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第二話 長さがわからない火の付いた導火線を持たされているようなものです

第二章第一話の前に、第一章時点の登場人物のまとめを割り込みで更新しました。

見落としやすいかと思いますので、お気を付けください。

「ダメです。死にたいんですか?」


 短いながらも艶のある黒髪をピンで止め、赤で縁取られた四角い眼鏡をかけた魔窟ギルドの受付嬢のエリスは、ドルカが持ってきた依頼を一瞥するや否や、一瞬でばっさりと切り捨て、ドルカ達が依頼を受けることを却下した。


「ですよねー。ほんと忙しい中迷惑ばかりかけてすいませんでした。ほらっ! ドルカも謝れっ!」


 こうなることが予想出来ていたアッシュは、すかさずドルカの頭に手を置き、無理やり頭を下げさせる。


「ごめんなさい……。ちぇっ! いけると思ったんだけどなぁ」

「そもそもなんでこんな依頼を受けようと思ったんですか? ……おふざけで持ってきたのであれば、ちょっと向こうでお話をしなければ」


 反省の色が全く見えなかったドルカの謝り方を見て、エリスがわざとらしく脅しをかけて見せると不貞腐れていたドルカの表情は一瞬で蒼白となり、頭に置かれていたアッシュの手に縋りつきつつ、アッシュを盾にエリスから隠れようとする。


「ひぃぃっ! アッシュ君助けてっ! もう正座は嫌っ!」

「あっコラお前俺を盾にするなって! ……すいませんエリスさん。実は、いくら掲示板を見ても俺達がこなせそうな依頼が見当たらなくて……」


 仕方がないのでドルカの代わりになぜこんな無茶な依頼を受けようとしたのかを説明するアッシュに、エリスはようやく納得が行ったという表情を見せた。


「それでドルカさんが適当に選んだ依頼を受けてしまおうと走ってきた、ということですね。……事情はわかりました。アッシュさん、このギルドで依頼を探すのは諦めて下さい」


 余りにも冷徹なその一言に、アッシュの表情もまた一瞬でドルカに負けないくらいに蒼白となる。二人並んで蒼白な表情を浮かべているその様子は、傍から見る分には非常に面白いものであっただろう。


「ええぇっ! エリスさんも知ってるでしょ? 俺達100万の借金があってこのままじゃヤバいんだって! 依頼を受けてさっさと借金を返さなきゃ次あのディアボロスが街を襲撃しに来たら今度こそ死んじゃうよぉっ!」


 そうなのである。アッシュがこうまでも必死に借金を返そうとしているのには理由があった。

それは、アッシュ達の借金を一時的に冒険者ギルドが肩代わりし、利子や期限といった制約から解放させる代わりに、ギルドが指定した依頼を冒険者達に強制指名できるというシステムのせいだった。

 本来であれば、誰も受けたがらない長期に渡って拘束されてしまう依頼や苦労の割に儲からないけれども誰かが引き受けてくれなければ困るといった不人気な依頼を強制的に受けさせられ、その報酬から借金を減らしていくというだけのものなのだが、アッシュもドルカも冒険者としてはまだ何の経験も積んでいない新人である。当然不人気だろうが何だろうが、簡単に任せられる依頼など存在しない。


 しかし、アッシュ達には一つだけ、他の誰にも負けない素晴らしい実績があった。そう、街に入り込んだ四天王ディアボロスの撃退である。

 アッシュが街中に放ったマンドラ大根による騒動に乗じて逃げ出したディアボロスであったが、四天王を名乗り魔王復活を企み、勇者やその仲間たちの子孫を狙っているという情報は既にショイサナの冒険者達全員が知ることとなっている。

 そもそもこのショイサナは魔族たちの本拠地だった土地を初代勇者が魔王封印と共に開拓したという背景もあり、いつディアボロスがまたやってきてこの街を襲うかわからない状況なのである。

当然、冒険者ギルド本部はいつディアボロスが街を襲ったとしても対応できるよう備えておく必要があるわけで……。


「もう一度ディアボロスがこの街を襲いに来たら、十中八九借金を理由に俺達に強制依頼としてディアボロス撃退が命じられるはずって教えてくれたの、エリスさんじゃないですかぁっ!」


