第二十六話 ドルカちゃんとわくわくギャンブルあそび
違法賭博!ダメ!絶対!編と銘打っておきながら何のためらいもなく多額の借金を抱えてギャンブルに飛び込む頭のイカれた主人公を描く矛盾。
7月31日 話数にミスが合った為修正。
わざわざ小娘が無防備にもたった一人で、大金まで抱えて敵の本拠地に出向いてきた。言われるままに勝負を受けなくとも、このまま取り囲んで金を奪い取り、『賭け事に負けた』ことにして身包み剥いで放り出せばいい。合理的かつ無慈悲な『模範解答』はすぐに思い浮かんだ。
しかし、それで本当にいいのだろうか? このアウェイの中たった一人、まともな武器すら持ってもいない少女を相手に、挑まれた勝負を受けもせず大の男数人がかりで取り囲み、身包み剥いで放り出す。
「フッ……。フフフ、フハハハァッ!」
「あ、アニキ……?」
「おいてめぇら、何ぼさっとしてやがる! さっさと場の準備をしねぇか!」
「は、ハイィッ!」
エリックは、自身の後ろ暗い考えを頭の中から吹き飛ばすかのように、声を上げて笑い、ひとしきり笑った後に、舎弟たちに指示を出した。
目の前の少女に魔窟の冒険者を重ね、勝負すら受けずに叩き潰すことを真剣に考えたこと自体が馬鹿馬鹿しい。俺としたことが、もう既にこのガキのペースに呑まれかけちまっているじゃねぇか。そもそも勝負を断って数人がかりでこいつの身包みを剥ぐだと? 俺は一体何を考えて何を恐れた? こんなもん、勝負を断った時点で俺の負けじゃねぇか。エリックは、己の胸の内で自分を叱り付け、しっかりしろと激励し、心を奮い立たせた。
結局のところ、この勝負を断るということは、目の前の少女を、そしてその少女が吹っ掛けてきた勝負をエリックが恐れ、逃げたということに他ならない。そして、バカ丸出しの少女との勝負から逃げる自分を、舎弟の前で晒すということは何よりもメンツを大事にする彼らの世界の常識では、あってはならないことなのだ。
「おー? ってことは勝負受けてくれるんだー! やったー!」
「まだ勝ってもいねぇのに随分とご機嫌じゃねぇか。てめぇこの勝負に負けたらどうなるかわかってんのか?」
「大丈夫だよ、私負けないから」
やはりこの少女は侮れない、とエリックは自分で自分を叱り付けたばかりだったのに思わず身震いをしてしまった。本当に、心の底からこの少女は自分が負けることなど考えてすらいない。精神的な揺さぶりは一切通用しないと思っていた方が良いだろう。
「で、てめぇから俺らに勝負を吹っ掛けてきたわけだが、一体この俺様と何で勝負しようってんだ?」
「えー? 私が勝負しよーってお願いしたんだから、何で勝負するかはチンピラさんが決めるんじゃないの?」
「……なら、カードで勝負だ。朝もやったルールならてめぇみてぇなバカ女でも覚えてるだろ? おいそこの、新品のカード持ってこい」
「う、うっす!」
「それから、そっちの壁に突っ立ってるお前。ディーラーやれ」
「わ、わかりやした!」
下っ端の男に持って来させたカードの箱は蝋で封がされており、開けられた形跡が無い。
「見ろ。このカードは新品で、まだ封も切られちゃいねぇ。てめぇが封を開けて、中身に何の細工もしてねぇことを確かめな」
「えっ私が開けていいの!? やったー! うひょー! このパリパリ剥がす感触がたまりませんなぁ!」
「……そういうつもりで言ったんじゃねぇんだけどな。まあいい。ああそうだ、一応ルールを再確認しておくぜ」
『カード』と呼ばれる遊技は、一般的には『剣』『杖』『盾』『金』『牙』の5つのマークと数字がひとつずつ振られたカードを用いたゲーム全般を指す言葉である。
元々は軍において現状の戦況を整理し次の一手を考える為の道具であった駒の代わりに、地図上に並べることができ、かつ行軍の際も嵩張らず持ち運びが容易なものとしてカードが用いられるようになったのが起源と言われている。その簡便さから一般の兵の戦術眼を養うゲームとしても使われるようになり、印刷技術の発展と共に一気に冒険者や民間人にも広まっていったと言われている。
そういった起源を持ち、様々な種類の遊技に用いられるこのカードであるが、賭場においてただ『カード』と言う場合、手札として配られた5枚の数字と柄が記されたカードを組み合わせて役を作り、より強い役を作れた方が勝ちというゲームを指すのが一般的である。役を作る上で不要なカードは1度だけ捨てることができ、捨てた枚数だけディーラーからカードを受け取れる。
シンプルだからこそ奥深く、ルールも分かりやすいため、大抵の賭場で採用されているだけでなく、冒険者同士のちょっとした賭け事や暇つぶしにも使われる遊びであった。
だからこそ大衆の中で多様に細分化された、多岐にわたる所謂ローカルルールのようなものも多いため、エリックはこの賭場で採用しているルールを大まかにドルカに説明してやった。
「うちではまあこういったルールでやっているが、文句はねぇな?」
「んー? なんかよくわかんなかったけど大丈夫! 強いカード集めればいいだけだし!」
「じゃあ、始めるか……と、その前にだ。てめぇが用意した一千万。なんでわざわざ大金貨だけで持って来やがった? 重かったからか何なのかは知らねぇが、そのままだと百万単位でしか掛けられねぇだろ。両替してやるよ」
「えー? んー……」
「なんだ、不満か? 別にここまで来て贋金とすり替えたりなんて姑息な真似はしねぇ。ここでそんな真似しちまったら俺は勝負を受ける前からてめぇに負けたも同然だからな。おい、俺が賭ける金と一緒にこいつの両替用の金も準備してやれ」
「えー? やっぱいいよ、めんどくさいもん!」
「……元々ちいせぇ勝負はする気がねぇってか。いいぜ、乗ってやる。降りるだけでも大金貨一枚。精々運命の女神に祈るんだな。さあ、始めようぜ?」
そう言って、エリックはディーラーにカードを配るよう指示を出し、ドルカの後ろ……ではなく斜め前、丁度エリックとドルカに挟まれた部屋の中央脇にいる配下の男にそれとなく目配せをした。真剣勝負とは言ったが、イカサマを使うとわかっている相手のホームに乗り込んで勝負を吹っ掛けてきたのは向こうの方である。エリックはイカサマを使うことに一切躊躇する気はなかった。
地下に作られたこの賭場は、窓もなく、敢えて弱めの光魔法を込めた魔道具を部屋の四隅と中央にぶら下げるだけの薄暗い作りにしてある。無論、イカサマがバレにくいようにである。その四隅のうちの手前側、つまり客側の壁の所々に細工がしてあり、裏から角度を微調整できる鏡がいくつか仕込まれていて、丁度エリックが目配せをした男の位置から鏡を覗けば客側の手札が見えるようになっているのだ。
その他にも手札そのものに細工をしてどうあがいても勝てないようにするという方法もあるにはあるのだが、いかんせん相手にバレないだけの技術を会得出来る者は少ない。不運なことに、この場にそれだけのイカサマが出来る者はいなかった。
「よし、カードは配られた。まずはお手並み拝見ってな」
いよいよ始まった大金をかけた勝負に、不覚にもエリックは湧き上がる興奮を隠せずにいた。
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昨日一昨日と所用で家にいなかったので予約投稿で済ませていたのですが、その間にまた
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