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第一話 切実な問題

本日より第二章の投稿を開始します!

ブクマや評価を入れて待っていてくださった方、本当にありがとうございました!


※8月24日 修正前の文章を投稿していたことに気付いたため、誤字脱字など修正しました。

 ひとつ前に第一章時点の登場人物のまとめを挿入しました。

 各キャラクターの名前や性格を忘れてしまった!という方は是非そちらをご覧ください。

――冒険者の集う都市、ショイサナ。

 世界中から冒険者達が集まるその街には、ありとあらゆる依頼が集まり、いくら冒険者が増えてもその依頼は尽きることがないと言われている……。


「ない! ないっ! どこにもないっ!」

「えー? どうしたのアッシュ君? 何を探してるのー?」


 必死な形相で壁一面に張られた紙片を舐めまわすかのように隅から隅まで読み上げていくアッシュを横目に、ドルカは今日も明るく楽しく元気なアホ面でアッシュを眺めてはにやにやしていた。


「依頼だよ依頼っ! 見ればわかるだろっ!」

「やだなぁアッシュ君。私でも知ってるよー? そこの壁一面に張ってある紙は全部依頼なんでしょ? いっぱいあるじゃん!」

「バカかお前はっ! いやバカなのは知ってたけどそこまでバカかお前はっ! 俺が探してるのは俺達でも受けられそうなレベルの低い依頼なんだよっ! こんだけたくさん張り出されてても俺達がちゃんとこなせそうなレベルの依頼が無いからこうして必死になって探してるんじゃねぇか!」


 こんなことも知らなかったの? と言わんばかりのドヤ顔でアッシュに言い放つドルカに怒りが爆発したアッシュは、ドルカのほっぺたを両手でつねり、引っ張り上げながら叫んだ。


「いひゃいいひゃい! アッシュ君いひゃいっへば! ……もう、アッシュ君ってば好きな子にいたずらしたくなるタイプなんだから!」

「あ?」


 やっと放されたばかりのほっぺたに再びアッシュの両手が伸びるのを見て、ドルカは慌てて自分も依頼探しに加わることにした。


「いやー! もうほっぺたはやめてー! ほら、大丈夫! 何とかなるって私も依頼探すからっ! あ、これなんかどう? 『街の北の山に灼熱龍の目撃情報アリ! 討伐報酬3億ペロ』だって! これ受けたら私たち億万長者だよー!」

「倒せるかっ! 俺たちまだ冒険者になって3日目だぞ? 装備を揃える金すらなくて困ってる奴が何をどうやったら最上位のドラゴンに勝てるんだよっ! ……やっぱ最初から依頼を探すのが現実的じゃなかったのかなぁ。でも依頼報酬無しで魔物の討伐報酬と素材買取だけで何とかしようとしたら一日何体魔物と戦えばいいやらわかったもんじゃないしなぁ……」

「やだなぁアッシュ君。私たち冒険者1日目で四天王と戦ったすごーい冒険者だよ? きっと大丈夫!」

「大丈夫なわけないだろ! あれは本当に運が良かっただけなんだから……」


 そう、アッシュとドルカの二人は、冒険者になってまだ3日目という、誰がどう見てもまごうこと無きルーキーである。しかし、凄まじいトラブル体質であるドルカのせいでその評価はとんでもないことになってしまっている。

 ショイサナに着き、冒険者になったその日の内に賭場を取り仕切るマフィアを壊滅させ、その頭として街に紛れ込んでいた500年前の魔王軍四天王ディアボロスと対峙し、Sランク冒険者ダグラスの力を借りながら果敢に戦い惜しくも取り逃がしてしまった。そんな恐るべき実力を秘めた期待の超大型新人として、アッシュ達はたった3日の内に街中に知られる超有名人に仕立て上げられてしまっていたのだ。

 それと同時に、その実情を知る者からは『初日から魔窟に入り込み魔窟の冒険者相手に普通に会話が成立するどころか顎で使う所を見た』『大根を使って街を征服するつもりだった』『歩く大根を街中に放ち高笑いをしながら大根に乗って街を練り歩くその姿はどっちが悪魔かわからなかった』とたった一日で警戒すべき魔窟の冒険者達の仲間入りを果たした危険人物だとみなされ、恐れられることとなってしまっている。


「なんでこんなことになっちまったんだ、俺……」


 全身から哀愁を漂わせるアッシュは、右手に嵌められた不思議な紋様の浮かぶ腕輪をぼんやりと眺めてみる。

そもそも一連の面倒ごとの始まりは、実質ドルカによってこの腕輪がアッシュの右腕に嵌められたことから始まったと言っても過言ではない。魔窟の頭がイカれた職人が作ったらしい、ドルカの右腕に嵌められた腕輪と対になっているこの腕輪は、本来双子でさえも微妙に異なるはずの魔力の波長を全く同じ波長に同期させるという効果を持っていた。 


 同じ腕輪を予め装備した状態で、対象の腕に対となる腕輪を嵌めさせる。そうすることで、腕輪を嵌められた側の魔力の波長を嵌めさせた側の魔力の波長に完全に同期させる。

 魔力の波長が完全に同一となることで、ドルカとアッシュは、ドルカがアッシュに触れるだけで生命力と魔力を好きなだけ渡せるようになるという、魔術師ギルドが知ったら卒倒しそうな特殊能力を得ることになったのだ。

 それだけならいい。先日の戦いの中でもアッシュがダメージを負う度に、触れるだけでどんな酷い怪我も治すことができた。アッシュ達がこうして無事生き残れたのもこの腕輪の存在があったからこそだと言えるくらいに役立ってくれた。

 おまけに、何故だかわからないがドルカはほぼ無尽蔵と言っても差し支えの無い生命力と魔力を秘めた存在らしく、アッシュの命が数回失われていたであろう程の生命力や魔力を受け渡してなおドルカには微塵の影響も見られない。


 問題は、本来一人一人完全に異なっているはずの魔力の波長は、様々な所で個人認証の為に利用されているということにある。

 冒険者ギルドもまたその最たるものの一つであり、冒険者を名乗る者は全て自身の魔力をギルドに登録し、その情報を全世界に共有することで冒険者カードを手にすることになる。ところが、アッシュとドルカの魔力の波長は腕輪の効果で完全に同じとなってしまっている。結果として、ドルカとアッシュはギルドのデータベース上では完全に同一人物とみなされてしまい、冒険者としての記録上の実績も、報酬もランクも、そして『借金』も、全てドルカとアッシュは共有することになってしまったのだ。


「そもそも、お前が作った借金を俺が肩代わりする羽目になったことから始まってるんだからな! 100万だぞ100万! 3日前までは俺には50万ペロの貯金があったんだぞ? それが気が付いたら100万の借金に変わってるだなんて悪夢にも程がある! 本当は昨日からでも依頼を探さなきゃいけなかったのに、一日中ダグラス達に捕まって宴会で何もできなかったじゃないか! 今日こそは! 今日こそは仕事を見つけないとまずいんだよっ!」

「じゃあやっぱりこの依頼、頑張ってやってみようよっ! エーリースーさーん! 私たちこの依頼受けまーす!」

「だからドラゴンの討伐依頼はやめろぉっ!」


 まだ他の自堕落な冒険者達は眠りについているような早朝。アッシュ達とあとは職員しかいないのではないかという程がらんとした魔窟ギルド内に、アッシュの叫びが響き渡るのだった。

次話の投稿は明日0時頃の予定です。

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