――ディアボロスが再度街を襲いに来るまでに100万ペロを稼ぎ切り、指名依頼を断れるようにしておかないと死ぬ。


 恐怖と絶望に染まったアッシュの顔は、汗と涙と鼻水によってそれはもうぐちゃぐちゃであった。


「誤解を招くような言い方をしてしまってすみませんでした。私が言いたかったのは、魔窟以外の冒険者ギルドで依頼を探されたら? ということです」


 恐怖と絶望と汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったアッシュが何とか落ち着きを取り戻した所でエリスから言われたのは、そんな説明だった。

 なお、ドルカについては泣き出したアッシュを見て錯乱状態になり色々血迷った挙句にアッシュを抱きしめながら大声で子守唄を唄うという謎行動に出た。宥める要素など皆無のドルカ決死の子守歌は、一生懸命誤解であることを伝えようとするエリスの声をかき消し、アッシュが落ち着くまで余計に時間がかかることとなった。結果としてドルカはフルに一曲分歌い上げるまでアッシュを抱きしめることに成功し、『やり遂げた!』という満足げな表情を浮かべながら今もアッシュの腰のあたりに抱き着きながら長椅子の上でだらしなくゴロゴロしている。



「魔窟以外の冒険者ギルドで、ですか? 依頼の内容ってどのギルドでも一緒なんじゃ……」

「それはその通りなのですが……。ほら、最初に説明したことを覚えてませんか? ショイサナには4つのギルドがあって、依頼人が頼みに来たギルドにまずその詳細が張り出されてから、他のギルドに情報が共有されて、割の良い依頼は他のギルドに情報が回る前に取られてしまうって」


 通常であれば、冒険者ギルドはその街に一つしかないため、依頼を探しに来た冒険者と依頼人は必然的にそのギルド内で顔を合わせることになる。しかし、その規模の大きさから冒険者ギルドが4つも存在するショイサナでは、依頼人は一番近場のギルドに依頼を投げに行くだけで、4つのギルド全てに依頼の情報を掲示することが出来る。冒険者の街ショイサナならではの独自のシステムであった。


「そうだっけー?」

「そういえばそんな話を聞いた気が……。あの日は色々なことがありすぎてすっかり忘れてました」

「うふふ、まああれだけのことが立て続けに起きたらしょうがないですよ。……それで、アッシュさん達にもこなせるような依頼、ですよね? 初心者でもこなせるような依頼なら、ギルド本部に行ってみるといいですよ。本部は街の中心部から西、入り口の方に向かって歩いていれば見つかると思います。あんなトラブルが無ければお二人の冒険者登録だって本部で行っていたはずですしね」


――そんなわけで。


 善は急げということで、アッシュとドルカの二人はショイサナが誇る冒険者ギルド本部にやってきた。


「おーっ! でっ……かーい!」

「すげー! 流石本部っていうだけあって、魔窟のギルドの2倍は広いんじゃないかこの建物! ここなら確かに俺達でもなんとかこなせる依頼が見つかる気がする! さあドルカ! さっさと中に入ろうぜ!」

「あっずるーい! 一緒に! 一緒にせーので入ろうよー!」


 アッシュの胸は期待に膨らんでいた。昨日そして一昨日とたった二日のことのはずなのに、すっかり魔窟の空気に馴染みかけている自分が怖かった。しかし今日から違う。元通り新人冒険者として普通のギルドを拠点に普通の冒険者として今度こそ第一歩を踏み出すのだ。


「こーんにーちはー! 依頼を探しに来ましたー!」


 ギルド本部に足を踏み入れたアッシュが一番最初に感じたことは、欲望と狂気が渦巻いていた魔窟ギルドのギラギラとした活気とは異なる、まともな野望に燃える冒険者達の活気……ではなかった。ロビー中が妙に静まり返る中、目は合わないのに視線だけをひしひしと感じとったアッシュは、その異様な空気に何かあったのかと辺りを伺うのであった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


次話の投稿は明日24時の予定です。

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