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第四話 アホの子号泣

「うわーん! ぶえぇーん! アッシュ君は悪くないのにっ! すごい人なのにっ! うわーん!」

「……って訳で、魔窟まで辿り着いた瞬間からこの調子で泣き止んでくれないんですよ」

「なる程ねぇ、それでドルカちゃん泣いちゃったの」


 アッシュの手を引いたままギルド本部を後にしたドルカは、そのまま一言も発することなく、ずかずかと一直線に魔窟に向かって歩き出した。

 本部の冒険者たちの、実際のアッシュ達を知ろうともしない頑なな態度に圧倒され頭が真っ白になってしまったアッシュであったが、アッシュよりも先に感情を露わにして怒ってくれたドルカのおかげで、ギルドを出て数分経った頃には頭も冷え、礼を言いながら今もなお手を引きながら前を行くドルカに、もう大丈夫だから少しゆっくり歩こうと伝えたのだが一向にドルカは歩みを緩めることは無かった。

 結局そのまま魔窟とそれ以外のエリアを隔てている唯一の通りを越え、魔窟に辿り着いた瞬間にドルカはピタッと足を止め、大声を上げて泣き始めたのである。


「もう大丈夫だって言ってるのに全然止まってくれないし、止まったと思ったら泣き出すしでどうしようもなくってさ。ちょうど近くにマスターの店があった、っていうかまだマスターの店とギルド位しか知らないし、ドルカが落ち着くまで休憩させてもらおうと思って」


 それに、もう一つアッシュを困らせていたのが、ギルドを出てから今に至るまでずっと、ドルカが全くアッシュの方を向いてくれないことであった。

 たった二日とはいえドルカと行動を共にしていたアッシュからすると、こんなに泣きじゃくる程悲しいなら、べそをかきながらアッシュに抱き着いて落ち着くまで離れなくなってもおかしくないと思っていたし、自分の為にここまで泣いて怒ってくれたドルカに対し、それでまたいつも通りにこにこへらへらしているドルカに戻ってくれるなら泣き止むまで引っ付かれてもいいとさえ思っていた。

 というのも、アッシュの中でのドルカは、村に居た頃に良く面倒を見ていた甘えん坊の妹たちと重なる部分が大きく(むしろドルカよりずっと小さな妹たちの方が聞き分けも良かったのだが)、危なっかしくてほっとけないという位置づけにすっかり落ち着いてしまったからなのだが。一人の異性としての意識が皆無なのが悲しい所である。


「こんな感じでさっきから全然俺の方向いてもくれなくって。俺に対しても何か怒ってるのかと思ったけど、こうしてマスターの店に行こうって声をかけたら素直に着いてきてはくれるし」

「アッシュちゃんが不思議に思う気持ちもわからなくはないけど、ちょっと減点ね。ドルカちゃんは健気ねー。アタシはドルカちゃんの気持ちわかるわよ? こんなに頑張ったのにね? さあ、こっちにいらっしゃいな」


 そう優しくドルカに話しかけたマスターが両手を広げて見せると、ドルカはアッシュから顔を背けたまま、とことことマスターの方に歩いていき、そのままがっしりと抱き着いたかと思うや否や今まで以上に激しく大きな声で泣き出した。

 ドルカを優しく抱きとめ背中をぽんぽんと叩いて見せるマスターはこの上なく優しい表情を浮かべていたが、いかんせん顔がゴブリンにそっくりでどぎついピンクのエプロンを身に纏った筋骨隆々のオカマである。絵面としては中々酷いものがあった。

 

「おおよしよし。頑張ったわね。……アッシュちゃん、ここはアタシに任せてちょっと向こうに行っててもらえるかしら? 丁度いいからダグラスにでもこれからどうしたらいいか相談してくるといいわ」

