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第十五話 長い話の間だけはドルカは静か

冒険者ギルドとショイサナという街についての簡単な説明回です。


7月26日 後の会話に矛盾が生じることに気付いたため会話文の一部を修正。

7月31日 話数にミスが合った為修正。

「はい、これでドルカさんの分はおしまいです。冒険者カードの情報が魔術ネットワークと同期するまでちょっと時間がかかりますので、続けてアッシュさんの手続きも終わらせてしまいましょう。では次はアッシュさん、水晶に手を当てて、軽くで結構ですので魔力を流し込むように念じてください。」


 ドルカの冒険者登録の手続きが完了し、エリスはアッシュの方に向き直った。それまでぼーっとエリスのテキパキとした動きに目を奪われていたアッシュも、慌てて我に返って言われるがままに手をかざす。


「よっ……と。こんな感じでいいんですか?」


 アッシュもまた、ドルカの見様見真似で軽く念じると、ドルカと同じように水晶に触れた手の辺りから水晶の中に煙のように揺らめく光が立ち込め、水晶を満たしていく。


「ばっちりです。水晶にちゃんと魔力が浸透しています。それでは次にこちらにアッシュさんの年齢とお名前をフルネームでご記入ください。……はい、それで結構です。」

「手続きって言っても本当にあっさりしてるものなんですね」

「ええ。とはいっても、今水晶に込めて頂いたお二人の魔力の情報を元に、全冒険者ギルドのネットワークに情報を登録する必要がありますので、この後少々お待ちいただくことになります」


 冒険者としての実績やランクは全ギルドで共通という話は聞いていたが、本当に全ギルドで共有されたネットワークなるものが存在するらしい。一体どんな魔道具があればそんなことが実現できるのだろうか。アッシュは余りにもスケールの大きい話に、想像を巡らすだけで圧倒されてしまいそうになった。


「わかりました。なんだかスケールが大きすぎてわけわかんなくなっちゃいますね。……そうだ、喫茶店でマスターから怪しい奴らに借金させられた冒険者向けに何か対策をしてくれているって聞いたんだけど、その手続きも一緒にやってもらえるんですか? こいつどこでもこんな調子だからチンピラに目を付けられて借金作っちゃったみたいで」


 アッシュはギルドに来たもう一つの目的、ドルカの借金によってこれ以上チンピラから追われないようにすることを思い出し、エリスに相談し始めた。


「ドルカさんも被害に合われてしまったんですね。流石にまだ魔窟の冒険者を相手に詐欺まがいのことをしでかす方がいないので、私もこうして実際に被害に合った冒険者さんからお話を聞くのは初めてです。ただ、そういった輩が増えてきているという情報は他ギルドから私の所にも回ってきていて、対応もばっちりですから安心してくださいね? ……そうしましたらドルカさん、お金を借りた時の借用書はお持ちですか?」

「借用書? これのことかな」


 ガサゴソと肩からかけているポシェットを漁り、ドルカは色んなものと一緒くたに突っ込まれたことでぐちゃぐちゃになりかかっている紙切れをエリスに手渡した。


「……はい、損傷が酷いですが、この紙で間違いありません。冒険者の皆様には冒険者カードを使ってギルドにお金を預けられるようにしておりまして、借金についてもある程度の額であれば同じシステムを利用することで、ギルドで借金を肩代わりすることができるんですよ」


 ショイサナのギルドはそこまで手厚く冒険者を保護しているのか、と感銘を受けるアッシュであったが、ギルドもまた商売である。エリスは「ただし」と前置きをした上で、その代償として生じる冒険者側に課せられる義務について説明を続けた。


「その代わり、冒険者さんにはギルド指名でいくつか強制依頼を受けて頂き、依頼達成時の報酬から一定の割合を自動で引いて返済に充てさせて頂くことになります。一長一短ではありますが、強引な取り立てや変ないちゃもんは付けられずに済むようになりますし、肩代わりした時点で法外な利息から解放されますので、利用される冒険者さんは多いですよ。まああまりにも同じことが続くと、厳重注意が入りますが」

「うーん、なんかよくわかんないけどお願いします!」

「お前はもうちょい考えてから行動しろよ! ……とはいえ、今回についてはギルドに肩代わりをお願いする方が正解だとは思うけどな。エリスさん、その強制依頼っていうのはどんなものになるんですか? 俺もドルカも冒険者になったばかりで、難しい依頼を強制されてもどうしようもないですよね?」


 絶対何も理解しないまま即答しているであろうドルカを窘めつつ、アッシュは新人冒険者である自分たちが無茶な依頼を強制されて悲惨な目に会うことはないのか、と心配そうな表情でエリスに尋ねる。


