第二十七話 同じことばっかりでつまんないから
7月29日投稿の『第22話 ダグラス’sブートキャンプ』の前にまるまる一話分の文章の抜けがあったため、改めて『第二十二話 ダグラス流隠密術』として該当部分に一話分ページを追加しています。
話が飛んでいて違和感を覚えた方、本当にすみませんでした。
お手数をおかけしますが改めて二十二話から読み直して頂けると幸いです。
※7月31日 タイトルの編集ミスを修正。 ミスが多すぎて死にたい……
いよいよ始まったドルカとの勝負。まずエリックは、自分に配られた5枚の手札を確認した。剣のカードが3枚揃っていて、中々悪くはない。その3枚を残し、それ以外の2枚を不要なカードとして場に捨てることに決めたエリックは、例の配下の男に目配せをし、ドルカの手札に何があるかを確認させる。
「うひょー! なんかかっこいい絵のカードがいっぱいだー! これはもう勝ったも同然だね! うひょー!」
数字の大きいカードには聖女や勇者等、それぞれのマークにちなんだ特別な絵があしらわれているものも多く、この賭場で用いられているカードもそういったデザインに凝っているもののひとつである。配下の男からサインを受け取ったエリックは、ドルカの手札が言葉通り、まだ交換もしてないのに強力な絵札が集まっていることを確認すると、自分の手札をその場に投げ捨て、100万ペロもの価値がある大金貨を一枚無造作にドルカに向かって放り投げた。
「だったら俺は降りるぜ。……たったこれだけでてめぇはもうこの俺から100万ペロも掻っ攫ってみせたわけだが、当然まだ続けるよなぁ?」
「何言ってんの? まだ一枚しか増えてないもん! 私はまだまだやるよー!」
「……100万ペロの大金貨を手にしてたった一枚か。本当にてめぇはイカれてやがるな」
その後の攻防は一進一退であった。エリックは、手札を盗み見ながらドルカの賭け事における癖を見抜き、ドルカにそこそこ強い手札が入り勝負に乗り気になり、かつ自分がそれに勝てる手札が入ったタイミングで一気に大金をかけてやればいいだけの簡単な勝負だと考えていた。
それが、実際の所はドルカが勝つ勝負ではエリックが手札を盗み見て早々に降り、ドルカが負ける勝負では、ドルカは良くわからない理論(エリックが身に着けている金のアクセサリーが重たそうだから降りる、そういえばさっき食べたオムライスはとっても美味しかったから降りる等)によって手札の強さは関係なしに着実に降りることに成功しており、結局のところ場所代の大金貨一枚が行ったり来たりするだけという状態が続いてしまっている。その恐ろしいまでの読みの的確さに、エリックは何かしらの方法で自分の手札を盗み見ているのではないかと疑いたくなった。
しかも、行ったり来たりしている場所代の硬貨は、本来であれば滅多にない大商人との取引位でしかお目にかからないはずの大金貨である。全く気にしている素振りすら見せないドルカに対し、流石のエリックもじりじりと神経が削れ、自分が焦れていくのを感じていた。
エリックにとって唯一救いと言えるのは、ドルカがイカサマに全く気付かないどころか、こちらを疑う素振りさえ見せないことであった。もちろん手札を盗み見る為の鏡は巧妙に隠されており、一見しただけでは見つからないようにしているが、これだけ延々とカードで勝負が続くこと自体まず起こらないことである。というよりも、そこまで長引かせずにさっさとイカサマで勝負を終わらせているという方が正しいのだが。
そして、実は焦れていたのはドルカも同じであった。
「んー……なんかつまんなーい! 結局まだ一回もちゃんと勝負してない! つまんない!」
「なら、この勝負乗るか? 俺はこの勝負なら乗ってやってもいいぜ?」
「んー……。そっちのおじさんの鼻から毛が三本出てるから止めとく。四本だったら乗ってたんだけど、三本はちょっと危ない」
「さっきからてめぇのその判断基準はどうなってんだ本当に……」
そして、またドルカはエリックに対し、一体何度行ったり来たりしたかわからない大金貨を一枚手渡し、次の手札が配られる。