「ありがとうマスター。それじゃドルカ、俺はちょっと向こうでダグラスにこれからのこと相談してくるから。また落ち着いたら話そう。な?」


 返事こそなかったが、アッシュが話しかけている間は声を上げて泣くのを我慢していた所を見ると、話自体は聞いてくれているのだろう。こくりと頷いて見せたマスターに同じく軽く頷いて後は頼みます、と合図を送りつつ、なんとなくもやもやとした気持ちを抱えつつ、アッシュはダグラスが寛いでいるテーブルに向かった。


「おお、アッシュ殿。ドルカ嬢はもう平気そうであるか?」

「ええ、マスターが後は任せてお前はダグラスさんに何があったか話を聞いてもらって来いって」

「吾輩もさっきから気になっていたのである。一昨日息を切らしながら飛び込んできた少年少女が今日は声を上げて泣きじゃくりながら飛び込んでくるなんて、一体何があったのである?」


 早速ギルド本部で何があったかをダグラスに話そうとしていたアッシュであったが、視界の端でアッシュから隠れるようにこそこそと移動する人影を見つけた。気になって隠れようとしている場所に回り込んでみると、それは本来この場所にいるはずの無い人物であった。


「実は……。ってあれ? あなたは一昨日の……。確かダグラスを捕まえようとしてディアボロスとの戦いに巻き込まれちゃった、ガンミさんですよね? 普通の冒険者のガンミさんが、なんでここに……?」

「あ、見つかっちゃったか……。あ、あのね! 別にやましいことがあって隠れた訳じゃないのよ? ただちょっとこの場にいる所を見つかりたくなかったというかなんというか……」

「特に害は無さそうだった故に放っておいたのだが、昨日も吾輩のことを追いかけて影から見ていたのである。言われてみればそうか、一昨日吾輩たちの戦いに巻き込んでしまった冒険者であったか」

 

 あっさり見つかってしまったというか、ダグラスにはこっそり追いかけていたことがとっくにバレていたと知ってばつの悪そうな顔で立ち上がったガンミは、すみません、と頭を下げながらアッシュの方に向き直った。


「いや、まあ私のことはいいからさ? 私も二人がここに入って来るところ見てたから、何かあったのかなぁって心配してたのさ。もし良かったら私も話に入れてもらえないかしら?」


 そう言うや否やアッシュの背中をぐいぐいと押してダグラスの座るテーブルの正面に無理やり座らせたガンミは、ちゃっかり別のテーブルから椅子を拝借して、二人の間に座ってしまった。


「ダグラスが昨日から気付いてほっといたってことは悪意があるってわけじゃあないんでしょうし、まあ、いいですけど……。実は……」


 アッシュがかくかくしかじかと事のあらましを伝えると、ダグラスは顔どころか頭のてっぺんからテーブル越しに見える腰から上まで全てを真っ赤にして怒り出した。


「あの本部の冒険者共め……! 吾輩たちならいざ知らず、アッシュ殿もドルカ嬢もまだ何も知らない新人だというのに『魔窟の冒険者』というだけで色眼鏡で見おってっ! これが曲がりなりにも100年以上も前から街に潜り込み尻尾すら掴ませずに息を潜めていた魔族を炙り出し追い出すことに成功した英雄に対する仕打ちであるかっ!」

「ダグラスの旦那、話は聞こえたぜ! おいみんな! 我らがリーダーが認めた漢をバカにされて俺達剥き出しの筋肉愛好家ネイキッドマッスルラバーが黙ってられるかよ?」

「ここで黙っていては漢が廃るっ!」

「ギルド本部、許してなるものかっ!」

「戦争だ、戦争の幕開けだぁっ!」

「うぉぉぉおおぉぉぉっ!」


 そう言って次々と立ち上がる半裸の筋骨隆々の男達。ダグラス達が本気になれば、ギルド本部を壊滅させかねない。ガンミが顔面蒼白でおろおろする中、アッシュは血相を変えてダグラス達を宥めるのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は明日24時の予定です。

よろしくお願いします。

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