第十六話 うっかりは誰でもあるからしょうがないよ!
本日二度目の投稿です。
7月27日 話数を間違えていたので修正
7月31日 更に話数にミスが合った為修正。
「はい、これで確かに50万ペロ丁度。しっかり預からせて頂きます」
「お願いします!」
これまで色々な商人や職人の下を転々としていた中でコツコツ貯めてきた、今まで肌身離さず持っていたお金ではあったが、ギルドが預かってくれるのであればそれ以上に安心できることはない。
その貯金の大半を冒険者としての装備や道具一式を揃える為に使うと決めていたアッシュは、恐らくすぐ卸して使うことになると思う反面、万が一ドルカのように何者かの手によってこのお金を騙し取られてしまったら立ち直れなくなる自信があった為、一旦預けてしまうことにしたのだ。ドルカが借金を抱えることになったのは手口が巧妙だったというよりもドルカがアホ過ぎたせいなので、同じ手口に引っかかる気はしないのだが、念には念をというやつである。
そして、アッシュは内心、ドルカの借金である10万ペロについても、もし今後しばらく冒険を共にするのであれば一時的に自分の懐から出してやってもいいのではないかとまで考えている。エリスは塩漬け依頼をこなせば返しきれると言っていたし、実際その通りなのかもしれないとも思うが、早々旨い話ばかりではないと疑ってかかる位の姿勢が正しい、とアッシュは思うのだ。
確かにショイサナは他の街より群を抜いて賑わいを見せる、経済的にもかなり豊かな街の一つである。しかしそれは、街の周囲にダンジョンや強力な魔物といった脅威が隣り合わせだからこそ潤っているわけで。万一ショイサナ中の冒険者を総動員しても太刀打ちできないような何かが起こってしまったら? 急に周囲の瘴気が薄まり、冒険者の仕事が激減してしまったら? ……そんな時、一番初めに矢面に立たされたり、切り捨てられたりするのは借金持ちや実績の無い冒険者と相場が決まっている。
少なくともドルカは人を騙すような人間ではないということはこの短い間の付き合いでもよくわかる。というよりドルカに人を騙せるだけの知能があると思えない。
今だって、アッシュがチラリとドルカの方を見てみると、ドルカはエリスに借用書を渡したことで、自分の仕事は終わりだと思ったらしく、妙に軽快な足取りで机の上を歩き回る大根たちを眺めてはけらけらと笑っている。もう5体も作ったのにまだ種に香水を吹き付けようとしていたのでアッシュは無言で香水を取り上げた。
「あー! アッシュ君返してよー! 私ここにこの子達の王国を作るって今決めたのに!」
「あと何匹こんな謎生物を作るつもりだ! こんなもん大量に生み出してギルド内を埋め尽くしたら俺たち出禁になるぞ!? 冒険者になった直後に出禁になったらどうするんだよ!?」
「その程度なら出禁にはならないですよー? ちょっとだけ私と『お話』することになるとは思いますけどね。……悲しいことに、場所が場所ですから、本当にその程度の揉め事なら日常茶飯事なのです」
やっと持ち直して手続きを進めていった所だったのに、再び目が虚ろになり壊れそうになるエリスを見て慌ててアッシュは再び宥めにかかる。
「ほら見ろドルカ! このエリスさんの遠い目を! これ以上エリスさんを困らせるんじゃない!」
なんとか持ち直したエリスを落ち着かせながら、アッシュはドルカを注意した。
「はーい。でも大根王国の夢は捨てないからね! 私この子達が自由にスキップして回れる楽園を作ってみせるから!」
「二股に割れた大根が辺りをスキップして回る国ってどんな王国だよ」
「もちろん王様はアッシュ君でー、お姫様は私なの! 家臣兼食料がこの子達」
「家臣食うのかよ」
『食料』という言葉に反応し、ピクリと動きを止める大根たち。5体の大根たちは何故かぷるぷると震えながらお互いを牽制し合っていたが、最終的に双方納得の結論が出たらしく、ドルカの前に横一列に並ぶと『さあ自分を食べろ』と言わんばかりの様子で膝?をつき、傅いてみせた。どうやらドルカに食べられるのは大根にとって栄誉なことであるらしい。
誰が最初に選ばれるかそわそわしている大根とそれらを見て「うひょー!」と奇声を上げて喜ぶドルカを見て、アッシュはドルカの借金について自分が肩代わりすることすら考えていた自分が馬鹿らしくなり、「大根って人語を理解するんだなぁ、知らなかったなぁ」と考えることをやめてしまった。
「見てみてアッシュ君! この子達すごくおりこーさん!」
「ああ、そうだな」
「アレクサンダーにアレクヨンダー、アレクワンダー、アレクツーダー、アレクファイダー、みんないい子だねぇ。もっと大きくなったら美味しく食べてあげるからね。みんなどうやって料理されたいか考えておいてね!」
