第十七話 よりによって数字部分はぴったり同じ
7月31日 話数にミスが合った為修正。
「やだなぁアッシュ君、大丈夫大丈夫! なんたって私、運には自信あるんだよね!」
街に着いて早々チンピラに目を付けられ、借金を背負わされる羽目になった上にその借金の額面が借りた額の10倍になっていてなおこの物言い。細かいことを気にしないにも程があるドルカに、他人事であるアッシュの方が焦り、必死になっていた。
「運だけでなんとかなるならそもそもこんな形で借金なんて背負わされないだろうが!」
「えー? でもじーじは何とかなったって言ってた」
「今まで大丈夫だったからってお前も大丈夫とは限らないだろ! 何でそんなのほほんとしてられんだよ」
アッシュは一切危機感を覚える様子の無いドルカにどうやったらわかってもらえるのか頭を抱えたくなりながら、あの手この手でドルカに説明を繰り返すが、肝心のドルカは既に話に飽きてきたようでしょんぼりする素振りを見せながら横目で横一列に並んでラインダンスを踊る大根達を見ている。
そんな中、エリスが何故か神妙な面持ちで二人のもとに戻ってきた。
「お待たせ致しました。ただいまお二人の冒険者カードの発行と、所持金の整理が完了したのですが……」
そう言ってエリスは二人にカードを手渡していく。
「わーい! エリスさんありがとう!」
「ありがとうございます。それで、何か浮かない様子ですが問題でもありましたか?」
「いえ、手続き自体は滞りなく終わったのですが、ちょっとカードの裏面、右下をご覧頂けますか」
そう言ってエリスはドルカの冒険者カードを裏返し、右下の欄を指で指し示す。
「この部分を指でなぞりながら魔力を流して頂くと、冒険者の皆様がギルドに預けているお金の総額を表示することができるのですが」
「何それかっこいー! 早速やってみよっと!」
そう言うとドルカは買ってもらったばかりのおもちゃを手にしたかのようなテンションで、早速冒険者カードの右下をなぞり始める。ドルカの魔力に反応し、なぞられた部分がうっすら光り出し、そこに文字が浮かび上がってくる。
「あれ? ゼロが一個しか浮かんでこない」
「そうなんです。アッシュさんの方は問題なく手続きが済んだのですが、その後ドルカさんの借金の処理を進めていったら、確かに一瞬マイナス100万ペロと表示されたはずなのに、その後『0』に表示が変わってしまって。ネットワーク上でもドルカさんの借金は登録直後に完済されたことになったみたいで、まるでどこからかお金が直後に入金されたかのような状態なのです」
確かに、エリスの言う通りドルカの冒険者カードに表示された預金額は、ゼロとなっており、借金を現すような表示はどこにも見当たらない。
アッシュとエリスが不思議そうに首をかしげる中、ドルカは一人テンションを上げまくりはしゃいでいた。
「うひょー! ほら見たアッシュ君、私ってばハイパーラッキーだからなんかよくわかんないけど借金無くなっちゃったって! やっぱりアッシュ君心配し過ぎだったんだよ!」
これで心配することは何もない、後はアッシュ君と二人、めくるめく冒険の中で愛を育むだけだと喜びのあまり大根と一緒になって踊り狂っているドルカを無視し、アッシュはエリスに尋ねた。
「正直何が何だかよくわからないのですが、こういうことってよくあることなんですか?例えば登録した魔力が全く同一の人がいてその人の情報と混ざってしまったとか」
「いえ、私の知る限りこのような事例は一度たりとも起きたことが無いのです。双子でさえ魔力の波長は微妙に異なっていて、絶対に識別ができるからこそ魔力による認証が採用されているはずなのです。……強いて言えば依頼失敗を繰り返して賠償金が払えなくなった冒険者が、こっそり別の街のギルドで新たに冒険者登録をしようとした際に魔力の波長であっさりバレて新しい冒険者カードにも過去の実績や賠償金の請求が登録された事例がありますが……。ドルカさん、今まで別の街で冒険者をやられていてそこで貯金があったとかそういうことはありませんよね?」
なるほど、実はドルカが別の街で冒険者として活動をしていたのであれば、その頃の情報が現在のドルカの冒険者カードに即時反映され、借金が打ち消された可能性があるのか。確かにドルカレベルのアホであれば自分が冒険者として活動していたことも借金を帳消しに出来るレベルの貯金があったことも忘れていてもおかしくはない。
流石のドルカであってもそこまでバカではないのだが、知らず知らずのうちにアッシュによるドルカの評価は地に堕ちていた。
「私は今日初めて冒険者になったんだよー。今まではギルドに入ったこともないよー」
「ですよね……。一体どういうことなんでしょうか」
「だから、私がとってもラッキーってことなんだよ!」
本当にそんな幸運があっていいのだろうか。百歩譲ってネットワーク上の不調だった場合、やっぱり返済の義務は発生するのではないだろうか。それとも、一流冒険者ともなれば平気で一回の依頼やダンジョン攻略で億単位のお金が動くというし、ギルドにとって、たかだか100万ペロというはした金が行方不明になった所でどうでもいいのだろうか。
そんなことを考えながらも、なんとなくアッシュは自分の貯金がちゃんと入金されているか心配になり、冒険者カードを裏返し、右下の欄を指でなぞってみた。ドルカの時と同様になぞった部分が光り出し、文字が浮かび上がってくる。
「……一、十、百、千、万、十万。よし、確かに50万入金されているな。俺の方は問題ないみたいだ。……ん? この金額の横にもう一つ浮かび上がってきた記号は何だ?」
アッシュは改めて浮かび上がった文字を一つ一つ確認していく。確かに『500,000Pr』と書かれている。そして、一番左側に何の意味かよく理解できない、謎の横棒が表示されている。
「アッシュさん、もしかしてアッシュさんの冒険者カードにも何か異常がありましたか?……あら、これは」
「えーなになに! アッシュ君も何かラッキー?」
そう言いながら手元をのぞき込んでくるドルカを手で制し、エリスはアッシュの冒険者カードを手に取り、しげしげと眺めると、一言こう言った。
「この記号はマイナスですね。借金で所持金がマイナスになるとこういう表記になるのです」
アッシュは気絶した。
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