第八十九話 オリビアお姉ちゃんVS壁
お久しぶりです……!
ピクシブで新しい創作を始めてグッズを作ったりラインスタンプを作ったりしている内にすっかり更新が滞ってしまってすいませんでした……!
「ってことは、この先に宝が隠されてるってことか……?」
「あくまでそう考えるのが自然、ってだけだけれど。……でも、その確率は高いと思うわぁ。流石の初代勇者様でもこの難易度のダンジョンをそうやすやすと攻略できたとは思わないし。仮にこのルート上に宝がなかったとしても、宝が隠されているルートには初代勇者様の痕跡が残っていると考えた方が自然よねぇ」
そう言ってマヤリスは、恐らく先ほどこの道を通ってきたアレク達が目ざとく見つけ、蔦を剥がしたと思われる壁をそっと撫でる。
「ううぅううぅうう……。……この道を進むの? この先、魔物の気配がほとんどしない。きっとアレクさん達がやっつけてくれたんだと思う」
つい先ほどまで蹲って泣いていたオリビアであったが、少しでも先輩冒険者っぽいことをしてアッシュ達からの株を上げることを思いついたようで、そんなことを言いながらちらちらとアッシュの様子を伺っている。
「じゃあ、この道を進んでみるってことでいいんだな?」
そんなオリビアに一々突っ込むのも面倒になったアッシュがそういうや否や、ドルカが嬉しそうに叫んだ。
「この道をまっすぐだね、わかった! うひょー! お宝は私のもんだー!」
「あっこら何故走り出す! 気配がしないって言っても魔物がいる可能性はあるんだぞ! おい! 待てこのアホ!」
ろくな装備も整っていない新人冒険者などほんの一撫でで即死に至りかねない程強力な魔物達がひしめくダンジョンを、何のためらいもなくピクニック気分で全力疾走し始めたドルカを、アッシュは必死の形相で追いかけようとしたのだが、その瞬間に『ビュン!』と自分の隣をオリビアが風のように駆け抜けていき、あっさりとドルカの首根っこを捕まえる。
「もうっ! ドルカちゃんダメだよダンジョンで勝手に走り回っちゃ! がれきとか木の根っことかいっぱいだから、転んだら危ないでしょ!」
「そこじゃねぇよ! 魔物だ魔物! もし宝石獣にでも見つかったらオリビアやマヤリスと違って俺達は終わりだろうが!」
二人に追い付いたアッシュは、斜め上にずれた注意をするオリビアに全力で突っ込んだのだが、何故かドルカもオリビアもピンとこないといった不思議な顔をしているままであった。
「なんでピンとこない顔してるんだよお前らは!」
「やだなぁアッシュ君、魔物はリビ姉がやっつけてくれるから大丈夫に決まってるじゃん!」
「そうだぞアッ君! 警戒を絶やさないことは大事だけど、わたしとオリビアがいる限り二人が魔物にやられることは絶対ないから大丈夫っ!」
そんな言葉を真面目に返されて答えに詰まってしまったアッシュの後ろから、マヤリスが笑いながらフォローを入れる。
「くすくす……。二人とも、意地悪はやめてあげなさい。アッシュちゃんはね、ただただドルカちゃんが大事で心配になっちゃっただけなんだから。アッシュちゃんは、何かがあった時に人任せじゃなくて自分が助けに入るつもりで、自分の手の届く範囲にドルカちゃんがいなくなって不安になっちゃっただけなの。ね、アッシュちゃん?」
「うぉー! アッシュ君、私のことそこまで……! うぉー! これは結婚だ。結婚しかない……!」
マヤリスめ、フォローするふりして人のことからかいやがって……!
ドルカのことをそこまで大事に思っているかどうかはさておき、あれだけ前を走っていたドルカに一瞬で追い付けるオリビアがいながらつい自分の手の届く範囲という感覚でドルカを窘めてしまったことは事実で、その気恥ずかしさからアッシュは思わずドルカ達から背を向け、壁の方を向いてしまった。
「アッシュ君! うぉー!」
「あっ馬鹿いきなり飛びつくな! うわっ!」
――ガサッ! ガラガラガラッ!
