第三十七話 いわゆるバリアチェンジ的なアレ
本日二度目の投稿です。
話の区切りの関係でちょっと短めですがご了承ください。
「ここまでの屈辱を味合わされた以上、吾輩も本気にならざるを得ないのである」
「屈辱も何も、貴様が勝手に脱いで勝手に恥ずかしがっているだけだろうが! それにたかだか下着が一枚! 胸部に加えて尻で魔法を跳ね返せるようになった位で私に勝てるとでも思ったかっ!」
ディアボロスの叫びはその場にいる全ての者の心中を代弁していた。
「ふっ! 尻で魔法を跳ね返せるようになったということは、単純に手数が倍になったということ。左右の大胸筋に加え、全裸になったことで吾輩はこの通り腰に捻りを加え尻を突き出すだけで貴様に向き合った状態でも尻で魔法を反射することが出来るようになったのである。今までの吾輩と同じだとは思わないで欲しいのである!」
「理解できるかっ! それに、貴様の攻撃が私に通用しないことを忘れたのか?」
「これだけ打ち合っていれば知れたことっ! 貴様の弱点はあからさまに庇っているその水晶である!」
「フハハハハッ! それが分かった所で、貴様如きに触れられるものかっ!」
弱点を見抜かれてなお、ディアボロスには余裕があった。ディアボロスには物理攻撃が通用しない。それは、秘術によってその肉体を魔力そのものへと造り替えてしまったからで、元々魔力と親和性の高い魔族の中で随一の実力者であるディアボロスだからこそ出来る芸当であった。魔力そのものが意思を持った生命体に後天的に変質した魔族、といった方がわかりやすいかも知れない。そんな、魔族の中でも極限にまで辿り着いたディアボロスではあるが、その唯一と言ってもいい弱点がダグラスの指摘した水晶にあった。
そもそも自身の肉体を魔力そのものへと造り替えたディアボロスには、それに伴いいくつかの致命的な弱点が生じることとなった。
その一つ目が、魔力を使い果たせば肉体を維持することが出来ず、即死に至ることである。通常の生物であれば気絶程度で済む魔力の枯渇も、肉体まで魔力化してしまっているディアボロスにとっては文字通り致命的な現象となってしまっている。従って、物理攻撃こそほぼ無効化できるようになりはしたが、純粋な魔法の打ち合いになると自身が魔法を放つ際も、敵の魔法を受ける際も魔力が喪われていくこととなり、継戦能力といった所に致命的な欠陥が生まれてしまったわけである。
次に、辛うじて残さざるを得なかった生物としての実体部分を攻撃されると大ダメージを負ってしまうこと。実は胸元に輝く水晶こそがディアボロスの核とでも言える部分となっており、そこだけは物理攻撃を受けてしまうと大ダメージを負う恐れがある。また、水晶は目や耳などの感覚器の役割も果たしていることから自身の肉体で覆い隠すこともできない。
500年前のディアボロスが四天王にまで上り詰め人類全てを相手取って猛威を振るってこれたのは、これらの弱点に対し500年前の大戦の時点で既に対策が完成されていたことに拠る。
まずディアボロスは、自身を魔力そのものに造り替えた際、空気中に漂う瘴気を自身の魔力として取り込み、瘴気の濃い場所であれば魔力が実質ほぼ無尽蔵となる秘術を編み出した。それによりディアボロスは、当時魔族領であり、今もなお瘴気が至る所から噴出しているショイサナにいる間は、常に魔力を蓄え続けることが可能となり、魔力の容量そのものが魔王に次ぐと称される程に膨れ上がった。結果、単純な魔法の打ち合いにおいも、大軍を相手取り三日三晩魔法を打ち合ったとしてもさしたる影響が無くなる程の力を手にすることになった。
更には、水晶の周りに感覚器を阻害しない程度の薄い膜状の顕現化を常時発動することで、ほとんどの物理攻撃を無効化できるだけの防御力を手にすることに成功した。人間で言えば、鍛え上げられた筋肉と更にそれを覆う分厚い金属鎧越しに骨を砕くだけの威力の攻撃を受けて初めてまともにダメージが入るといった状態である。更に、ディアボロス自身も自身の弱点を熟知しており、生半可な戦士や武闘家が相手であれば何人がかりであろうと魔法を使うことなく対応できるレベルに物理面の攻防も極めている。
即ち、よほどのことが無い限り物理攻撃によってまともにダメージを受けることはなく、それは今もなお凄まじい勢いで猛攻を重ねているダグラスをしても優位は揺るがない。
体術に限って言えば、仇敵であるドルカを差し置いてでもダグラスに対処せざるを得ないレベルでダグラスが優位であり、ディアボロスは内心舌を巻いていた。しかし、ディアボロスの真に恐るべき所は、体術に加え魔術も恐るべき腕であり、手数では圧倒的にダグラスを上回っているという点にあった。
「500年前、勇者以外にも私の弱点を見抜くものは数多くいた。しかし、それを知ってなお私を止められる者はいなかった!貴様が対峙しているこのディアボロスは、勇者やその仲間共が束になってかかってようやく倒せた相手と知れっ!」
そう言い放ち、再びダグラスに対し魔法を放つディアボロスの口角は、醜く歪んでいた。
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次話の投稿は明日7時の予定です。