不要なカードを上手く交換して作り上げた今回の手札は、『剣』『盾』『杖』で同じ数字が揃い、その数字より一つ大きい数字で『金』、一つ小さい数字で『牙』が揃うという、所謂『幻の依頼』と呼ばれるかなり強い役であった。『剣』『盾』『杖』は冒険者を、『牙』は倒すべき魔物を、そして『金』はその報酬を表しており、その並びから冒険者達にまつわる諺が役名に付いた特別な役の為、同じ数字の構成でもマーク違いの役よりも一段強い扱いとなる。しかも、今回エリックが手にした『金』のカードの数字は最も強い物であることから、同じ『幻の依頼』の中でも最も強い数字の組み合わせであることがわかる。
これで目の前のバカ女が勝負に乗ってくれりゃあ、ほぼ俺の勝ちが決まったようなもんだ。エリックは緊張による手の震えや、ぴくぴくと引きつりそうになる瞼を必死で抑え込み、ドルカの出方を伺った。
「えっとねー、これとこれと……あとこのカードも要らない」
「おい、おい……! てめぇ、それは何の真似だ!?」
「えー? だって同じことばっかりでつまんないから。そんなことより、ずーっと同じことの繰り返しで疲れちゃったし、これで最後ね! うひょー! 大金貨10枚! ぜーんぶ賭けちゃう! じゃらじゃらー! あはははは! キラキラしてきれー」
これまでどうにかこうにか平静を保ってきたエリックも、いよいよ限界であった。なんとドルカは、配られたカードを伏せられたまま見もせずに、本当になんとなくといった調子で捨てるカードを選んでみせたのだ。
ドルカに気付かれる可能性も忘れ、思わず勢いよくカードを覗き見ているはずの配下の方を向くが、エリックの目に入ったのは、真っ青な顔で首を横に振る配下の男の姿であった。
「ねーねー、チンピラ屋さんのアニキはどうするの? 早く決めてよー?」
無造作に場に投げられた大金貨十枚。その一枚を手にとっては光にかざし、反射する光をあちこちに向けてはけらけらと笑っている目の前の少女に対し、エリックはついに、その緊張も、動揺も隠すことが出来なくなっていた。
どうすればいい。俺は、この勝負をどうするのが正解なんだ。イカサマ上等の違法賭博を取り仕切る賭場の主であるエリックは今や、酷い錯乱状態に陥っていた。
顔には脂汗がにじみ、握り締めた手札には流れ落ちた汗がぽたぽたと滴り落ちている。手も足も震えが止まらず、汗で濡れた身体は熱の籠った地下にも関わらず、酷く冷たい。頭の中ではひたすら同じ考えがグルグルと駆け巡り、心臓はがんがんと鐘を打ち鳴らしているかのように酷く大きい。その鼓動の一つ一つがまるでエリックの頭を揺さぶるかのようで、ドクンドクンと心臓が鼓動する度に、エリックの視界は揺れていた。
「あはははは! チンピラ屋さんスゴい汗! きたなーい! あはははは! そんなに汗かいてどうしたのー?」
そんなエリックとは対照的に、元凶である少女は全くの自然体であり、髪の毛一本分の緊張や恐怖すら見受けられない。ここにきてエリックが長考し出したことを退屈だと言わんばかりに、懐から妙な白い人形をいくつも出して遊び始めてすらいる。このドルカの振る舞い一つ一つが全て計算の上で行われていた恐ろしいまでのブラフだとしたらどうであろうか。そもそも現実にここまでアホな人間が存在するとは思えない。それこそ今目の前で13~14歳くらいに見えるこの少女が、楽しそうに身振りや会話まで添えて人前で人形遊びをしていること自体あり得ない光景なのだ。
頭の中がずっとぐるぐるしているからだろうか。エリックの目にはドルカが遊んでいる奇妙な人形が自分たちで勝手に歩き回るという幻覚さえ見え始めた。まさか、目の前の少女は幻術使いか何かだったのだろうか。自分達はもう既に幻術の中に嵌っていて、成す術もなく死を待つだけなのではないか。そんな恐怖さえ沸々と湧き上がって来る。
やはり、この少女は侮るべき相手ではなかった。その、後悔にも似た思いが、エリックの頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
一話分抜かしてしまったことに気付いてこの暑さの中冷や汗がだらだらでした。
しかもよりによって割と気に入っている部分を飛ばしてしまったという痛恨のミス……。
家にいなかったため予約投稿を使って数話分まとめて投稿したのが原因かと思われます。
次はきちんと確認してから投稿します。
次話の投稿は明日7時頃の予定です。
気に入って頂けた方は、ブクマ、評価、感想などよろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。