第四十三話 大根共が夢の跡
昨晩投稿したつもりが出来てませんでした……。
申し訳ないです……。
アッシュが街中に放つことになった無数の大根達。冒険者達に張り付き動きを止めるよう指示を受けた大根達は、逃げまどう冒険者を追いかけ町中に広がっていった。地下水路や下水道に逃げ込んだ冒険者を追いかけていった個体がその場で根を張り凄まじい勢いで繁殖を開始。上下水道が共に完全に機能を停止した時点で冒険者ギルド本部から緊急事態に伴う戒厳令が発令。一般市民は外に出ることを禁じられ、直ちに屋内に避難するよう町中に伝令が走らされた。
しかし、そこは魔窟の冒険者達が起こす騒動にすっかり慣れてしまっているショイサナ市民。発令等なんのそのといった様子でこれを無視し、その辺にうろちょろする大根を捕えては今晩の夕食にしようと画策する図が町中で散見、町中で冒険者を追う大根、大根を追う市民の三つ巴の争いが繰り広げられたという。
そして、それらの騒動を一際大きな大根の背? に乗った少年少女が高笑いをしながら眺め、練り歩く姿が多数の市民、冒険者達から報告されたとのことである。
『……それで、最後にはその一際大きく育った個体がその他の個体を連れて街の外に去っていった、と?』
「その通りです、マスター。」
『で、その騒動に乗じて捉えられていたはずのマフィアの元締めだった魔族、自称四天王は逃亡、その配下共も魔族だったと思われる連中は同時に姿を消し、事実上この150年余りこの街を悩ませていたマフィアが壊滅、と』
「その通りです、マスター。」
『これ、どう処理すりゃあいいんだよっ! そのマンドラ大根とやらを街中に放った張本人は魔族と戦っただけでなく、戦闘に巻き込まれた冒険者共を治療までしてやがるんだろ?』
「それに加え、その後大根達が傷ついた冒険者達を病院まで運びこんだという目撃情報も出ております」
『上下水道が大根であふれ返って一時的にマヒしたとは言えそれもでけぇ大根がちいせぇのを引き連れるようにして街を出て行ったことで一挙解決。下水道に至っては大根共が暴れまわった通った所だけ完璧に浄化されてぴっかぴか。育った大根を食って見りゃ毒があるどころか味は絶品栄養満点でスラムの食糧問題も一挙解決ってか。問題は冒険者共に植え付けられたトラウマと騒動でぶっ壊れた街並みの賠償。ああもう色々なことが起き過ぎてわけわかんねぇよっ!』
「以上が調査報告となりますので、後の処遇に関しましてはお願いいたします。……魔窟ギルドの受付嬢という立場から言わせて頂きますと、騒動の張本人達は今ギルド中の冒険者達から英雄として祭り上げられておりますので、処遇に納得がいかない場合彼らが暴れる可能性は否定できません。それでは、よろしくお願いいたします。」
『お、おいちょっと待て! 何さらっと最後に一番やべぇ爆弾放り込んできやがるっ! それじゃ下手に厳しい罰を与えちまったら何が起こるかわかんねぇじゃねぇか! おいっ聞いてるのかエリスっ! おいっ返事をしやが』
――ブツッ。
「……というわけで、アッシュさん、ドルカさん。何か言い残したことはありますか?」
「「ありません、エリスさん」」
結局何がどうなったのか、途中からぼんやりとしか記憶が無いアッシュだったが、どうやら町中がひっくり返るような騒動を起こした張本人となってしまったらしい。
気が付くとドルカと二人魔窟ギルドの休憩室に放り込まれていたアッシュは、目を覚ますや否や笑顔のまま怒るという凄技を見せるエリスにまさに取り調べ室といった簡素な部屋に連行され、東方の島国に伝わる咎人が罪状を言い渡される時に強制されるというセーザなる座り方を冷たい石畳の床で命じられ、事情聴取および長きにわたるお説教を受ける羽目になったのだ。
「ドルカさんも最初に比べたら随分お利口さんになりましたねー? 次私の話を聞いていなかったら、こんなものじゃ済みませんからねー?」
「ひっ! あ、アッシュ君、エリスさんが怖いっ! 笑ってるのにゴゴゴゴってなってるよぉ……」
珍しくドルカが委縮している。まあそれもそのはずで、つい今しがたまで受けていたエリスの説教の間、ドルカは気がそれてよそ見をする度にエリスに目ざとく見つけられ、追加の説教を喰らう羽目になっていたのだ。
