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第九十話 炸裂! 合体必殺技

「アッ君! 私決めた! これ! この壁を剣にするっ!」


 初代巫女が築き上げた封印。聖域との境としてみだりに侵入しようとするものを拒まんとする壁を殴り続けて数分。いくら殴ってもびくともせず、どう足掻いても壊せないと悟るや否やそんなことを言いながら壁に頬ずりを始めたオリビアを冷ややかな目で眺めながら、アッシュは言った。


「壁を剣にするってどういうことだよ……」

「いいことオリビア? この封印は頑丈な材質で出来てるから堅いんじゃなくて、そういう術式によって守られているだけのただの壁なの。魔力が尽きてしまえばただの土だし、そもそもこの封印は大地に固定して術式をくみ上げたからこそ実現できるものなの。どう足掻いても剣にはできないわよ?」

「ううぅううぅううぅう……! いくら殴っても壊れないのに、こんなの初めてなのにぃっ……!」


 嬉しそうに壁を殴ってうっとりした表情で壁に頬ずりして絶望胸に抱いて蹲ってと目まぐるしく感情が切り替わるオリビアをよそに、アッシュはマヤリスに話しかける。


「それで、この封印どうやって解けばいいんだ……? まさか、宝の地図まで残しておいて未来永劫誰も立ち入らせないレベルの封印ってこともないだろ?」


 そのアッシュの問いかけに、マヤリスはオリビアが壁を殴っている間に検分した術式の構成から、わかる範囲での見解を述べる。


「私もこの手の封印は専門外だから推測にはなるのだけれど。この手の封印は外から解くための『鍵』を用意しておくのは定石のはず……。そもそもドルカちゃんのひいおじいさまが持っていたっていう地図を描いたのも初代勇者かその仲間たちのはずで……。何故ひいおじいさまが手にすることになったのかしら……?」

「『鍵』、か……。なあドルカ。そのお前のひいじいさんが持ってたっていう宝の地図は、どういう経緯でお前のひいじいさんのものになったんだ? その『鍵』について宝の地図に書いてあったりはしなかったのか?」


 ひたすら壁を殴り続けるオリビアを応援することに早々に飽き、大根でお手玉遊び……というかドルカが正面に突き出した両手のひらの上からリズミカルにジャンプして空中でポーズを決めて反対の手のひらに着地するという曲芸じみた遊びをしている大根達を見てきらきらと目を輝かせてジャグリングをしている気分に浸っていたドルカにアッシュが話しかけると、無情にもドルカは一生懸命ドルカの顔の前まで飛び上がって決めポーズを取っていた大根達を一瞬でほっぽり出してアッシュのもとに駆け寄ってきた。


「なになにー! ひいじーじの宝の地図の話ー? えっとねーあれはねー」


 決めポーズを決めたまま切なそうにぷるぷると震えて地面に落ちていく大根達を気にも留めず、ドルカは嬉しそうにアッシュにすり寄りながら話し始める。果たして大根達はあの扱いで本当に幸せなのだろうか。


「あの地図はねー、ひーじーじが昔ギャンブルで失敗してどうしようもなくなっちゃった人にお金と交換してあげたものなんだって! なんかひーじーじがいっぱい儲かってるの見て自分も自分も! って真似して真横で失敗してたのを見て流石に申し訳ないなって思ったから助けてあげたんだってひーじーじ言ってた」


 そんなことはお構いなしに続けたドルカの言葉は、アッシュとマヤリスに冷や汗を流させるには十分すぎる内容であった。


「……なあ、マヤリス。今の勇者って先々代の勇者が借金山ほど抱えたせいで屋敷を手放すことになったって言ってたよな」

「……言っていたわね」

「……ギャンブルで失敗したせいだって言ってなかったっけか」

「……言っていたわね」


 つまるところ、ドルカの言葉が真実なのであれば……。


「先々代の勇者、お前のひいじいさんのギャンブルの勝ちっぷりに当てられてやらかしてんじゃねぇか!」

「しかもそれ、多分ディアボロスがまだ賭場の元締めとして潜伏していた頃よね? ドルカちゃん共々なんでイカサマ上等、マフィアが元締めの賭場でバカ勝ちして無事に帰ってこれてるのよ……」


 言うことを言って気が済んだのか、再び大根の方に向かうドルカであったが、流石にマンドラ大根達もあの流れでほったらかしにされたことでちょっと拗ねたらしい。というか、地面に投げ出されたことで土埃にまみれて汚れてしまったのが悲しかったようである。


「アレクサンダー……? アレクヨンダー? なんで逃げるのー? ねえってばー……」


 とてとてと捕まえようとするドルカの手をすり抜けながらアッシュの下にすり寄ってきた大根達は、5体一斉にわちゃわちゃと何やら身振り? 手振り? でアッシュに何かを伝えようとする。


「なんでよー! 私と一緒に遊ぼうよー! あっそうだ! さっき他の大根達とやった奴! ユグドラスティックでかっ飛ばす奴! あれで遊ぼ! 遊ぼーよー!」

「おいおいどうしたお前ら……。もしかして、身体を綺麗にして欲しいのか……?」


 大根達の一生懸命な訴えは奇跡的にアッシュに通じたらしい。足? や葉っぱに付いた土埃を一生懸命にアッシュに訴えていた大根達はアッシュにわかってもらえた喜びに打ち震えて嬉しそうに葉っぱと葉っぱを絡めて抱き合うようにぷるぷると震えている。


「……アッシュちゃん、なんで大根の気持ちがわかるの?」

「いや、だってこいつら一生懸命汚れた場所をアピールしてたし……。しょうがないな、どうせ魔力はドルカに頼めば回復し放題だし、水を出してやるか。――『ウォーターボール』」


