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第二十五話 読めない相手が一番怖い

本日二度目の投稿です。

「アニキィ! 報告がありやす! 女の方だけではありやすが、朝のガキを見つけやしたぁ!」

「でかしたっ! それで、場所は? 当然今度はきっちり捕まえて来たんだろうなぁ?」

「それが、実は……」

「あ、朝のギャンブル屋さんのおじさんだー! やっほー」

「……何故か自分からアニキの元まで連れて行けとうるさくて、あっさり連れてこれちゃいました」

「……お、おう。でかした……な?」


 無事、金貸しから借りることで1000万ペロという軍資金を手にしたドルカが次にやったことは、朝自分を追いかけてきたチンピラを探すことだった。理由は簡単である。賭場までの道を覚えていなかったのだ。

 金貸しの店は表向きまともな営業活動も行っていた為、わかりやすい市場の通り沿いにあったので辛うじて見つけることができたのだが、チンピラ達の運営する賭場はイカサマ上等の裏賭博をやっているだけあり、かなり入り組んだ路地の一見民家に見える2階建ての建物の地下にあった。

 違法な賭博に携わるチンピラ達と違い、金貸しは決して目に見える形での不法行為は行っていない。精々が借用書上の借りた金額を水増しする行為であるが、それさえも表向きは賭場の関係者としてあの手この手で借金を唆し獲物を連れてきたチンピラが、いざ金を借りさせた所で金額や契約書の中身をチェックさせないよう話しかけたり急かしたりと、あくまで金貸し側に非が無いかのように見せかけていた。

 このようなWin-Winの関係を築く上でも、金貸し側が『表』として営業している方がやりやすいという側面もあったのだろう。チンピラ達は金貸しの店の後ろ暗い部分、主に身売り絡みの借金返済ルートをも積極的に協力にあたっていた。

そういうわけで、朝自分を追いかけてきたチンピラさんに会いたいというドルカの願いはあっさり叶うことになった。金貸しの店の周囲に張り込みカモを見繕っていたチンピラが朝店に入っていったドルカの顔とその後の騒動について知らされていたのである。


 ドルカ=ルドルカ、15歳。好きなものはアッシュ君、嫌いなものは苦い野菜全般。チンピラに連れられそのボスの前まで連れていかれたその顔は、にっこにこであった。



 ここまで自然体かつにこにこ笑顔で来られると、流石のチンピラのアニキ分も、いつも通りとは行かなくなるものらしい。


「お、おいてめぇ朝はよくやってくれやがったなァ?」

「鬼ごっこ楽しかったねー! 今回は私の勝ちだったけどね!」ドヤァ

「……てめぇ俺らのこと舐めてやがんのか? それとも俺らがどんな人間かわかってねぇのか?」


 こいつは馬鹿なのか? いや、朝の時点で相当な馬鹿なのはわかっちゃいたが、ここまで馬鹿な奴がいるか? 一瞬ドルカの頭を本気で心配してしまった男は、次のドルカの言葉で更に驚かされることになる。


「えー? おじさん達はチンピラさんでギャンブル屋さんでしょ? 街に来たばっかりの人を捕まえてギャンブル屋さんでハマらせて? お金貸してくれるおじさんの所で借金漬け? にするのが得意なんでしょ? アッシュ君とエリスさんが言ってた」

「ほぼほぼ正しく認識してるじゃねぇか……」


 言葉を交わして会話が成立しているのに、それ以前の人としての価値観というか、もっと人としての根っこの部分で全くかみ合っている気がしない。男は頭が痛くなりそうだった。


「聞くところによると、てめぇ自分からここに来たらしいじゃねぇか? 俺らがどういう奴らか分かった上で、朝俺らにあんだけのことをしやがった上でのこのこやってくるとは一体どういう了見だァ?」

「えへへへー! 私は頭が良いからちゃんと教わったことは覚えているのです! それでね、こうしてここに来たのはねー」


 重苦しい空気を取り囲んでいるチンピラ達が盛大に放っているにも関わらず、それに一切動じずににこにこ笑いつつドヤ顔でおしゃべりを楽しんでいた様子のドルカは、さも楽しいことを発表しますといった表情でわざとらしくタメを作って見せた後、言った。


