨て去っているような連中が集まっている魔窟には、当然のように『普通の依頼』を持ち込む者はいない。何せ魔窟と称されるエリアにわざわざ住みついている時点でまともな人間ではないのだ。安全上の理由から魔窟エリアとそれ以外の街を繋ぐ道は一本だけであり、わざわざ魔窟に用がある人間以外は決して近寄らなくとも生活できるよう徹底的に配慮されているのも原因の一つであろう。


そんなわけで、魔窟の冒険者達に回って来る依頼というのは、そのほとんどが他ギルドで見向きもされなかった割に合わない依頼や難易度の高い依頼、後は魔窟の住人が持ち込んだ頭のおかしい依頼ばかりであり、所謂普通の依頼が回って来ることはほぼあり得ない。

それでも魔窟の冒険者達の大半が食うに困らないどころか、魔窟以外のショイサナ冒険者の上位に位置する者たちと比べても遜色が無いほどに裕福な生活を送っているのは、ひとえに彼らの技術や戦力が他の冒険者達とは一線を画するレベルにあるからである。


「だから、私の場合も、自分が取りに行きたい素材や狩りたい魔物がいる場所でついでにこなせる依頼が無いかなぁとか、狙いの魔物が他の冒険者が受けた依頼の標的だったりしないようにって確認だけで終わることが多いのよ」


 後者についてはほとんどの場合『放っておいたら誰も退治してくれない』から依頼になるのであって、よほどのことが無い限り人の獲物を横取りしてしまうといったケースは起こりにくいし、万一横取りとなってしまった場合も、それは長く続けていれば誰しも何回かは経験することである。冒険者同士で報酬の一部を分け合うなり、討伐証明となる部位だけを買い取るなり、依頼人に自分以外の冒険者が討伐したことを報告して終わりにするなりといった形で柔軟な対応が取られ、揉め事になることはそう多くはない。


 ただし、そんな偶々も続けば他の冒険者達から敬遠されるのは当然の事なので、ベテラン冒険者ともなれば、自身が受ける依頼に加え、これから自分が向かう場所の周辺で他の冒険者が受けている依頼も確認しておくのが一般的となっているのだ。

 また、魔窟以外の冒険者達にとっては、数少ない魔窟の冒険者達がどのエリアに遠征に出ているかという貴重な情報を得られる場面でもある為、遠征先でばったりと出くわさない為に目を皿のようにして魔窟の冒険者たちの動向をチェックする者も多い。


「とはいえ、二人はまだ依頼を受けたこと自体無いんでしょう? ここはやっぱり何か良い依頼を見つけていきたいんだけど、中々無いわねぇ……」

「マーヤちゃん! これはどう? なんかご飯食べるだけでお金くれるって書いてある」


 そう言ってドルカが掲示板に張られた依頼の一枚をマヤリスに向かって指さして見せたのだが、マヤリスは一瞥すらせずに即答する。


「やめておきなさい。二人ともまだ人間でいたいでしょう?」

「ドルカ、それ前エリスさんも教えてくれたマジでヤバい依頼だ。見なかったことにして別の依頼探してくれ」


 『創作料理の味見依頼』と『魔物素材の納品依頼』。魔窟のギルドにおいて常に依頼が張り続けてある、所謂常駐以来の一つである。それぞれの依頼だけを見れば特に問題は無いように思えるが、これらの依頼が決して触れてはいけない依頼とされているのは、その両方の依頼主が魔窟内のレストランのシェフであることが最大の原因である。

 格安、極上の味、そして食べた者の身体を強靭に造り替えるおまけ付きとあって倫理観のへったくれもない一部の冒険者達がどっぷりとハマり込んでいるというそのレストランは、一度その味を知ると抜け出せなくなると評判の人気スポットでもある。

但し、人間向けの回復薬や魔法が効きにくくなるといったデメリットも存在する為、比較的まだまともな神経が残っている者であれば魔窟の冒険者でも避けて通る場所でもある。

 

「えー、この辺の依頼簡単そうなのにすごくお金くれるから良いと思ったんだけどなぁ」

「ドルカちゃん、誰でも出来る簡単なお仕事なのに、それだけお金を払わないと人が集まらないのよ? よく見てごらんなさぁい? その一帯だけ紙が日焼けしてボロボロでしょ? 基本的に何人でも受け入れOKってことでもあるんだけど、それだけ人が集まってないのよ」

「あ、これマーヤちゃんが依頼主になってる!」


 ドルカが見つけたのは、確かにマヤリスが依頼主となっている、『新開発の香水のテスター求む』というシンプルな依頼書だった。他の常駐依頼と同様、日焼けをしており、長期に渡って張りっぱなしであることが伺える。


「マーヤちゃん、これからは私たちがマーヤちゃんの作った香水を使って頑張ればいいんでしょ? この依頼残しておいてへーきなの?」

「いいのよ。私にだって、大切な仲間に使わせて良いものと良くないものの違い位わかっるから」

「それはつまり、本来人に使っていいものじゃないものを試そうとしてるってことなんじゃ……」

「やぁねぇアッシュちゃん。その為の高額報酬なんじゃない」


 やはり魔窟の冒険者達は倫理というものをどこかに捨て去ってきている。思わず身体に震えが走ったアッシュに、よりによってそのタイミングで背後から声をかける者がいた。


「ちょっとぉ~、そんな風に掲示板の前に張り付かれると新しい依頼が貼れないんですけど~!」

「うひゃぁぁあっ!?」

 

 慌てて横に飛びのいたアッシュに目もくれず、声の主は依頼が貼ってある掲示板につかつかと寄っていく。

 いかにも『出来る女』といった風貌のエリスと全く同じ制服を着ているはずなのに、わざと胸元まで開かれたブラウスにギリギリまで丈を詰めたスカート。派手な格好に身を包んだもう一人の魔窟ギルド受付嬢『ドリー』は、思わず叫んでしまってバツの悪そうな顔をしているアッシュをほったらかしにして、あからさまに気怠そうな顔つきのまま、手だけはテキパキと動かして新しい依頼を掲示板に張り出していくのであった。


愛する我が家へ帰ってきました。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

アクセス見る限り、0時投稿だと投稿直後に読んで下さる方がそう多くはなさそうなので、

色々投稿時間を変えてみようかなと思います。


次話の投稿は明日7時頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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