 魔法の詠唱を始めたことで、アッシュの突き出した手のひらの前に魔力が渦を巻いて集まっていき、人間の頭より一回り大きいほどのサイズの球体へと形を成していく。その渦巻いた魔力のうねりがみるみる内に水の性質を帯びていき、淡い水色の光を帯び始める。


「ほらほらー! 見てみてアレクサンダー! 私のこのスイング! スウィング! 一緒に大空をかっ飛ぼうよー!」


 初めてアレクサンダー達に無視をされて焦ったドルカが、必死になって大根達にアピールをするべくぶんぶんとユグドラスティックを振り回し始める。


「おいドルカ、危ないからそんなもんこんな近くで振り回すんじゃない! そんなことよりちょっと鍋か桶でもホールディングバッグから出してくれよ」

「え?」

「うわっあぶねぇ! ……え?」


――バシャン!


ユグドラスティックをフルスイング中に話しかけられたことで、ユグドラスティックを振り回したまま振り返ったドルカの、その振り抜いたユグドラスティックの先が、アッシュの作り上げたウォーターボールに直撃する。

 いくら殺傷力の低い水魔法とはいえ、目の前で発動すれば爆ぜた水が四方八方に飛び散って衝撃位は受ける。咄嗟に目をつぶったアッシュであったが、一向に水がかかる様子がない。


「……あれ? っておい、なんだよそれ……!?」


そう、アッシュが声を漏らしたのも無理はなかった。


「うぉー! なんだこれ、なんだこれー!」


 本来魔法とは、非常に不安定で指向性の無い空気中に漂う魔力を一点に集め、詠唱によって任意の属性を帯びさせ、対象にぶつけるなどの衝撃を受けることでその属性を発現させるものである。すなわち、ドルカの振り抜いたユグドラスティックがアッシュの練り上げた魔法にぶつかった時点で水魔法が発動し、辺りが水浸しになるはずであったのだが……。


「なにこれ……。世界樹の魔力がアッシュちゃんの魔法を飲み込んで……? いや、アッシュちゃんの作った魔法へと更に魔力が流れ込んでいく……?」


 恐る恐る目を開いたアッシュの目の前にあったのは、アッシュの制御から離れ、ドルカの掲げた麺棒(ユグドラスティック)の先端、ドルカが露店でうっかりはめ込んでしまって取れなくなってそのままにしていた空の宝石ホルダーの先でどんどんと巨大化していく水魔法の姿であった。


「そういうこと……! アッシュちゃんの魔力の波長はドルカちゃんの腕輪の効果でドルカちゃんと、ひいては世界樹の波長と完全に一致している。本来であればアッシュちゃんの魔法とこの麺棒が接触したことで衝撃を受けて魔法が発動すべきところが、麺棒から流れ込む膨大な魔力によって無理やり抑え込まれ、むしろその魔力を吸収して巨大化したんだわ……!」

「うひょー! 見てみてアッシュ君! すごい! すごいぞー! うぉー!」



 マヤリスが冷静に考察する間にもどんどんとアッシュの練り上げたウォーターボールは巨大化していき、人の頭より一回り大きい位だったものが二回り、また一回りとどんどんと大きくなっていく。


「アッ君、ドルカちゃん、ちょっとそれ危ないかもだよ……っ!」

「ど、どうすればいいんだ!? おいドルカ、そのサイズの魔法はただのウォーターボールとはいえ流石にヤバい! これ以上大きくなる前に、その辺の壁に向かってでいいから放て!」


 魔法の威力は、その魔法に込められた魔力に比例してどんどん増していく。人の頭大のサイズであったアッシュのウォーターボールが水を辺りにまき散らす程度であっても、この大きさの水魔法が一体どの程度の威力になるのかは全く以て予測が出来なかった。


「放つ? 放つってどうやるのー?」

「ええと、ええと……! そうだ、振り回せ! 振り回せば制御が外れて吹っ飛んでいくはずだ!」


 自分が初めて魔法を発動させた時、手のひらからどうやって放てばいいいのかわからなずに焦ってぶんぶんと手を振ったら魔法が彼方へと飛んでいった時の事を思い出したアッシュが、ドルカに向かってそう叫んだ。


「わかったー! ちょいやーっ!」

「あっちょっと待ってドルカちゃん! その方向は……!」


――ブォン!


 このアホ娘は何故よりによって封印の施された壁に向かって一直線に魔法を放ってしまったのか。寸分違わず壁に向かって吹っ飛んでいった巨大な水魔法が、初代巫女の施した封印に衝突し、爆ぜるかと思ったその瞬間。


――キィン!


 何故か発動せず、泡が弾けるようにして魔法が消える。それと同時に鳴り響いたのは、まるで何かが解き放たれたような甲高い音。


「世界樹の魔力……。初代巫女の聖域……! 勇者の魔力は、世界樹と同じく女神によって祝福された聖なる力……! 鍵が、鍵が開いたわよアッシュちゃん、ドルカちゃん!」

「あぁぁああぁあぁあ! 私の剣! 私の剣になるはずの壁が! 壁がぁああぁあっ!」

「うひょー! 必殺技だ! 私とアッシュ君のスーパーミラクル合体技の誕生だー! うひょー!」


――このアホの娘は、どこまで運命に愛されているのだろうか。


 あっけなく解かれてしまった封印を前に三者三様に驚きを見せる仲間達を横に、アッシュは、ただただ呆然と立ち尽くすのであった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


次話の投稿は近日中の予定です。

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ぜひぜひよろしくお願いいたします。

twitter@MrDragon_Wow

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