「おじさん達にリベンジしに来ましたー! ぱぱーん!」


 そう言って、ドルカは革袋を懐から取り出し、ひっくり返して見せる。


 じゃらじゃらと音を立てて零れ落ちた『それ』に、チンピラ達はごくりと唾を飲み込んで魅入られてしまった。

 ドルカがその場に広げて見せたのは一枚一枚が100万ペロの価値を持つ大金貨。しがないチンピラの下っ端達にとっては拝む機会さえない代物である。それがなんとその場に十枚。それを、まだ右も左も分かっていないようなあどけない少女が無造作にぶちまけたことでドルカは場の空気を完全に支配してしまっていた。


「……てめぇ、この金はどうした?」

「朝教えてくれたお店で借りてきたの。ねえおじさん?」

「な、なんだぁ?」


――このお金で私ともう一度勝負しようよ?


 何の屈託もない、それまでと変わらない笑顔とドヤ顔が入り混じった表情で、ドルカはそう言ってのけた。



 下っ端のチンピラ達からアニキと呼ばれ慕われている男は、その名をエリックと言う。名前に似合わない大柄ででっぷりとした体形の男は、舎弟に対し「アニキ」と呼ぶようきつく言い渡すほどの名前で呼ばれるのを酷く嫌がっており、もし舎弟が何かの間違いで自身を名前で呼ぶようなことがあれば、問答無用で数メートルは吹っ飛ぶような鉄拳制裁を躊躇なく行う、短期で気難しい男であった。

 そんなエリックであったが、カモだと思ってたっぷりと金を巻き上げてやった少女が泣くでも喚くでもなくその場で堂々とこちらのイカサマを宣言し、脅かして黙らせてやるかと凄んでみるがするりと逃げ出し、おまけに変な正義感に駆られた男を仲間に引き入れそのまま魔窟まで逃げおおせて見せた少女に対し、怒りで身体が煮えたぎるような思いでその足取りを探させていた。例えほとぼりが冷めるまで魔窟に住み着くつもりだとしても、油断して一歩でも魔窟から出た日には即捕まえてこの落とし前を付けてやろうと息巻いていたのである。

 それがどうだ。少なくとも向こう一週間から一ヵ月は逃げられるかと思っていた少女が、その日のうちに向こうからこの自分を名指しでのこのこやってきて、大金貨を十枚も持ってよりによってこの自分に勝負を吹っ掛けてきたのである。


 こいつは、舐めてかかっちゃいけねぇ。朝まではバカ丸出しのただのガキだと思っていたが、こいつは恐らく生まれながらの『魔窟側の人間』だ。欲望や好奇心、目的の為ならそれ以外のものは全て躊躇なく笑って捨てられる人間だ。


 エリックは、この賭場の管理者というそれなりのポジションを与えられるだけあり、ほんの数回ではあったが魔窟の冒険者という存在に触れたことがある。

 一度目は借金漬けにして炭鉱にでも売り払おうとしていた若い男の冒険者を、驚くほど美しい女ばかりの冒険者共に横から掻っ攫われ、そのまま足取りさえ追うことが出来なかった。

 その男の身を売ることで返済させる予定だった金はその日のうちに金貸しの元に届いたらしいが、使い捨て出来る労働力を売る約束をふいにされたチンピラ側の損害は別問題である。その時エリックはまだ下っ端で、丁度今のエリックの立場に居た兄貴分は、落とし前として自らが炭鉱夫として売られることとなった。

 またある時は、徹底的に追い込みをかけて身売り以外の選択肢を潰す為に装備まで売り払わせたにも関わらず、一瞬の隙をついて魔窟に逃げ込かれ、1週間後に彼が戻ってきた来た時、己の身一つで魔物を討伐できる屈強な肉体を手にしており、悠々と魔物討伐による報酬で借金を完済されてしまったこともあった。


 こうしたエリックの経験に基づく勘が、目の前のアホっぽい少女を決して侮るなと頭の中で警鐘を鳴らし続けている。そもそも、今朝には散財しすぎて宿代にも困っていたような少女が、一千万ペロというともすれば平凡な家族が慎ましやかに暮らすだけならば何代にも渡って働かずに食べていけるような大金を、何でもないような顔をして金貸しから借りるという発想があり得ない。しかもこの少女は、借りた金でイカサマを行うとわかっている相手に勝負を挑んできているのだ。

 エリックは、目の前のアホ丸出しの少女に対し、やはり決して見た目だけで判断していい相手ではないと再び気を引き締めるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


次話の投稿は明日7時の予定です。


よろしくお願いいたします。

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