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第三話 友達

「あ、あいつらだっ! 俺はあいつらが操る大根に襲われたんだっ!」

「ショイサナに着いたその日の朝に迷いもなく魔窟に足を踏み入れ、ダグラスを引き連れて市場を荒らしまわった後マフィアをぶっ潰して四天王を撃退したっていうあの魔窟のルーキーだ!」

「四天王を倒すっていう名目で街中に使役する大根を放ってその実街を支配しようと画策したっていうあの?」

「俺は多額の借金を抱えることでその負の思いをパワーに変える特殊能力者だって聞いたぜ!」

「あいつらの使役する大根、めちゃくちゃ旨かったんだよなぁ……」

 

――この空気、もしかして俺達が来たせい?

 こちらの様子を伺いながらひそひそと話している冒険者達は、明らかにアッシュの事を警戒し、アッシュが一歩歩くごとにその進行方向にいた冒険者達がサッと割れるように道を開けていく。


「すごーい! 私たちが歩くとサッ! って人が避けてくー! ほらほら見てアッシュ君! おもしろーい!」

「あっコラドルカ! 面白がって適当に歩き回るんじゃないっ! 威嚇してるみたいになってるから!」


 そんなドルカの無駄に繰り返された威嚇行為の途中、アッシュはその人の群れの中に見知った顔を見つけた。


「あの緑っぽい髪の色、間違いない! キース! キースだろ?」

「……ヒッ! あ、アッシュ……さん」


 完全アウェー感が漂うギルドの中で見つけた、ほぼ唯一と言っていい知り合いの姿を前にして、アッシュはたった今抱いていた違和感を忘れ思わず一方的に詰め寄り声をかける。


「お? アッシュ君の知り合いー?」

「そうなんだよドルカ! って言っても前からの知り合いって訳じゃなくて、この街に来るまでの乗合馬車で一緒になったんだ! 歳も近いし冒険者になるっていう目的も一緒だったしで馬車に乗ってる間ずっと意気投合して話しながらここまでやってきたんだよ。なっ、キース? アッシュさんだなんてそんな寂しいこと言うなよ! パーティ組んで一緒に冒険しようって言い合ってたくらいじゃねぇか!」


 アッシュが以前一緒に冒険する仲間になるかもしれないと言っていた相手だと聞いて、ドルカも目の前の少年に興味津々と言った様子で近寄っていく。しかし、肝心のキースは未だにうつ向いたままで、何やらぼそぼそ呟いている様子ではあるが何を言っているか聞き取れない。


「……いよ」

「なー? どうしたんだキース! 実は俺キースと別れたあと成り行きでドルカっていうこのバカと出会って魔窟っていうヤバい奴しかいないエリアに迷い込んじゃってさ! お前と一緒にパーティ組んで冒険しようっていう約束、忘れた訳じゃなかったんだ! ここで見つけられてよかった! 本部だとどのあたりに掲示板があるのか教えてくれないか? それでもしよかったらこのまま一緒に俺達と……」


 そのアッシュの言葉は、キッと顔を上げたキースによって遮られ、最後まで発せられることはなかった。


「ひどいよアッシュ! 君はそうやって初心者の振りをして僕を騙してからかってたんだろ!? 何が『まだ魔物とはほとんど戦ったことがない』『ショイサナに来るのは初めてで緊張する』だよ! 君はそこのドルカって子と一緒に恐ろしくて頭のおかしい冒険者達であふれ返ってる魔窟って場所を拠点に選んだんだろっ!? 初日から魔窟の冒険者と対等に話してマフィアを潰して四天王っていうとてつもない魔族まで撃退したって噂は僕だって知ってるんだ! 君は……本当はスゴい人なのに何も知らないふりをして話を合わせて、実はその影ですっかり騙されてしまった僕のことを笑ってたんだろ!?」


 涙ぐみ、拳を震わせながら振り絞る様にして伝えられたキースの叫びは、アッシュにとって余りにも重い衝撃を与えることとなった。昨日は一日中ずっと魔窟の中で過ごしていた為、魔窟の外でアッシュ達がどういった形で噂されているかや、どういう風に見えているかということについては全く考えることすら出来ていなかった。

