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第三十三話 ディ……

本日二度目の投稿です。

――ミシミシミシッ!


 どす黒い瘴気が部屋に広がると同時に、地下にも関わらず部屋中に鈍い振動が走り、天井が嫌な音を立てて軋み、埃が舞う。鈍い振動が走り続ける中、闇よりも濃くどす黒い瘴気に包まれていた身体から瘴気が散っていき、その肉体が姿を現していく。


「……この姿になるのも実に500年振りだ。矮小なヒトの身体に入り込み力を蓄えながら200年。裏の世界を牛耳ることに成功して約80年といった所か。平和ボケした貴様等から金や情報を収集するのは実に容易かったぞ。肝心の魔王様が封印された場所の手がかりにあと一歩届かなかったのは残念ではあるが、どちらにせよ魔王様の復活は時間の問題。復活の際にその御前にて待つ代わりに、貴様等英雄の末裔の首を捧げることで忠義を示すこととしよう。」


 最初にアッシュの目に映ったのは赤黒い、捻じれた一対の角であった。角の下、その顔は輪郭や目つきは山羊であるにも関わらず、その口元は肉食獣を思わせる牙が備わり、たったひと噛みで人間サイズであればそれが鎧を纏った冒険者であっても噛み千切られてしまうことが容易に想像できるほどの鋭さである。

 首から下はこれ程の質量があの小柄な人間の身体のどこに詰まっていたのかと思う程筋骨隆々とした赤黒い巨躯であり、その胸元には水晶を思わせる人間の頭大の透明な玉が埋め込まれている。その両手こそ人間を彷彿とさせる5本指のものであったが、その脚先は軍馬を思わせる程の立派な蹄であり、その背には蝙蝠によく似た、羽毛の生えていないツルツルとした翼が備わっている。


――ミシミシミシミシッ!


「私の名はディアボロス、我らが魔の王の忠実なる僕にて四天王のひとっ……ヌッ!?」


――ミシミシッ! バキバキャッ! ドガラガッシャーン!


「……ヌ゛ウゥンン゛ッ! まさか床が抜けるとはっ! ギルド本部に飼われた冒険者風情がこの吾輩を捕えようなどとは笑止千万っ! 新たに筋肉の素晴らしさに目覚めた同胞たちの為にもなんとかこのまま逃げ切ってやるのである!」

「くそっ! 標的は床をぶち抜いて地下に逃走っ! 仲間が何人か巻き込まれて地下に落ちたっ! 至急ギルド本部から救援をっ! ……おいてめぇダグラスっ! 次から次へと問題を起こしやがって! 市場で柄の悪い連中相手に暴れ回っていたっていう目撃証言が腐る程集まってんだ! 今度という今度は厳重な処罰を受けさせてやるから覚悟しやがれっ!」

「あ、筋肉のおじさんだー!」


 500年前の勇者とその仲間たちの英雄譚。その中で数多の計略と卑劣な罠で勇者たちを苦しめたと言われている最上位の悪魔、ディアボロス。数百年にも渡る雌伏の時を経て恐るべき真の姿を現した彼は今、天井をぶち抜いて降ってきたダグラスおよび巻き添えになった不幸な冒険者数名とがれきの下敷きになっていた。


「ああもうっ! 次から次へと今日は一体何がどうなってんだ!」


 アッシュが目まぐるしく変わる状況に頭を抱えたくなるのも無理はない。そもそもこの街に到着したのが今朝のことで、チンピラから逃げるドルカを助け、一緒に追われる羽目になり、逃げた先がよりにもよって魔窟で、魔窟の冒険者達の濃ゆい洗礼を受け、いざ冒険者になったかと思えば何年もかけてコツコツと貯めたなけなしの貯金50万ペロが借金に化け、飛び出していったドルカを慌てて追いかけてきてみれば500年前に倒されたはずの恐るべき魔族が正体を現し、その次は天井が抜けて筋肉ダルマが降って来る。

 もうアッシュは色々と限界だった。

 

「ぬっ!? その声はアッシュ殿! それにドルカ嬢も一緒ではないか! どうやら無事に合流できた様子であるな。いやぁよかったのである! そうだアッシュ殿! この馬鹿どもに言ってやって欲しいのである! 吾輩はあくまで悪漢に攫われたドルカ嬢を救うべく立ち上がったアッシュ殿をほんのちょっぴり手助けしただけで、それ以外は何もしていないはずである! 吾輩、今回ギルド本部に捕まったら今度こそ鉱山で魔石を掘り尽くすまで強制労働させられてしまうのであるっ! トレーニングとしては魅力的でも筋肉を見せびらかす相手がいない鉱山で一人黙々と素手で岩盤を殴り続けるのはもうこりごりなのである! アッシュ殿ォッ!」

「そこをどけっ! 汚らわしきニンゲンめッ! この私を下敷きにして呑気に会話だとっ!? ……許さん。 許さんゾォオッ!」


 ダグラスがちょこんと乗っている、こんもりと積みあがったがれきの山の真下が盛り上がり、悲痛な叫びと共にディアボロスが飛び出すと、がれきと共に目を回している冒険者が数人どさどさと零れ落ちたが、ダグラスはいち早く飛び上がり一人華麗に着地し、いきなり真下から現れた存在に正面から対峙した。


「そうであった。この禍々しい気配。先ほどから気にはなっていたのである」

「私に気付いていて呑気に会話をしていたのか貴様はっ! ……なるほど。貴様、魔窟の冒険者だな? 良いだろう、貴様からなぶり殺しにしてやるっ! 私の名を聞いて震え上がるが良いっ! よく聞け! 私はディアボロっ……」

「ずーるーいーのーでーあーるー!」


 ダグラスは名乗りを上げている真っ最中だったディアボロスを完全に無視してアッシュの方に向き直り、何故か地団駄を踏み鳴らしながら怒り始めた。


「アッシュ殿っ! ドルカ嬢っ! こんな敵を相手にするだなんて何故最初に言わなかったのである! 吾輩を上手く使ってギルド本部の相手まで押し付けて、その間に自分達だけちゃっかり歯応えのありそうな相手と戦って名を上げようという魂胆だったのであるなっ! 新人の癖になんという手際の良さ! 地下まで潜り込んでこっそり事を済ませようとしていたのだろうが、吾輩の嗅覚は誤魔化せなかったのである!」

「私の名はディアボ……」

「ギルド本部から派遣された雑魚冒険者共から逃げるついでにアッシュ殿の気配を辿ること位吾輩にとっては朝飯前なのである! ……まさか地下にいるとは思わず部屋の中に追い込まれて逃げ場が無くなった時はどうしようかと思ったのであるが」

「ディア……」

「まあそこで思いっきりジャンプして天井を突き破って逃げ出そうとして逆に床を踏み抜いた結果こうしてアッシュ殿を見つけることができたわけで、結果オーライである」

「ディ……」

「ところで」


 ひとしきり言いたいことを言って再びディアボロスの方を向き直ったダグラスは、ギラギラとした笑みを浮かべながらアッシュに言った。


「こうして見つけた以上、獲物は早い者勝ちということでいいのであるな?」

「貴様ァッ! 話を聞けぃっ!」

「……ああもう、好きにしてくれよもう」


 もう何でもいいから帰りたい。アッシュはそう思った。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


次話の投稿は明日朝7時頃の予定です。


しばらく筋肉が出しゃばりますが、ちゃんと主人公の見せ場もあります。

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