第三十九話 シリアスに見えるだろ? 抱きしめてるの大根なんだぜ
本日二度目の投稿です。
「ほう、まだ本気を出していなかったとでもいうのかね? ならば見せてみるがよいっ! 貴様の本気とやらをな!」
そう嘲りディアボロスが繰り出したのは、火属性によって練り上げられた無数の顕現化の矢である。
「どうだ? 最初から実体として顕現化させた魔法であれば貴様も跳ね返しようがあるまい?」
「笑止! 顕現化であれば殴れば止まるのである! その程度の火矢であれば、精々が皮膚を焦がす程度! 吾輩を止められると思うなっ!」
そう言いつつ、ディアボロス目がけ飛び出すように見せかけたダグラスは、ここで初めてその全てを回避するという手段を取り、横に飛んだ。
「フハハハ、そう言っている割にはそうやって必死で回避しているではないか」
ディアボロスが放った炎の矢は、一番初めにドルカが喰らいかけた氷魔法によってできた氷柱に突き刺さり、氷に突き刺さったというのに濛々と炎を上げ、氷柱を溶かし、水蒸気を上げていく。
「その魔法、わざわざ氷を砕く手間が省けたのである。感謝するのである」
「なんだとっ!? ……グハァッ!」
それは、これまでの長い攻防の中で初めて入ったまともな一撃であった。もわもわと巻き上がる水蒸気に紛れたダグラスは、溶けていく氷柱の一部を根っこから掴み、ディアボロスの水晶目がけ思いっきり投げつけたのであった。
火属性にバリアチェンジし、火魔法を扱った直後に水魔法によって産まれた氷柱をぶつける。歴戦の中で磨き上げられた勘とでも言うべきなのであろうか。ダグラスには何故か攻撃が当たるという確信があった。
そしてその確信通り、ディアボロスは今までとは打って変わって苦悶の表情を浮かべながら真後ろに吹っ飛び、その勢いのままがれきに突っ込んで埋もれてしまった。
「今度こそ一撃入れてやったのである。先ほど吸収して見せたのは灼熱の火魔法、そして今回喰らわせてやったのは貴様が放った水魔法でできた氷柱! 貴様の正体見破ったり! 貴様の弱点は水魔法なのである!」
「おおっ! すげぇっ! あの筋肉ダルママジで弱点を暴いて一撃入れやがった!」
「自分の弱点の魔法まで自在に操るなんて、流石四天王ね……」
「水魔法をあの水晶にぶち当てればいいんだろ? 弱点がわかっちまえば、俺達でも加勢出来るんじゃねぇか!?」
当初は市場でチンピラ相手に暴れまわるダグラスを捕まえに来た結果こうして不幸にも巻き込まれてしまった、魔窟ではない方の「まともな」ショイサナの冒険者達であったが、四天王を名乗る魔族が街の中で正体を現し、ダグラスと戦い始めたのを見て、彼らは果たしてどちらを先に退治すべき対象なのか判断に迷っていた。かたや本気を出すと言って全裸になるどこから見ても変態である魔窟の冒険者ダグラス。対するは明らかに人類に敵意をむき出しにしている四天王を名乗る悪魔ディアボロス。辛うじて言葉による説得が可能なダグラスより、悪魔ディアボロスを優先すべき討伐対象に切り替えた瞬間であった。
崩落時や魔法の余波によって受けた怪我もこれまでの間にちゃっかりアッシュによって治療が完了し、ダグラスの戦いを見守る傍ら、今のうちにディアボロスの氷魔法によって塞がれてしまった地下水路へ繋がる抜け道をなんとか火魔法で溶かして逃げ出そうと画策していた彼らであったが、勝機となれば話は別である。
「今助太刀に行ったら俺も四天王を倒した英雄の仲間入りだ!」
「あの筋肉ダルマには散々苦労させられてんだ! たまには分け前を貰ったって悪くはないよな?」
「どっちにせよ水属性が弱点ってバレちまった時点であの悪魔だってもう水魔法は使わない。つまり筋肉ダルマがいくら魔法を跳ね返した所でもうあいつにはダメージを与えられないんだよ! だから俺達が代わりに水魔法で追い打ちしてやるんだよ!」