「その点はご心配なく。元々は一定の実績を積み重ねた冒険者さんの信頼を基にした制度だったのですが、最近似たような事件が頻発しておりまして。ギルドとしても前途有望な新人冒険者が入ってこなくなる事態は避けたいということでドルカさんのような新人冒険者さんも対象に含まれるようになったのです。強制依頼については、まずはある程度冒険者として経験を積んで頂いて、慣れてきた頃にこちらから声を掛けさせて頂くことになります。その依頼も、難易度は低いものの手間暇がかかる割に出せる報酬額が少ないといった、所謂誰も受けたがらない塩漬け依頼からスタートすることになるでしょう」

「……なるほど、それなら大丈夫そうですね」

「アッシュさんは鋭そうなのでお話ししちゃいますが、正直な話、多少の額ならギルドの赤字になってでも塩漬け依頼を減らした方が依頼主の方々からの信頼が高まって結果としてはプラスになるんですよ。他の街と違って冒険者ギルドが4つあってもまだ依頼も冒険者も増え続けているのは、ただダンジョンや危険な魔物が多いというだけが理由ではないんですよ?」


 冒険者の街と言われるまでに成長した裏には、こうしたギルドのたゆまぬ努力が積み重なっているのです、とエリスはおどけるようにわざとらしく胸を張ってみせる。


「そこまで考えて冒険者の為に色々手を尽くしてくれるなんてすごいですね。少なくとも俺は他の街でそんな話は聞いたことありませんよ」

「それだけ、ショイサナにとって冒険者は今もなお必要とされているのです。これだけ街も大きくなり安全が確保されてしまったので実感が湧きにくいですけど、元を正せば魔族が支配していた地。本来人が住むような土地ではないのです。ダンジョンだって1週間かそこらで新しいものが発生しては冒険者さんに潰されていますし」


 知識としては知っていたが、実際にギルドの職員として長く携わってきているであろうエリスから聞かされる生の言葉は、想像以上に重く、500年というショイサナの長い歴史を感じさせるものであった。


「他の土地なら一つダンジョンが生まれるだけで大騒ぎでしたよ。ダンジョンって一つ生まれれば危険を承知でギリギリまで潰さずに魔物を狩ったりお宝を探したりするべきなのか、魔物があふれ出る前にさっさと攻略してコアを潰すべきなのかで街中が大論争になるものだと思っていました」

「本当はその認識の方が正しいんですけどね。なんだかんだでショイサナの冒険者さんは、魔窟以外の方々でもそういう一般常識からは徐々にズレていってしまうみたいです。ここで実績を積んで故郷に戻った方の多くは、色々な事に対する認識の差が大きすぎて慣れるまで大変だって口々に言われるそうですし」


 そうだ。それこそがアッシュがわざわざショイサナまで来て冒険者になろうと考えた理由であった。ショイサナとそれ以外の地域の冒険者ギルドでは、舞い込んでくる依頼の質も量も全く異なっており、ショイサナで鍛えられた冒険者は、ショイサナでは中堅以下といったレベルだったとしても他の地域に行くと第一線級に数えられる程練度が違う。

それは、最早冒険者たちの間では常識にまでなるほど有名な話であり、色々な街を転々としてきたアッシュがそのどこでも耳にした話でもあった。だからこそアッシュも、冒険者になるなら中途半端ではなく、最初からショイサナでしっかりとした経験と実績を積み重ねたいと考えわざわざこの街までやってきたのだ。


「やっぱりショイサナは特別なんですね! やっぱりわざわざここまで来てよかった……!」

「ふふ、アッシュさんもドルカさんのことあれこれ言いながら、やっぱりわくわくしてらっしゃるんですね。年齢の割に落ち着いているように見えていましたが、そうやってはしゃいでいると普通の男の子みたい」


 急に年下の子ども扱いをされてしまったアッシュは、顔を赤くしながらもここに来るまでに抱いていた思いを明かすついでに、借金の肩代わりを頼んだドルカの様子を見て思いついたことをお願いしてみることにした。


「恥ずかしいですけど、なんだかんだ冒険者を夢見てここまでやってきましたから。そうだ、借金の肩代わりまで対応してくれるってことは、手持ちのお金を預けることもできますよね? 今までコツコツ貯めてきたお金なんですけど、なんだかこの街に来てから物騒な話しか聞かないので預けておきたいなって」

「わかりました。その手続きも合わせて行いますね。金額はいくらになりますか?」

「そうは言っても手持ちに少しは残しておきたいので……。キリよく50万ペロだけお願いします」

「あら、本当に今まで頑張って貯金されてきたんですね。しっかり預からせて頂きます。」

「お願いします!」


これまでの生活で少しずつ貯金してきたお金を渡したアッシュは、一枚一枚丁寧に数えていくエリスを眺めながら、これまでの生活を思い返すと同時に、これからの冒険者としての生活に思いを馳せるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


説明回につきドルカが大人しくしていた関係で笑い要素が少ない回でした。

次話では1話分ため込んだドルカがいつも通りの混沌を提供する予定です。


そんな次話の投稿は本日23時の予定です。

よろしくお願いいたします。

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