「ああ、そうだな」
何を言ってもそうだなとしか返さなくなったアッシュを尻目に、ドルカは大根達に、君はサラダ、君は煮物と順番に料理方法を決めていく。順に指をさされるたびに喜びに打ちひしがれその場で踊り始める大根達。
アッシュが突っ込みを放棄してしまったことでその場のカオスさに突っ込む者はいなくなってしまった。ちなみに、最初に生まれた大根がアレクサンダーで、彼の名前ありきでワンダーとツーダーが後付けで命名されたようである。
エリスに至ってはこれもまた現実逃避の一つの形なのか、アッシュに宥められ正気を取り戻してからはドルカの奇行には一切触れずに淡々と作業を進めている。奇人変人の巣窟で働くということはアッシュの想像を遥かに超える激務であるらしい。
「アッシュさんの分は入金も含め一通り手続きは完了いたしました。冒険者カードのお渡しはお二人分まとめてになりますのでもう少々お待ちください。次にドルカさんの借金の手続きですね。ドルカさん、念のため金額を一緒にご確認ください。……一、十、百、千、万、十万、百万。ドルカさんが作ってしまった借金『100万ペロ』、確かにこちらで肩代わりいたします。ちょっと金額が大きいですが、まあ5年も頑張ればなんとかなる範囲でしょう。頑張ってくださいね」
「はーい! エリスさんありがとー!」
「ああ、そうだな。……えっ!?」
アッシュはエリスが何を言っているのか一瞬理解が出来ず、ドルカとエリスがてきぱきと手続きを進めていく様子を強張った表情で眺めながら、ドルカが喫茶店で話していた内容を必死で思い出していた。
「いえいえ、その代わりちゃんと冒険者としてお仕事頑張ってくださいね。それでは、最終確認等の作業がありますので、一旦席を外させて頂きます。お二人はこのまま少々お待ちください。」
そう言い残し、アッシュが止める間もなくスタスタと立ち去ってしまうエリス。今エリスは確かに100万と言った。でも、不純喫茶で話を聞いた時、ドルカは借金を10万ペロと言ってはいなかっただろうか。
「わかったー! やったねアッシュ君! これでついに私たちのめくるめく冒険の日々が始まるよ! 最初は何する? やっぱ冒険と言ったらダンジョンかな? それともドラゴン退治とかやっちゃう? 私とアッシュ君ならドラゴンの一匹や二匹余裕だと思うんだよねー! アレクサンダー達もいるし」
「……なあドルカ。お前の借金10万ペロって言ってなかったか? さっきの証書、どう見ても100万ペロの借用書にしか見えなかったんだが」
そう。ドルカは確かに10万ペロの借金をしたと言っていたはずだ。それが証書の上では100万ペロの借金となっている。アッシュは嫌な汗が止まらなくなっていた。
「あっ言われてみればそうかもー! お金貸してくれたおじさん間違えちゃったのかなぁ? でも大丈夫だよアッシュ君! あとでお店に行ってゼロ一個間違えてたよーって教えてあげたら一緒一緒」
そこにこのノー天気な発言である。
「一緒なわけないだろ! お前二重に騙されてんだよ! 」
「えっそうなの!? 誰に!?」
「その金貸しにだよ! お前100万の借用書作らされて10万しか現金貰ってないの! お前がその場で確認しないアホの子なのを見越して罠に嵌められたの!」
「そうなんだー。そしたら私、ちょっと損してるかも?」
「ちょっとどころじゃねぇよ! 100万だぞ100万! 俺が10歳で村を出てからコツコツ貯めて、この街に来るまでの旅費をひねり出してなんとか残せたお金が50万! エリスさんが去り際に言った言葉聞こえてたか!? 冒険者生活5年は借金に縛られることになる金額だぞっ!?」
他人事ながら、あまりにも危機感の欠片もないドルカののほほんとした態度に、アッシュは本当にこいつ正気なのか? と心配になるのだった。
予約投稿機能を使って〇時ちょうどに投稿するとその時間に同時に投稿された作品の中に埋もれてしまうから、少しでも多くの人に見てもらいたいなら手動で数分遅れで投稿すべしと知って、実践し始めたのはいいものの、今朝は寝ぼけて7時数分前に投稿してしまっていた模様。
そのことに気付いた今、アクセス解析のページで確認してみると、確かに結構変わるものみたいですね。
ただ、まだブクマして下さっている方がいるわけでもないのにそれでも約30アクセス分の方が読みに来てくれていたのを見てありがたいなぁと思いました。
こんなあとがきまで読んで頂きありがとうございます。
こんなドジをやらかす作者ではありますが、もしよろしければ、
ブクマ、評価や感想などよろしくお願いいたします。