ドルカに飛び乗られて思わずたたらを踏んだアッシュは、咄嗟に蔦を掴んで体勢を整えようとしたのだが、その蔦がそのままずるずると、張り付いていた壁ごと剥がれ落ちてしまったのだ。その勢いで倒れそうになったアッシュとドルカを、オリビアが素早く抱えて後ろに下がらせ、崩れ落ちた壁から離れさせる。
「ドルカちゃん、流石……」
「この蔦、この横穴を隠すために人為的に生やしたもの……? ということは、このダンジョンの壁に生い茂る蔦、500年の間にここから広がっていったものだったのかしら……」
そんな二人の声を聞いて、顔を上げたアッシュが目にしたものは、本来壁があるべき場所にぽっかりと空いたひび割れのような、人が余裕で入り込めるサイズの横穴であった。
冷静に考察を始めるマヤリスに、驚きとも呆れともつかない顔で立ち尽くすオリビアを見て鼻高々にドヤ顔をし始めたドルカを見て、アッシュもまた興奮を隠せずにいたが、だからこそ言わずにはいられなかった。
「こんな所に横穴が……! いや、でもちょっと気が早くないか? 隠されていたように見える横穴が見つかったってだけでまだこれが本当に隠し場所とは限らないだろ」
「……それが、本当に当たりみたいよぉ?」
壁の蔦を調べ終わったマヤリスが、横穴を覗いてすぐに、アッシュ達にも中を覗くよう顎でしゃくって見せる。
「うぉー! なんだこれ! なんだこれー! かっこいー!」
「すごい……。全然魔法のことわからないわたしでもものすごく高度な何かが使われてるのがわかる……」
そこにあったのは、ダンジョン内の壁の材質とは質感の異なる、白い壁。その壁いっぱいに広がる淡い光を帯びた線で描かれた不思議な紋様。その両脇には、壁に描かれた紋様によく似た模様が細かく刻まれた柱が刺さっており、よく見るとその柱にもうっすらと光が帯びているのがわかる。
「なんだ、これ……?」
「封印……というよりこれはもう聖域ね。本来少なからず漏れ出てもおかしくないはずの魔力が微塵も感じられないのは流石初代勇者と共に魔王と戦った伝説の巫女、といった所かしらぁ? もしほんの少しでも魔力が漏れ出ていたら宝石獣や宝石樹に取りつかれてあっという間に封印が解けておしまいだもの。500年もの間このレベルの封印を維持する技量……恐れ入るわぁ」
そう言いながら横穴に入っていくマヤリスに、慌ててアッシュ達も続いていく。横穴の中に入ったことで分かったのだが、この横穴は通路というよりは小部屋のような造りになっていたらしい。横穴の丁度正面に封印が施された壁が淡く光っており、それ以外は真っ暗闇となっていたので見えていなかったが、ライトの魔法で照らしながら入ってみると、思ったよりも広い空間がそこには広がっていた。
「見て……? ここ、ご丁寧に石で囲んだ焚火の跡があるわぁ。こんな場所にこれだけしっかりとした野営の痕跡……。流石の巫女様も、パパっと封印を施しておしまいというわけにはいかなかったのね。数日、下手したらもっと長い時間をかけてこれだけの聖域を築き上げた可能性があるわねぇ」
500年前に何があったのか。この先に初代勇者たちは一体何を隠したのか。そんなことに想いを馳せていたアッシュとマヤリスの前を、オリビアがつかつかと通っていき、聖域によって封じられた壁に近付いていった。
「オリビア、どうしたんだ……?」
――ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
「うーん、結構本気で殴ったんだけどなぁ……。流石にもうちょっと本気出さないとだめかぁ」
「えっ……?」
壁に近付いていったオリビアは、その奥に通路が隠されているであろう、静謐な雰囲気を称えた壁の紋様の丁度ど真ん中に向かって腰の入った重い正拳突きを繰り返し始めたのだ。
「おぉーかっこいー! リビ姉いきなりどうしたのー!」
「簡単よドルカちゃん! この壁の奥にはねっ、お宝があるのっ。だからわたしはこの壁を壊すのっ! 覇唖ッ!」
――ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
「……なあ、あれ止めなくていいのか?」
「……ほっときましょ。あのレベルの聖域、いくらオリビアでも物理攻撃で何とかなるものじゃないわぁ。飽きたらやめるでしょきっと」
――ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
「うぉー! 頑張れ! 頑張れリビ姉ー!」
「任せてドルカちゃんっ! ウォアァアァッ!」
――ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
500年という歳月を越え、静謐な雰囲気を称えた聖域と、初代勇者の痕跡。その風情を全て台無しにする鈍い打撃音の中、アッシュとマヤリスは一心不乱に壁を殴り続けるオリビアを眺めているのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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