「あぁっ! 私もこの流れに乗ってもうちょっと近くであの逞しい身体を見に行こうかしら……。でもはしたない女って思われたくないしそもそも水魔法使えないし……。私ったらどうしたらいいのかしらっ!」
約一名相変わらず剥き出しのダグラスに釘付けになっている女性を除いた3人の冒険者達が、安全地帯から飛び出し我先にと水魔法を練り上げていく。
「貴様等っ! これは吾輩の獲物であるっ! 今までなるべく貴様等の方に魔法が飛ばないように庇いながら戦っていたというのに弱点が分かった瞬間にのこのこ顔を出してきおって!」
「うるせぇっ! 弱点が分かった所で魔法を使えないてめぇが水魔法無しにどうやってこいつに止めを刺すっていうんだよ!」
「ムッ! ……それはその、先ほどと同じように奴が残した氷の塊を使ってぶん殴るのである! 今の一撃でここにあった氷柱は使い果たしてしまったが、ほれ! 貴様らがこそこそ集まっていた部屋の角にまだあれだけ氷の塊があるではないか!」
「てめぇ今まであれだけ苦労して戦ってた相手に明らかに残弾限られた状態で太刀打ちできるのかよ?」
「貴様等を庇うのを止めれば容易いことなのである!」
「すいませんでしたそれは勘弁してくださいマジで死んじまう! ……ってそもそもあの悪魔、がれきの中から出てこねぇな。まさか一撃でノシちまったのか?」
「……すげぇな、冒険者って。あんな悪魔相手でも対等に戦えちまうんだな。なあドルカ、そう思わないか?」
なんとかこれで無事に終わりそうだ、とにわかに活気付いた場を一人ぼんやりと眺めていたアッシュは、視線はダグラス達の方に向けたまま、隣にいるはずのドルカに話しかけた。……しかし、反応が無い。そこで初めて違和感を覚えたアッシュがドルカの姿を探していると、なんとドルカもダグラス達の方に向かってトコトコと歩き出しているではないか。
「なんだよドルカ、お前もダグラスに便乗しようってのか……? それにしては見てる場所がちょっと違うような」
ドルカは、ディアボロスが一撃で沈んでしまったのではないかと恐る恐るがれきの方を覗き込もうとしている冒険者達には目もくれず、ダグラスがディアボロスにぶん投げた氷柱が元々あった辺りの水たまりにしゃがみこんでいる。
「ありがとね、アレクサンダー」
ダグラスがディアボロスに一撃を入れ、歓喜に冒険者達が湧く最中、ドルカが目にしたのはディアボロスの火魔法により溶けだし横たわる大根のアレクサンダーだった。
元々あの氷柱はドルカを仕留める為にディアボロスが放ち、アレクサンダーがドルカを庇った際に生じたもので、アレクサンダーはずっと氷漬けのままその場に封じ込められていたのである。
「他のみんなもね、私を助ける為にばらばらの大根おろしになったり、ほくほくになったりしちゃったの。すごいんだよ、大根おろしになった子達、でっかい悪魔の目に飛び込んでダメージまで与えちゃったんだから」
アレクサンダーをその胸に優しく抱きしめ、物言わぬ大根に向かって語り掛けるドルカに、アッシュはなんて声をかけていいのかわからず、近寄ることも出来ずにいた。
――だからこそ、誰よりも早く、気付くことが出来た。
「……っ! ドルカ! 避けろっ!」
「えっ?」
「フハハハハ! もう遅いわっ!」
それは、ディアボロスの巨体をも埋め尽くしていたがれきの山をそして今まさにその山を覗き込もうとしていた冒険者達をも全て吹き飛ばすほどの勢いを持った風魔法であった。
鋭い矢の形状に顕現化された風魔法は、ビュンッ! とうねりを上げながらドルカに向かって飛んでいき、ドルカを正面から穿ち、アッシュの居る方向まで吹き飛ばすのだった。
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次話の投稿は明日朝7時ごろの予定です。