 何より一番辛かったのは、あんなにも仲良く話していた、今まで商人や職人への弟子入りを繰り返してあちこち移り住んでいたアッシュにとっては初めてと言っていい同世代の同性の友人から、何か恐ろしいものを見る目で見られてしまったことだった。


「ち、ちがっ! 俺はそんなつもりじゃなくてっ! それに一昨日のことも成り行きって言うか、ほんと偶然そういうことになっちゃっただけで……」

「帰れよっ! 魔窟の冒険者は魔窟に帰れよっ! わざわざここまで初心者向けの依頼を選びに来なくたって、四天王と戦えるようなレベルの君ならどんな依頼だってこなせるんだろう?」


 キースのその叫びは余りにも悲痛で、だからこそアッシュの心に突き刺さった。


「だから俺はっ! 頼むよキース! 話を聞いてくれっ!」

「おいお前、アッシュで間違いねぇな?」


 なんとかキースにわかってもらおうと詰め寄るアッシュを制止し、話に割り込んだのは、いかにもベテランという風格を持った立派な体格の戦士風の男だった。


「『借金バーサーカー』のアッシュに『混沌の大根使いカオスラディッシュマスター』ドルカ。お前らのことはもうショイサナ中の冒険者が魔窟の住人だと知っている。そこにいるキースってガキは、てめぇらと違って正真正銘の田舎から出てきたばかりのかわいいルーキーなんだわ。いくら相手があの魔窟の冒険者だとしても、ルーキーに手を出されるとあっちゃ俺らも黙っちゃいねぇ。堂々と二人してギルド本部までやってくるとは相当腕に自信もあるようだが、俺らだってただじゃやられねぇぞ……? さあ、わかったらとっととここから出て行きやがれっ!」


 そう言い放った戦士風の男は、腰に下げた剣に手をかけ油断なくアッシュ達を睨み付けている。周りで見守る冒険者たちからも、ガチャガチャとそれぞれの武装に手をかける音が聞こえ、いつでも戦闘を開始できるよう身構えている様子が伝わって来る。

 アッシュは、あまりに突然な出来事を前に頭が真っ白になり、がくがくと震えながらも何とか開いた口は『違う』という一言すら絞り出すことも出来ず、ただ荒い息が漏れるひゅーひゅーという音をさせただけだった。

 言われた言葉がぐるぐると駆け巡り、頭の中で必死に考えをまとめようとしてもまとめた端からぽろぽろと零れ落ちていき、言葉にならない。

 

――違う! 違うんだよ! 俺は別に危害を加えるつもりなんかじゃないんだ! ただの新人冒険者で、受けられる依頼が無くって、だから来ただけなんだ。


 どうすればいい、どうすればわかってもらえる? 俺はどうすれば、どうすれば、どうすれば……。


「違うっ!」


 凍り付いた時を溶かし、今にも崩れ落ちそうだったアッシュを我に返したのは、ドルカの悲痛な叫びだった。


「違うもん! アッシュ君も、私も、そんなんじゃないもん! アッシュ君は私を助けてくれたスゴい人だけど、悪い人じゃない! いっぱい痛い思いしたのに、それでも何回でも笑って私を庇ってくれた、すごい人なんだもん! ……もう行こうよアッシュ君。大丈夫、私がついてるから。……ねっ?」


 それは、いつもアホ丸出しの顔で笑っているか何かを見つけて目を輝かせている所しか知らなかったアッシュにとって、初めて見るドルカが本気で怒った顔であり、悲しそうな顔であった。

 自分だって今にも涙が零れそうな癖に、無理やり作った笑顔でにっこりと微笑んで見せたドルカは、それ以上は何も言わず、ぐしぐしと鼻をすする音だけを残し、アッシュの手を引きながら、それでも堂々とした足取りでギルドを出ていくのだった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次話の投稿は明日24時頃の予定です。


よろしくお願い致します。


私事ですが、本日26日に行われる某ゲームのオンライン上での公式大会に出場しますw

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