「……何か言いましたか」
「なんでもない……です。え、エリスさんあのね。アッシュ君も私も別に悪気があったわけじゃなくてね」
夜を明かす程の長い説教の結果、ドルカは敬語を使うことを覚えたらしい。しかし、せっかくのその学習の成果もへたくそな言い訳に使われては褒められるはずもなく、余計にエリスを怒らせる結果になるのであった。
「悪気無しに何をどうしたら『この街を征服してやる!』だなんて発想になるんですかっ!」
「それはだから一日に色んな事が起き過ぎてわけわかんなくなってた所に借金が……」
その発言に関してはドルカではなくアッシュが言ったことであり、ドルカは便乗しただけである。流石に見かねたアッシュがフォローに入ろうとするが、肝心のアッシュにはおぼろげな記憶しか残っていない。
どうやら昨晩のアッシュは借金の額を見て気が触れ、ダグラスを差し置いてディアボロスに勝負を挑んだらしい。しかも逃がしこそしてしまったものの一瞬で動きを封じ圧倒して見せ、それに飽き足らず勢いに任せて街を征服しようとしたというのだから自分で自分を理解できない。
「それはもうわかりましたからっ! ……はぁ。実際の所、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? ここまで大規模だったのは久しぶりですけど、この街ではこれくらいのことで一々動じていたら身がもたないのです」
エリスがこうして怒っているのも、身の丈に合わない危険に身を投じた二人を案じているからという意味合いが大きく、もう二度とこんな無茶をやらないようきつく言い聞かせておく必要があると認識したからであった。
「いや、その割には魔道具の向こうでギルドマスター? がだいぶお困りのようでしたけど……」
「それは、あなた方お二人がよりによって冒険者になった初日にこれだけの騒動を起こしてしまったということと、他の魔窟の冒険者達と違って街にとってプラスの要素もあったということの二重に前例のない自体を目の当たりにして処遇に困っているだけです。処罰と称して魔窟の冒険者達に無理難題を吹っ掛けて私腹を肥やしている薄汚い連中ばっかりなんですから、たまにはああやって頭を抱えていればいいのです」
いい気味だ、とうっすらと笑みを浮かべながら言い切るエリスの表情は、今の今まで怒られていたこともあって、アッシュにもドルカにも、それはそれは恐ろしいものに見えた。
「……ほんと、色々エリスさんも苦労されてるんですね」
「それをわかって頂けるのであれば、もう二度とこんな騒ぎを起こさないで欲しいものです」
「は、はいっ! もう、脅かさなくても十分わかりましたってば……」
「うふふふふ。こうやってまともにお説教を受けてくれる話の通じる方は久しぶりなもので、ついつい言いすぎちゃいましたかね。それじゃあ最後にもう一つだけ」
最後の最後にお説教モードからいつもの柔らかい表情に戻ったエリスは、自分だけ椅子に座り二人を見下ろしながら送り続けていた威圧を解き、ふっと立ち上がったかと思うと、そのまま二人を両手で抱きしめた。
「お二人は冒険者ですから、二度と危険な真似をするなとは言えません。でも、冒険と無謀は違います。あのダグラスでさえずるずると勝負を引き延ばしながら弱点を探ることしか出来なかった悪魔を相手に、身一つで勝負を挑むなどもっての外です。もうしないと約束してください。優れた冒険者は、入念な下準備と日々の鍛錬を決して欠かさないものなのです。……わかって頂けますか?」
そう言いながら、なおもアッシュの背中をきつく抱き寄せるエリスの手は震えていた。
「……はい。ご心配をおかけしてしまい、すみませんでした。それと、ありがとうございます」
「私はアッシュ君を助ける為なら何でもするけど、アッシュ君がダメ! って言ったことはやらないことにする! それでいい?」
ドルカも同じことに気付き、同じことを思ったのだろう。素直に言うことを聞くドルカを見て、アッシュは自分もまたもう身の丈に合わない無茶はしまいと強く決意するのであった。
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